YOASOBI Ayaseは小説を歌詞に昇華する“言葉の錬金術師” 「アイドル」「夜に駆ける」に感じる原作の読解力と編集力
4月から日本各地のアリーナをまわったツアー『YOASOBI ARENA TOUR 2023 “電光石火”』は全公演ソールドアウト、11月にはColdplayワールドツアー『ミュージック・オブ・ザ・スフィアーズ・ワールドツアー』の日本公演へのゲスト出演も決定し、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで音楽シーンの先頭を走っているYOASOBI。6月19日現在までにストリーミング累計再生回数2億回を突破した「アイドル」は、アニメ『【推しの子】』のオープニング主題歌としてその作品性を落とし込んだ歌詞が大きな話題を呼んでいる。本稿ではYOASOBIのコンポーザーとして作詞・作曲を担当するAyaseの詞にフォーカスを当て、その魅力を紐解きたいと思う。
YOASOBIという音楽ユニットの最大のコンセプトは“小説を音楽にする”だ。そのためすべての楽曲に原作となる小説があり、原作小説がクレジットされている。そんなYOASOBIのデビュー曲であり、その名前を世間に轟かせたきっかけの曲「夜に駆ける」。その原作となったのは星野舞夜の短編小説『タナトスの誘惑』だ。同作では、自殺願望者であり4度目の投身自殺を図る“君”と、“君”が自殺を図る度に呼び出される“僕”。“君”の自殺を止めるつもりだった“僕”だったが、やがて“僕”もまた死の魅力に取り憑かれてしまう、という物語が描かれる。
『タナトスの誘惑』は、“僕”に“君”からのLINEが届く描写から始まる。「さよなら」という4文字で“僕”は意味を理解し、“君”のいるマンションの屋上へと向かう。〈「さよなら」だけだった その一言で全てが分かった〉という「夜に駆ける」の1番Aメロの歌詞は、『タナトスの誘惑』導入部そのものだ。原作小説からの大胆かつシンプルな引用が、楽曲内での“僕”と“君”の関係性を分かりやすく示しつつ、小説と楽曲のリンクをより強くしている。
クラシエ ホームプロダクツ「いち髪」のCMソングとして話題を集めた「好きだ」。この曲の原作小説は4人の直木賞作家による小説集『はじめての』に収録の森絵都『「ヒカリノタネ」 はじめて告白したときに読む物語』。高校生の坂下由舞は幼馴染の原田椎太へ長い長い片想いを続けている。椎太への4回目の告白を成功させるため、過去3回の告白を清算しようと由舞がタイムトラベルするストーリー。
〈初めて想い伝えた十年前 あまりにも無邪気だった 次の五年前も軽すぎたし 次の三年前もそうだ〉という2番Bメロの詞は『ヒカリノタネ』で由舞が椎太に告白したタイミングを表している。6歳の告白、11歳の告白、13歳の告白、そして現在地点である16歳。こうした原作を知らないリスナーは何気なく聴いてしまうようなフレーズが、実は原作と強烈にリンクしているのが、Ayase流の作詞術と言えるだろう。