KALMA、オーディエンス一人ひとりと駆け抜けた熱狂のステージ 大合唱によって生まれた『NO BORDER』の新しい姿

KALMA『NO BORDER』の新しい姿

 バンドとしての初心に立ち返るようなミニアルバム『NO BORDER』を携えたツアー『NO BORDER one man tour 2023』ファイナル、この春にメンバーの上京を控えた「北海道のバンド」として最後のワンマン、そしてメジャーデビュー3周年の記念日……3月4日、渋谷・WWW Xで開催されたKALMAのライブは、たくさんの意味を孕むものとなった。しかもこのツアーでは久々に観客の声出しも解禁。すべての状況がビンゴのように揃った一夜、そこでKALMAが見せたものは一言でいえば「すべて」だった。彼らがバンドをやり、音を鳴らし歌を歌い続ける理由、そしてファンが彼らを愛し続ける理由。KALMAがKALMAであるとはどういうことか、このステージを観ればはっきりとわかった。そして言うまでもなく、それはとても美しい光景だった。

 BGMの音量が大きくなり、SEが鳴り響いた瞬間にフロアでは拳が突き上げられる。待ちきれないと言わんばかりの歓声の中、畑山悠月(Vo/Gt)、斉藤陸斗(Ba/Cho)、金田竜也(Dr/Cho)の3人が視線を交わし、バシッと音を合わせる。「ファイナルです。みんなが待ってた夜を、みんなが欲しかった夜を作りにきたよ! 全部見せます、全部あげます、最高の夜にします! 北海道・札幌、KALMA始めます」。畑山の力強い名乗りから3人は「ポシビリティー」を演奏し始めた。畑山の歌に斉藤と金田の2人が声を重ねる。そのまま「くだらん夢」に突入すると、「一番デカい声出して!」という畑山の求めに応じてフロアから歓声やシンガロングが巻き起こる。声出しが解禁されたとはいえ、長くそれができない状況が続いていたこともあって観客のほうが躊躇してしまう――最近ライブではそういう雰囲気を感じることもあるのだが、KALMAのファンにはそんなの関係ないみたいだ。最初から全力で、ステージとフロアのコミュニケーションが繰り広げられていく。

 「ファイナルだから」という理由でショートチューンの「モーソー」を畑山と斉藤が位置を入れ替えたりしながら3回披露すると、ここで投下されたのが「デイズ」だ。この曲でも大合唱が起きる。というか、畑山が歌うのに合わせてオーディエンスもずっと歌っている。すごい。KALMAの音楽がここに集まった一人ひとりの心の中でどれほど大きな存在なのか、フロア全体から湧き上がるような声が物語っている。ギターのチューニングに手間取りながらも突入した「ふたりの海」を終えると、数あるライブの中からこの場所を選んでくれた観客に感謝を伝えつつ、「とことんギターを鳴らすし、俺が一番いい歌を歌うんで。超絶好調です」と宣言する畑山。そして「俺はライブとかでしか返せないからさ。この歌と一緒にどこまでも行こうね」と歌い始めたのは「ペーパーバック」。みずみずしいメロディが疾走感をもって広がっていく。「いや、すごいわ。まだ前半でエモーショナルな気分になってしまいました。誰も置いて行かないから。みんなで楽しい夜にしましょう」。畑山の言葉で、WWW Xはさらにひとつになっていった。

 またしても観客の歌声が鳴り渡った「SORA」を経て「このリズム知ってる?」と久々にライブでやるという「僕たちの唄」へ。イントロのビートから歓声と手拍子が鳴り止まない。〈La La La La La La〉とみんなの声を合わせて盛り上げると、「24/7」を経ての「わがまま」へ。斉藤と金田も参加して食べに行きたい食べものを叫ぶ(斉藤は天丼、金田は町田商店に行きたいらしい)。ステージの中にも外にも、最高のグルーヴが生まれている。「みんなすごいよな。聴かせたいのにみんなのほうが歌がうまい」。そう言っている畑山の楽しそうな表情が印象的だ。

 その最高の空気感はライブが後半戦に入っても変わらない。「友達や恋人に連れられて、今日初めてKALMAのライブ観た人」に挙手を促し、チラホラといるそんな観客のひとりと「普段は何が好きなの?」「名前は?」と会話を繰り広げた畑山は、その人に「次の曲は君に向けて歌うね。ちゃんと聴いてて」と「バンド」を歌い始める。〈君の好きなバンドになりたいな〉と歌うこの曲のピュアすぎるほどピュアなメッセージはきっと彼の心にも刺さったはずだ。そして、そこからは畳み掛けるような展開。「逃げるなよ、少年!」に「隣」を重ねると「みんな、すげえわ今日。みんなの声がデカすぎて自分の声が聞こえなくなった!」と「ねぇミスター」へ。どの曲でもフロアから大きな歌声が巻き起こり、それに負けじとバンドもデカい音を鳴らす。一番シンプルで一番熱いロックバンドとオーディエンスの関係が、ライブをますます特別なものにしていく。

畑山悠月

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