YOASOBIはなぜ時代の象徴になり得たのか? 日本初のビリオン再生、国内外での大規模ライブ……前人未到を更新する歩み

YOASOBI、時代の象徴になる歩み

 2023年のYOASOBIを語る上では、ライブアクトとしての彼らがとても強靭でタフなチームになっていったということも見逃せないポイントだ。Ayase、ikura共に、4月から6月にかけて開催された初のアリーナツアー『YOASOBI ARENA TOUR 2023 “電光石火”』が大きな成長の機会になったと語っている。筆者はさいたまスーパーアリーナ公演を観たが、観客を一つにするパフォーマンスの強度がそれ以前と段違いのものだったのが強く印象に残っている。

YOASOBI「アイドル」(Idol) from 『YOASOBI ARENA TOUR 2023 "電光石火"』2023.6.4@さいたまスーパーアリーナ

 それを経た上で8月に初のLAでのライブがあった。88rising主催の『Head In The Clouds Los Angeles』への出演を「手応えがあった」とAyaseは振り返っている。アリーナツアーの充実感を持ったままステージに臨んだことも、その成果に結びついたはずだ。

 夏フェスのステージも相当な熱気だった。筆者は満員の『SUMMER SONIC 2023』で目撃したが、Ayaseとikuraの自信と存在感、バンドメンバーとの結束、演出も含めて、圧倒的なステージパフォーマンスには大きな説得力があった。

 そして9月29日には「勇者」がリリースされた。公開から2週間も経たずにYouTubeでのMV再生回数が1000万回を突破するなど(10月11日時点)、すでに大きな反響を巻き起こしているこの曲。ポイントになっているのは、どこか異世界の旅を彷彿とさせるようなエキゾチックな雰囲気の音世界だ。スパイス的に入っているボイスサンプルの音も印象的だが、これは一度楽曲を作り上げたあとにAyase自身が納得いかずにアレンジをやり直した過程で加わったものだという。

 TVアニメ『葬送のフリーレン』の公式サイトには、原作者・山田鐘人の監修のもと書き下ろされた楽曲の原作小説「奏送」が公開されている(※2)。アニメの前日譚とも言うべきオリジナルストーリーで、“音楽都市”と称される街をフリーレンが訪れたときのエピソードが描かれる。そこに登場するホルンなど管楽器の音色やマーチングバンドの音楽性が楽曲に表れている仕掛けも心憎い。

YOASOBI「勇者」 Official Music Video/TVアニメ『葬送のフリーレン』オープニングテーマ

 『THE BOOK 3』は、その「勇者」や「アイドル」など全10曲を収録した1枚。これまでにリリースした『THE BOOK』『THE BOOK 2』と同じく、パッケージ商品はCDと特製バインダーの仕様による完全生産限定盤となっている。

 『THE BOOK』のシリーズはYOASOBIにとって音楽活動のアーカイブとなるような作品で、今作も基本的には前作から約1年10カ月の間に発表してきた楽曲をコンパイルした内容だ。ただ、配信で音楽を聴くことが当たり前になった時代だからこそ、モノとして手に取る意味のあるパッケージを発売するところに、チームの心意気を感じる。

 『THE BOOK 3』には、2022年2月より始動したプロジェクト「はじめての」から生まれた「ミスター」「好きだ」「海のまにまに」「セブンティーン」も収録されており、それぞれ4人の直木賞作家(島本理生・辻村深月・宮部みゆき・森絵都)が原作小説を書き下ろした楽曲だ。これも、「小説を音楽にするユニット」としてのYOASOBIの大きな達成と言っていいだろう。

 収録曲の中では「アドベンチャー」も見逃せない。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンのキャンペーンのテーマソングとして書き下ろされた同曲は、“パークでの学生時代の忘れられない思い出”をテーマにした一般公募から選ばれたエピソード『レンズ越しの煌めきを』が原作。キラキラとした高揚感を持った楽曲は、筆者が観たさいたまスーパーアリーナ公演でもクライマックスの一つとなっていた。

