2020年代は「何気ない幸せ」がキーワード? オレンジスパイニクラブ、KALMAら“日常系バンド”の隆盛

 当然ながら、バンドごとに歌のモチーフは異なる。仮に、“恋愛”をテーマにした歌を歌うバンドと括ってみたところで、その描き方は千差万別である。イマジネーションを働かせて、ファンタジー色の強い世界観でそれを歌うバンドもいれば、僕と君というすごく近い距離のことを、宇宙規模の壮大さで描いてみせるバンドもいる。どういう視座でその歌の世界を描くのかはバンドの個性を考える上でも重要なトピックになる。そんな中、近年は何気ない日常をモチーフにしつつ、その生活に中に潜む幸せ(あるいは悲しみ)を歌うバンドが、シーンにおいて頭角を現しているような印象を受けるのだ。

 いくつかを例を挙げてみたい。

オレンジスパイニクラブ『キンモクセイ』Music Video
オレンジスパイニクラブ『非日常』

 例えば、2020年に「キンモクセイ」で大きく知名度を上げたオレンジスパイニクラブは、そんなバンドの一組ではないだろうか。それこそ「キンモクセイ」は〈坂道の途中でぶちまけたサイダー〉というフレーズや〈信号のない十字路〉というフレーズからもわかるように、何気ない日常の光景を丁寧に描いているバンドだ。

 〈ビビッときてるよ〉や〈あんた最高〉というワードチョイスもまた、歌の主人公の等身大感を色濃くしている印象を受ける。2020年11月には『非日常』というミニアルバムをリリース。スズキユウスケはアルバムについて、日常を切り取ってはいるが、8曲並べた時に非日常が見えてくる……とインタビューで触れていたように、収録曲である「リンス」然り、「たられば」然り、“非日常”というアルバムタイトルでありながら、日常の生活の中で出てくるモノや景色から歌の世界観を広げていく構造は通底している。

KALMA / わがまま [Lyric Video]

 オレンジスパイニクラブと同様、2020年代になってより存在感を強めているKALMAもまた、歌詞の中の“日常色”が強いバンドである。バンドのキラーチューンのひとつである「わがまま」は〈毎日焼肉食べに行こうよ!〉や〈ああ だらだら過ぎていく〉というフレーズに象徴されるように、日常を生きる何気ない人が主人公になっている。2021年6月に発表された「夏の奇跡」においても、〈自転車〉〈いつものTシャツ〉〈青い空〉という言葉を使うことで、生活感のある夏の景色を丁寧に描いてみせる。MVを観ながらこの楽曲を聴くと、より夏の生活感を堪能できる。夏を満喫する等身大の若者の姿が画面全体に映っているからこその味わいである。

リュックと添い寝ごはん / 青春日記 [Music Video]

 「青春日記」でシーンにおいて大きく知名度をあげたリュックと添い寝ごはんも、日常を描くことを大切にしているバンドの一組ではないだろうか。「青春日記」では〈ボロボロの錆びれた自転車〉や〈いつものあの坂を登ってく日々に〉というワードが象徴するように、高校生活の日常を歌のモチーフにしている。また、このバンドは「生活」や「ノーマル」というタイトルの歌を歌っており、空想的な言葉遣いや過剰な表現で対象を描くよりも、素朴さや何気なさを軸に置いて歌を紡いでいることがわかる。

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