YOASOBIはなぜ時代の象徴になり得たのか? 日本初のビリオン再生、国内外での大規模ライブ……前人未到を更新する歩み
2020年代の音楽シーンの“主役”は、YOASOBIだ。
そう言い切れるだけの現象を、YOASOBIは巻き起こしてきた。ヒットチャートを席巻し、海外でも支持を広げ、J-POPの新しいスタンダードを作り上げてきた。特に今年の快進撃は目覚ましく、「アイドル」は2023年を代表する1曲となり、9月に放送を開始したTVアニメ『葬送のフリーレン』(日本テレビ系)オープニングテーマの「勇者」も早速オリコン週間デジタルシングルランキングで初登場1位を獲得。YOASOBIにとって通算13作目の1位となった。
10月4日にリリースされた3rd EP『THE BOOK 3』は前作から約1年10カ月にわたるその足跡をまとめた1枚だ。リリースを機に、改めて「小説を音楽にするユニット」YOASOBIの何がスペシャルなのか、彼らがどのように今の時代を代表しているのかを紐解きたい。
YOASOBIは2019年11月にデビュー曲「夜に駆ける」のMVを公開し活動をスタートした。メンバーのAyaseとikuraやプロデューサーの屋代陽平と山本秀哉といったスタッフのインタビューでも多く語られていることだが、この時点でのYOASOBIはあくまで小説投稿サイト「monogatary.com」の大賞作品を楽曲化するという企画ありきのユニットだ。当事者も含めて誰もその後の成功を予測していなかった。
しかしこの曲が全ての起点になった。異例のブレイクを果たした2020年だけでなく、その後もロングヒットを続け、2023年9月13日にはストリーミング10億回再生を突破。日本初の“ビリオンヒット”となった。
その要因となったのはあくまで楽曲の持つ力だろう。2020年代は、それ以前の指標だったCD売上枚数ランキングに代わってストリーミングサービスの再生回数がヒットの基準になった時代だ。聴かれ続けることに意味がある。そういう、ヒットの指標の変化を象徴する1曲にもなった。
9月21日には10億回突破を記念して「夜に駆ける - From THE FIRST TAKE」の音源もリリースされた。2020年5月にYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」で公開された動画は、コロナ禍の外出自粛期間に彼らの名前を広く世に知らしめるきっかけになった。改めて当時が時代の変わり目であったことを実感する。
2021年から2022年にかけてもYOASOBIは飛躍を続けてきた。武道館での初有観客ライブ、大型フェスへのヘッドライナーでの初出演、直木賞作家とのコラボレーションなど、様々なトピックに満ちた活動を繰り広げてきた。
それでも2023年に入ってからのYOASOBIの怒涛の活躍ぶりには、正直、驚かざるを得ないものがある。何より「アイドル」は、Billboard JAPAN総合ソングチャート「JAPAN Hot100」で21週連続1位、米Billboardの「Billboard The Global Excl. U.S.」でも首位を獲得と、国内外で爆発的なヒットとなった。
筆者は10月4日に発売された『別冊カドカワ 総力特集 YOASOBI』でAyaseへのインタビュー取材を担当した。楽曲やこれまでの活動についていろいろと語ってもらったのだが、とても興味深かったのは、彼が「アイドル」を作っていた段階で「焦りがあった」と語っていたことだった。傍からは順風満帆に見えたYOASOBIだったが、彼自身は危機感を感じていたようだった。
「個人的な感覚としては『アイドル』である程度の結果を出せないと結構しんどいなっていうタイミングだったので。『【推しの子】』という作品の注目度もあるし、個人的には面白いことを詰め込めたと思っていたし、曲を作る時間も結構かけられた楽曲だったんです。1年くらい触っていたので。反響があってほしいとは思ってました。ちゃんと狙ってホームランを打つという気持ちで作ったところもあったので。これが空振りになったら、自分自身の自信の喪失にもつながるし、YOASOBIのいろんなプランニングの中でもかなり痛手になるだろうと思っていました」(※1)
そして結果的に、この曲はちゃんと“ホームラン”になった。Ayaseは作曲者として「メロディに自信があった」と語り、それがこれだけ多く聴かれた理由になったのではと話している。