YOASOBI「アドベンチャー」Official Music Video

 YOASOBIの活動を振り返って改めて感じるのは、彼ら自身の活動と成功が「それまでになかった価値観」の象徴になったということだ。社会とエンターテインメントを巡る状況が大きく変わり、これまでのルールが通用しなくなった2020年代初頭。彼らはそんな時代の閉塞感を突き破るような痛快な存在であり続けてきた。

 そして、おそらく彼らはこの先も新たな地平を見せてくれるだろう。

 11月3日にはBring Me The Horizonがキュレートする新たなフェス『NEX_FEST 2023」への出演、11月6日・7日には東京ドームで開催されるColdplayの来日公演へのスペシャルゲスト出演が決まっている。

 12月から来年1月にかけては初のアジアツアー『YOASOBI ASIA TOUR 2023-2024』も行われる。香港のフェス『Clockenflap」、台湾のフェス『Simple Life」にヘッドライナーとして出演するほか、韓国、シンガポール、マレーシア、台湾での単独公演が決定。来年1月から2月にかけては国内6カ所12公演を回る自身初のZeppツアーも開催される。

 さらに、Ayaseは『コーチェラ・フェスティバル」への出演や、海外でのこれまで以上の活躍も目標として見えてきていると語っていた(※3)。『Head In The Clouds Los Angeles』での実感は、さらなる海外での活動の足がかりにもつながったはずだ。

 YOASOBIは、誰もやったことのない数々の「はじめて」に挑戦し、それを実現させてきた。数字や人気よりも、そのこと自体にYOASOBIの活動の真価があるとも言えるのではないだろうか。

YOASOBI「好きだ」Official Music Video

※1、3:『別冊カドカワ 総力特集 YOASOBI』より
※2:https://frieren-anime.jp/special/novel/

YOASOBI 『THE BOOK 3』JKT
YOASOBI 『THE BOOK 3』

■リリース情報
YOASOBI 『THE BOOK 3』
商品情報:2023年10月4日リリース
完全生産限定盤:5,500円
仕様:CD+特製バインダー
購入URL:https://yoasobi.lnk.to/thebook3_CD
<収録曲>
1. 「勇者」
2. 「Interlude "Awakening"」
3. 「祝福」
4. 「海のまにまに」
5. 「ミスター」
6. 「Interlude "Worship"」
7. 「アイドル」
8. 「セブンティーン」
9. 「アドベンチャー」
10. 「好きだ」

■ツアー情報
『YOASOBI ZEPP TOUR 2024 “POP OUT”』
2024年1月25日(木)東京・Zepp Haneda(TOKYO)
開場 18:00 / 開演 19:00
2024年1月26日(金)東京・Zepp Haneda(TOKYO)
開場 18:00 / 開演 19:00

2024年2月1日(木)北海道・Zepp Sapporo
開場 18:00 / 開演 19:00
2024年2月2日(金)北海道・Zepp Sapporo
開場 18:00 / 開演 19:00

2024年2月8日(木)神奈川・KT Zepp Yokohama
開場 18:00 / 開演 19:00
2024年2月9日(金)神奈川・KT Zepp Yokohama
開場 18:00 / 開演 19:00

2024年2月15日(木)福岡・Zepp Fukuoka
開場 18:00 / 開演 19:00
2024年2月16日(金)福岡・Zepp Fukuoka
開場 18:00 / 開演 19:00

2024年2月22日(木)大阪・Zepp Osaka Bayside
開場 18:00 / 開演 19:00
2024年2月23日(金・祝)大阪・Zepp Osaka Bayside
開場 17:00 / 開演 18:00

2024年3月8日(金)愛知・Zepp Nagoya
開場 18:00 / 開演 19:00
2024年3月9日(土)愛知・Zepp Nagoya
開場 17:00 / 開演 18:00

<券種・料金>
1Fスタンディング/2F指定席 ¥7,700(税込)
2Fファミリー席(着席指定)¥6,600(税込)
※ドリンク代別途

YOASOBI Official Site

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