連載『lit!』第61回：デュア・リパ、オリヴィア・ロドリゴ、Latto…グローバルポップの中で存在感放つ女性アーティストたち

　音楽フェスティバルの季節がやってきた。少し前の話になってしまうが、昨年3月の英国メディアBBCによる「2022年の英国音楽フェスティバルのヘッドライナーのうち、女性はわずか13％のみ」という報道（※1）が話題になった。これは英国の多くの音楽フェスが2022年までに男女比を半々にすると宣言していたのにもかかわらず、その目標が全く達成されていないことを受けての問題提起だった。もちろんヘッドライナーが全て女性となったイベントもあったように、完全に進歩がなかったわけではない。日本を含めたフェスの現場や音楽シーン全体、そして本連載においても、女性アーティストの方が優勢に思えることが増えているのは確かだ。また、K-POPグループのNewJeansによる新作EP 『Get Up』が全米チャートで初登場1位を獲得したように、女性グループの躍進も顕著である。この時代に性別で分けて論じることの不毛さや後ろめたさを自覚しつつも、今回の「lit!」では、グローバルポップの中で存在感を放つ女性アーティストの注目作を扱おうと思う。

　まず注目したいのが先ほど触れたNewJeansに次いで全米アルバムチャートで2位となった、映画『バービー』のサウンドトラック『Barbie The Album』だ。本作の総指揮として、ブルーノ・マーズとの共作でも知られるプロデューサーのマーク・ロンソンと『バービー』の監督グレタ・ガーウィグ自身が関わっている。ビリー・アイリッシュやデュア・リパといったメインストリームのアーティストに、本連載でも紹介したラテンシンガーのカロル・Gや、「Boy’s a liar Pt.2」のアイス・スパイスとピンクパンサレス、そしてK-POPグループのFIFTY FIFTYなど、現行の音楽シーンでまさに今活躍中のアーティストが幅広く多数参加している。「サウンドトラック」ではなく「アルバム」というタイトルを打ち出したのも頷ける豪華さだ。しかし、各アーティストの個性やジャンルがそのまま反映されているため、アルバム作品としては当然ながら散漫に感じる。ただし、ジャンルの混交が「普通」となった2020年代においてその散漫さは奇異なものではない。むしろ、女性アーティストの盛り上がりといった点も含め、タイミングや文脈が上手く交差した稀有な作品だといえるだろう。

　オリヴィア・ロドリゴは約2年ぶりのアルバム『Guts』の9月リリースを発表し、新曲「vampire」を先行リリースした。オリヴィアは2021年のデビューアルバム『SOUR』でまさに時代の顔となったアーティストだ。また、「good 4 u」などのポップパンク調の楽曲をヒットさせ、2020年代のポップパンク再流行を象徴するような存在でもある。「vampire」は、そんなオリヴィアが次の一手としてどのような方向性の一手を繰り出してくるのか、非常に注目度の高い状況でリリースされた。曲調としては、記録的な大ヒットとなったデビューシングル「drivers license」のようなピアノバラード曲として始まるが、徐々に激しく加速し、余韻を残して終わるドラマチックな展開となっている。重圧や期待に十分過ぎるほど応え、ポップスターとしての成長をしっかり見せつけた一曲である。

　オーストラリア出身のベテランシンガー、カイリー・ミノーグも9月に新作アルバムのリリースを発表している。その16作目となる『Tension』からの先行シングル「Padam Padam」は世界各国でヒットし、特に全英チャートでは1980年代から2020年代までの全年代においてトップ10にランクインという大記録を打ち立てることとなった。中毒性の高いビートに乗せて繰り返される「Padam」という語は、心臓のドキドキを表す擬音語である。アリアナ・グランデが、7月1日にロンドンのプライドウィークエンドをこの曲で祝福したように、LGBTQコミュニティからの支持も厚く、今夏のクィアアンセムになっているようだ。5月のオリジナルバージョンの発表以降、さまざまなバージョンがリリースされており、オーストラリア人DJ・プロデューサーのHAAiによるリミックスなども公開されている。