花譜ら擁するKAMITSUBAKI STUDIOが創出する新たな音楽表現 初主催フェスで提示したクリエイティブレーベルとしての可能性

『KAMITSUBAKI FES ’23』DAY1レポ

 クリエイティブレーベル・KAMITSUBAKI STUDIO主催のフェス『KAMITSUBAKI FES ’23』が、3月30日と31日の2日間にわたり東京・豊洲PITにて開催された。この記事では、30日のDAY1「シンギュラリティのひ」の模様を振り返っていく。

 振り返れば、KAMITSUBAKI STUDIOの発足が発表されたのは、バーチャルシンガー・花譜が活動1周年のタイミングを迎えた2019年10月であり、それ以降、ネット発のクリエイティブレーベルとして次々と新たなバーチャルシンガーやボカロPを含むリアルアーティストが同レーベルを拠点として活動を開始し始めていった。そうしたバーチャルシンガーが一堂に会したDAY1は、これまでのKAMITSUBAKI STUDIOの歩みにおける一つの集大成であったといえる。同レーベルは昨年、花譜のバーチャルシンガー初の日本武道館公演『不可解参(狂)』開催という大きな快挙を成し遂げたばかりであるが、今回の初の主催フェスも、今後のKAMITSUBAKI STUDIOの活躍の可能性を拡張していくための意義深い挑戦となった。

 2日間の幕開けを飾ったのは、この日初めてリアルライブのステージに立ったCIEL。1曲目の「少年漫画」から、CIELの手の動きに合わせて観客が高く上げた手を左右に振っていき、一気に会場全体に熱い一体感が生まれていく。彼女は、「今日は、初めて皆さんの前に立てることを、本当に楽しみにしていました」と喜びを伝え、そのまま快活な疾走感に溢れるロックチューン「窓を開けて」へ。観客が持つペンライトによって青一色に染まったフロアに、彼女の鮮やかな歌声を通して蒼く切実なエモーションが共有されていく。わずか2曲のみのパフォーマンスであったが、観る者に鮮烈な印象を残すステージだった。

 続けて、春猿火のパートへ。冒頭から「いくぞ、豊洲PIT!」とフロアに呼びかけ、鋭いラップとしなやかな歌唱を通して、会場全体に狂騒感を生み出していく。「テラ」では、彼女の音声をもとに制作された音楽的同位体・羽累とのデュエットが実現した。パフォーマンス後、春猿火は、羽累について「これから、まっしろな彼女に、創作するあなたが色をつけてくれることを楽しみにしています」と言葉を残していた。バーチャルシンガーと音声合成ソフト、それぞれの世界の接続を象徴する両者の共演は、KAMITSUBAKI STUDIOならではのもの。こうした共演はこの後の公演において幾度も繰り返して実現していくことになる。ラストは、「百花繚乱」。〈さあ、舞え  歌え  赴くままに〉というパワフルな歌に合わせて、フェス序盤にしてまるでクライマックスのような熱気が生まれていった。

 その熱量を引き継ぐ形でステージに立った幸祜は、立て続けに「Mayday」「閃光の彼方」を披露していく。憂いを帯びたメロディをエモーショナルに歌い上げていく彼女のロックシンガーとしての堂々たる佇まいに痺れる。何より、フロアとのコール&レスポンスも完璧にきまっていた。彼女は「みんなの声を聞くのが初めてなので、感動してます」と、声出しOKのライブに立った喜びを語っていたが、その想いはパフォーマンスを通して観客たちにも共有されていたはず。「Abstractions Void」では英語詞を流麗なロックボーカルを通して響かせ、また音楽的同位体・狐子と共に披露した「ミラージュコード」のアウトロでは、彼女の指揮のもと、観客が高く掲げたペンライトを一斉に回す一幕も。まさに、ライブだからこそ得られる至高の一体感に思わず胸が熱くなる。

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