HoneyWorksならではの楽曲制作の工夫 Gom・shito・ヤマコが語る、J-POPシーンへの広がり

HoneyWorks、クリエイターとしての姿勢

「曜日」シリーズや「セッション」シリーズ……こだわりの楽曲制作秘話

――今回6枚目の最新アルバム『ねぇ、好きって痛いよ。〜告白実行委員会キャラクターソング集〜』が発売されました。「可愛くてごめん」以外にも、みなさん自身が特にこだわった曲をいくつか挙げてもらい、制作時のことを思い出してもらうことはできますか?

Gom:たとえば、「東京サニーパーティー」はTVアニメ『ヒロインたるもの!』のEDテーマなので、それを意識しつつも、同時に3人娘のわちゃわちゃ感も意識しました。それで、作詞のときに〈パーティー〉という単語が出てきたんですけど、これまでの「東京~セッション」シリーズのようなコラボ曲をまたつくれたことがすごく嬉しかったです。サウンド的には、パーティー感を出すためにテンションの高い音色を意識しました。

東京サニーパーティー feat. 涼海ひより・服部樹里・中村千鶴(CV:水瀬いのり・佐倉綾音・早見沙織)/HoneyWorks

――HoneyWorksさんらしいポップなバンドサウンドに、パーティー感のある四つ打ちのEDMがブレンドされていますね。

Gom:キックも重ためですし、ギターもちょっとコミカルでタイトだったりしていて、サポートメンバーの中西くんがギターで効果音も入れてくれています。ハニワっぽいコード進行や音の並びを使いつつ、音色はEDMっぽいものを使ってバランスを取りました。

shito:この曲は2番の歌詞に「ロメオ」や「金おは」(「金曜日のおはよう」)といった僕らの楽曲の名前が出てきていて、ハニワファンの方にはくすっとしてもらえると思います。自分たちも作詞しながら楽しんでつくっていった記憶がありますね。

――HoneyWorksさんの楽曲は、曲が増える度にそういった仕掛けが増えていますよね。過去の曲のフレーズを別の曲に忍ばせていることなどもよくある印象です。

shito:僕ら自身楽しんでつくっているので、そういう曲が増えてしまうんです(笑)。他には、前からつくりたかったのが「曜日」シリーズで、実は「水曜日の約束」をつくった頃から「火曜日」と「木曜日」のイメージがすでにあって、土曜日の内容もすでに自分の中で考えていたりします。そして、MVで「水曜日の約束」で出会っている2人が、「火曜日はチューデイ」で写真を撮られてしまい、「木曜日のスキャンダル」でスクープになるという流れにしたいと思っていて。今回実現して嬉しかったです。MVもあわせて観ていただきたいですね。

木曜日のスキャンダル feat. 成海聖奈(CV:雨宮天)/HoneyWorks

ヤマコ:あと、私がずっとつくりたいと言っていたのが、(綾瀬)恋雪くんの「年の差なんて」です。恋雪くんは楽曲があまりないですし、他のMVに出てくる機会も少ない中でずっと根強い人気があったキャラクターだったので、今回新曲として曲が入って嬉しかったです。公開時期は未定ですけど、MVも「私が描きたい!」と言って準備を進めています。

年の差なんて

――この曲は、ヤマコさんがボーカルディレクションも担当していますね。

ヤマコ:ディレクションというほどのものではないのですが、レコーディング現場でshitoがディレクションをしている横で「いいぞいいぞ」と言っていました(笑)。今回新しく声を担当してくださる堀江瞬さんは恋雪くんのことをすごく調べてくださって、これまでの恋雪くんにも寄せていただいたので、最初に聴いたときから恋雪くん像とばっちりハマっていました。今回は大学生の歌なので、今までより大人っぽい雰囲気で、心機一転という感じでお願いしました。恋雪くんって一見大人しそうに見えますけど、芯は強くて積極的なキャラクターでもあるので、そういうところも歌い方で表現してくださいました。MVもキュンキュンで攻めたものにしようと思っているので、楽しみにしていてください。

Gom:声優さんが変わられるということで、どうなるかずっと気になっていたんですけど、僕も安心して聴けました。……流石ヤマコのディレクションだな、と。

ヤマコ:いや、そこは違うだろ(笑)。

shito:(笑)。

Gom:でも、声色のジャッジなどは、僕らもヤマコのキャラ愛を信頼しているので。

――他にも印象的だった楽曲はありますか?

shito:あとは、「ヒロインは平均以下。」ですね。この曲は水瀬いのりさんに歌っていただいた「ヒロインたるもの!」をベースにした楽曲で、(白波)渚がひよりに告白したことをメインテーマにしつつも、アニメでは描かれなかった過去の2人のことが楽曲やMVでより分かるものになっています。さらに、次の「好きな子に嘘ついた。」と対になっている曲なので、交互に聴いてもらえれば、お互いにどんな感情を持っていたのか楽しめると思います。

ヒロインは平均以下。 (feat. 湊あくあ)

――この2人は初回生産限定盤Aのジャケットに描かれていますが、今回のジャケットは、他のバージョンも楽曲が対になっているキャラクターたちが選ばれていますね。

ヤマコ:そうですね。今回は対になっている曲のキャラクターを同じジャケットで描いています。それからもうひとつ、今の『告白実行委員会』には初代のキャラクターたちや先生、若い子たちまで色々なキャラクターが登場しているので、全世代に向けてという意味でも、色々な世代の方に楽しんでもらえることを意識して描くキャラクターを選んでいます。

