初音ミクの海外人気はどのように確立された? ジョナス・ブルー、ポーター・ロビンソンらの楽曲に見るボカロとの親和性

初音ミク、海外人気を検証

 いまや日本発の音楽カルチャーを代表する存在となりつつある初音ミクとボーカロイド。初音ミクの海外コンサートシリーズ『MIKU EXPO』の盛況が示すように、日本だけでなく海外でも人気が拡大し、各国でファンが定着している。

 そして、その人気はリスナーだけでなくクリエイターやアーティスト側にも広がっている。初音ミクを用いて制作された海外アーティストの楽曲も少なくない。これまでのボーカロイドの歴史を振り返っても、さまざまな海外アーティストが初音ミクをフィーチャーした楽曲を制作したり、ボーカロイドを使った楽曲をリリースしたりしてきている。特にボーカロイドとは遠い印象を持つ人も多いEDMやヒップホップのシーンにおいても、意外なほどの大物がリミックスやサンプリングの手法で初音ミクの声をフィーチャーした楽曲を制作している。この記事ではそうした楽曲のいくつかを紹介していきたい。

 まずは7月21日にリリースされたジョナス・ブルー「Rise feat. Hatsune Miku (Guiano Vocaloid Remix With Δ)」。

Jonas Blue - Rise feat. Hatsune Miku (Guiano Vocaloid Remix With Δ) (Official Lyric Video)

 この曲は2018年5月にリリースされたジョナス・ブルーの代表曲「Rise ft. Jack & Jack」のボーカロイドリミックス。ボーカルパートは初音ミクが担当している。ロンドンを拠点に活躍するDJ/プロデューサーによるEDMサマーアンセムとボーカロイドの融合が実現した。

 原曲ではトロピカルハウスの爽やかで高揚感あふれるビートに乗せて男性デュオのJack & Jackが歌っているが、このリミックスではGuianoが手掛けたバウンシーなエレクトロビートにボカロPのΔが手掛けたボーカロイドトラックが乗るという構成。ボーカルシンセやボーカルチョップの手法を駆使しているということもあり、クラブサウンドに親和性の強い仕上がりとなっている。

 ZEDD「Spectrum feat. Matthew Koma (livetune Remix feat. Hatsune Miku)」も、EDMの名曲を初音ミクが歌う形でリミックスした楽曲だ。2013年2月27日にリリースされたZEDDのデビューアルバム『Clarity』の日本盤に収録。トラックを手掛けたのはlivetuneで、彼自身がZEDDのファンであることからこのコラボレーションが実現した。

ZEDD - Spectrum feat. Matthew Koma (livetune Remix feat. Hatsune Miku)

 2014年5月には、livetune×初音ミクの楽曲をファレル・ウィリアムスがリミックスするという動きもあった。それが「Last Night, Good Night (Re:Dialed) - Pharrell Williams Remix」。この曲は村上隆監督の映画『めめめのくらげ』主題歌で、MVの監督も村上隆が手掛けている。

Last Night, Good Night (Re:Dialed) - Pharrell Williams Remix

 自らボーカロイドを使った楽曲を発表しているDJ/プロデューサーとして真っ先に挙げられるのがポーター・ロビンソンだろう。日本のポップカルチャーへの深い愛情でも知られる彼は、2014年5月に英語版ボーカロイド「Avanna」を用いた「Sad Machine」を発表。デビューアルバム『Worlds』には代表曲となった同曲に加え「Fresh Static Snow」「Goodbye to a World」という3曲でボーカロイドが使用されている。

Porter Robinson - Sad Machine (Official Lyric Video)

 2023年3月には、ポーター・ロビンソン自身をモデルにしたVOCALOID音源「Po-uta」がヤマハから発売された。自身の歌声を元にしたボーカロイドソフトで、発売にあたってはデモソング「Humansongs」も発表されている。

Introducing “VOCALOID Po-uta”, a Porter Robinson VOCALOID6 Voicebank

 2021年に不慮の事故により急逝したSOPHIEも初音ミクと関わりがある。2015年6月にリリースされた安室奈美恵のアルバム『_genic』に収録された「B Who I Want 2 B feat. HATSUNE MIKU」では安室奈美恵と初音ミクの共演が実現しているのだが、この曲の作詞・作曲・プロデュースを担当したのがSOPHIEなのである。調声はMitchie Mが担当、先鋭的なトラックに乗せて歌姫とボーカロイドキャラクターが共演する楽曲は時代を先取りしていた。

安室奈美恵 / 「B Who I Want 2 B feat. HATSUNE MIKU」Music Video

 海外の大物ラッパーがボカロ曲をサンプリングした例もある。アトランタを代表するヒップホップデュオ、アウトキャストのBig Boiは2017年6月にアルバム『Boomiverse』のリードシングルとして「Kill Jill ft. Killer Mike, Jeezy」をリリース。この曲では日本人プロデューサーAura Qualicが手掛けた「DATA 2.0 feat. 初音ミク」を大胆にサンプリング。全編にわたって初音ミクとラップの融合が見られる一曲となっている。

Big Boi - Kill Jill ft. Killer Mike, Jeezy (Official Music Video)

 さらには、やはり現在のヒップホップシーンを代表するラッパーの1人であるFutureが2022年5月にリリースしたアルバム『I NEVER LIKED YOU』の1曲目に収録された「712PM」でも、この「DATA 2.0 feat. 初音ミク」がサンプリングされている。MVの監督はトラヴィス・スコットだ。

Future - 712PM (Directed by Travis Scott)

 ラテンポップの世界的スターが初音ミク楽曲をサンプリングしている例もある。それが2019年7月にリリースされたResidente & Bad Bunny「Bellacoso」。バッド・バニーとプエルトリコのラッパー/シンガーResidenteのコラボ曲だ。この曲にサンプリングされているのはOtomania「levan Polkka」。ボカロシーン黎明期の楽曲である。

Residente & Bad Bunny - Bellacoso (Official Video)

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