花譜、“VIRTUAL HUMAN KAF”で開拓するバーチャル表現の新境地 制作者インタビューから紐解く「わたしの声」MVの裏側

花譜、“VIRTUAL HUMAN KAF”登場の意義

 今や徐々に、一般世間への裾野も広がりつつあるバーチャルシンガー。その先駆者のひとりでもある花譜と、プロデューサー・大沢伸一のソロユニット・MONDO GROSSOのコラボ曲として話題を集めたのが、9月6日に配信された「わたしの声」だ。花譜が様々なリアルアーティスト/コンポーザーとコラボする「組曲」シリーズ14作目の本曲だが、9月11日に公開されたMVも、その先駆的な映像が大勢から注目を集めている。

【組曲】花譜×MONDO GROSSO # 128「わたしの声」

 MVにおける最注目点はサムネイルを一見しただけでもわかるように、新たな取り組みとして“VIRTUAL HUMAN KAF”を初起用した映像である点だ。テクノロジーの素となるバーチャルヒューマンとは、現在世界的にも様々な分野で活用され始めているCGキャラクターのこと。実物と見紛うほどのフォトリアルなクオリティが最たる特徴であり、すでにテレビCMや雑誌モデルとしても起用されている、SNSフォロワー100万人超のimmaやYUらがその代表的存在ともなる。そんな技術の活用により誕生し、これまでの花譜というシンガーの存在において最も実像的なシルエットを取るVIRTUAL HUMAN KAF。今年3月に一般公開された彼女の、二度目の仕事が今回の映像なのである。

 同MVは長澤宏宣が監督を務め、CG制作はVFXアーティスト集団 khaki 横原大和が担当。本稿では、両者のメールインタビューと共にMVの制作の裏側を紐解いていきたい。

 VIRTUAL HUMAN KAFの初出演について、おさえておくべき点にはまずひとつ、この起用ならではの“楽曲と映像におけるリンク”がある。横原はCGを制作する上で「シンガー・花譜の内面性が強く伝わってくる曲のため、それがCG制作の工程で失われないよう注意した」「楽曲から孤独や純粋さ、内なるエネルギー感を強く感じ、フルCG映像にもそのニュアンスが入るよう心がけた」と語る。

 また、長澤は「記憶を巡るMVの内容も歌詞が持つ今までの感情や記憶を改めて考え噛み締めるイメージから生まれた。ダンサブルなビートテンポからはオーディオリアクティブな印象を連想し、目を瞑る花譜がいる空間に漂うニューロンのようなラインが音に反応する演出に。またサビ以外の静謐で湿度を感じるメロディ感から、今回のMV全体のやや不穏な雰囲気や、静かな空間で巨大な何かと対峙する不安を表現する画作りのトーンをイメージしています」と語っており、MONDO GROSSOが作詞作曲の上で彼女へ向けたインスピレーションを、大いにMVへと反映させたことが窺える。

 しかし同時に長澤は「今回のMVがVIRTUAL HUMAN KAFの第1弾作品。新たな始まりとして、彼女の『覚醒』『目覚め』をテーマにしたいと思った」「とはいえ表現方法が変わることで、アーティスト活動における彼女自身のパーソナルな部分が変わるわけではない。新しく一新するのではなく、今までの活動経験の蓄積の上にさらに表現方法が増えるイメージ。そう考えた際、新しい身体に今までの記憶を再度インストールした上で覚醒するアイデアが浮かんだ」とも。それを踏まえ、「物語は彼女が生きてきた世界観やモチーフ(教室や都会の街中など)を、ぼんやりとした意識の中で巡る内容に。街も荒廃したものでなくむしろ構築中の意味合いを込めたい旨も、CG担当の横原さんに伝えつつビジュアル化していった」と表現の妙を明かしている。

 確かに新テクノロジーを採用したMVは特筆すべき事柄だが、楽曲自体の位置づけはあくまで、これまで続いてきた彼女の「組曲」シリーズの一環である。そしてVIRTUAL HUMAN KAFという存在は、花譜の新たなアバターの一つであり、「音楽的同位体 可不」のような似て非なる存在というものではなく、彼女の物語の延長線上にあるものと解釈できる。このように一人の人物において、ビジュアル表現を多面的に見せることができるのも、バーチャルアーティストならではの世界観の拡張と言えるだろう。

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