2023.09.22 12:00

花譜、“VIRTUAL HUMAN KAF”で開拓するバーチャル表現の新境地　制作者インタビューから紐解く「わたしの声」MVの裏側

文＝曽我美なつめ

　さらに今回、VIRTUAL HUMAN KAFならではの“既存MVとは異なる表現アプローチ”も見どころのひとつと言える。「バーチャルヒューマンとしての意義や魅力を引き出せるよう気にかけて制作した」という横原は、「通常あとでCG上で修正する部分も、彼女らしさを強く描くためあえて残した」「本人に表情含めた演技をしてもらい、アーティスト・花譜らしさを極力そのままCG上で再現する」といった点を試みたと明かしている。

　また「バーチャルヒューマン以外の作品で、本人の表情まで細かくキャプチャしての再現は通常ない。従来のMVとは少し異なる新たな可能性を感じられるよう、登場する背景なども含めデザインしている。通常の2Dテイストの3Dモデル時では見られなかった歌唱時の歌い方や表情のニュアンスを感じたりと、従来とは違うリアルアーティスト的側面をMVに垣間見て欲しい」という言葉の通り、不完全な生身の人間らしさ、肉感のあるリアル花譜の表情をどこまでVIRTUAL HUMAN KAFへ落とし込むか、という点が大きなこだわりともなった様子だ。

　一般的にバーチャルヒューマンは人間そのものをモチーフに制作されるものだが、VIRTUAL HUMAN KAFは花譜のビジュアルをリアルなタッチで表現するという特殊な例だと言える。横原は「彼女のようなすでに確立された人格と存在をバーチャルヒューマン化するにあたって、具体的な実在人物のリファレンスやビジュアルより声のイメージとキャラクター性からデザインを考えた。通常バーチャルヒューマンは純粋に実在人物と同様のリアルな制作を行うが、今回はバーチャルヒューマンとしてリアルすぎない、という点の注意も。彼女にはすでに多くのファンがおり、皆がそれぞれシンガー・花譜のイメージを持っている。あまりに具体的な誰かの顔になるのは違うと思い、リアルさの中へわずかにスタイライズと抽象化を加え、バーチャルにおける様々な姿の中の一つの可能性というコンセプトでデザインしています」と、VIRTUAL HUMAN KAFを生み出す上で留意した部分を知った上で改めてMVを見ると、制作者側の細部に至るまでのこだわりを感じることができるのではないだろうか。

　そうした横原の意図を受け、長澤は被写体・VIRTUAL HUMAN KAFの撮影に挑んだ。見所については「彼女にとって初のMVでもあるため、しっかり彼女自身を映すこと。そしてシンプルに世界観を観せることを大事にした。khakiチームが制作する上質なCGの世界観や、新たな彼女の表情の可愛さにもぜひ注目して欲しい」と回答している。

　現時点でのバーチャルテクノロジーにおいて、もっとも実在感ある姿での活動をこうして可能にした花譜。思い起こせば彼女は彗星の如く現れた2018年から、バーチャルとリアルを越境する存在、新たなアーティスト像を打ち出す先駆者として、実に多彩な取り組みを今日まで展開してきた。

　VIRTUAL HUMAN KAFが今度どのように活用されていくのかは定かではないが、花譜の表現方法の選択肢の一つとして大きな武器となるだろう。例えばこの姿でのリアル・バーチャルを問わないライブ活動や配信、あるいはメディア露出などにも期待したいところ。前例のないアーティスト活動の拡張を、これからも次々実現させていくのかもしれない。