――他の楽曲だと、「東京スプリングセッション」はどうでしょう? この曲はこれまで四季をテーマに続いてきた「東京◯◯セッション」シリーズの締めくくりとなる楽曲です。

Gom:新キャラがどんどん出てくる中で、こうして最初の6人をまた描けることが自分たちも嬉しかったですし、6人を大切にしつつ、MVでは新キャラとして子どもたちも登場しているのが、人生がさらに続いているような感じがして気に入っています。活動を続けてきたからこそできた曲ですね。

ヤマコ:「セッション」シリーズはこれまでサポートメンバーと一緒にコラボでイラストを描くことが多かったんですけど、この曲は「セッション」シリーズの最後に結婚式を描くということで、モゲラッタと一緒に「感情を込めていいMVをつくろう……!」と締め切りギリギリまで励まし合いながら進めていきました。これまで悩んでいる表情や泣いている表情も描いてきた分、本当にハッピーなものにしたいと思ったので、「完成したら泣いちゃうんじゃないか」と2人で言っていましたね。でも、実際に完成してみると、本当に幸せなMVになって、達成感と幸福度でいっぱいになりました。今までの中でもお気に入りのMVです。

東京スプリングセッション feat. 瀬戸口優・榎本夏樹・望月蒼太・早坂あかり・芹沢春輝・合田美桜(CV:神谷浩史・戸松遥・梶裕貴・阿澄佳

――「キャラクターが幸せになってほしい」が文字通り形になっているMVですね。

ヤマコ:そうですね。「このキャラクターだったらこういうドレスを選びたがるんじゃないかな」「このカップルだったらこういう結婚式をしたがるんじゃないかな」と、私とモゲラッタでキャラクターたちの結婚式を一緒に進めていくような感覚でした。

――「男の子の目的は何?」と「女の子の愛って何?」についてはどうでしょう?

shito:この曲は、(高見沢)アリサとシバケン(柴崎健)が付き合って初めての曲なので、どういう感じでいこうか悩んだんですけど、付き合う前は前で悩みがあったとしても、「付き合った後の方が悩みが複雑になったりするよな」と想像しながら楽曲を書いていきました。それで、曲調に関しても速い曲ではなく、K-POPっぽい心地いいリズムにしていきました。お互いに「自分の方が好き」と言っているような、本人たちは本気で悩んでいるけれども見ている方はニヤニヤするような楽曲になるように、Gomと相談しながら考えました。

Gom:shitoくんが最初に持ってきてくれた時点では、どのキャラクターの曲にするか悩んでいた記憶がありますね。(成海)聖奈も候補に上がったりしたんですよ。

shito:そうだったっけ? 覚えてないなぁ。

Gom:確か、「芸能路線の内容で書いてみよう」というアイデアもあったんです。ただ、やっぱり「アリサの続きの曲もほしいよね」という話になって今の形になりました。

――HoneyWorksさんっぽさとトラップの要素が混ざっていて、音楽的にかなり複雑なことをしているように感じました。この辺りのバランスはどうやって取っているんですか?

shito:多分ですけど、自分たちの意識が自然に『告白実行委員会』に向いているので、どんな曲調でも結局ハニワっぽいものになっていくんじゃないかな、と思います。

――明智(咲)先生の楽曲「元生徒」についても教えてください。

Gom:明智先生は結構初期からいる生徒たちを見守ってきたキャラクターで、色々な形でアニメにもまたがって出ていますけれど、やっぱりキャラクターそれぞれの人生を考えたときに、「先生にも幸せになってほしい」という気持ちがありました。もちろん、先生だけ特別扱いにしてずっと変わらないポジションでいてもらうこともできるけれど、いろんなキャラクターが結婚したり、曲に結婚式が出てきたりしている中で、先生の恋愛も描くことで「未来にも楽曲を出していけるのかな」と思ったんです。大きいことを言うわけではないんですけど、「先生についてはまだまだありますよ」と思ってもらえると嬉しいです。

――今回の『ねぇ、好きって痛いよ。〜告白実行委員会キャラクターソング集〜』は、これまでと比べてどんな作品になったと感じていますか?

shito:前回もそうでしたけど、今回もベストアルバムというか、本当にいろんな曲が入っているアルバムになっていると思います。

――キャラクターが増えるごとに楽曲も増えて、曲数もすごいことになっていますね。

shito:そうなんですよ……! HoneyWorksの場合、アルバムをつくろうと思って曲を書いているわけではなくて、それぞれの楽曲でキャラクターのことを描いて、どの曲も常にシングルだと思って出しているので、それが積み重なって、「曲がたまりすぎているからアルバムを出さないと……!」という感覚です。それで「よく見たらこれ、ベストアルバムだな」という感じになることが多いです。

ヤマコ: 初回生産限定盤Bに収録されているMVも20曲というなかなかのボリュームなので、この1枚を買ってもらうだけでも色々と楽しんでもらえるんじゃないかと思います。本当にいろんなものを詰め込んでできた作品ですね。

Gom:アルバムもたくさん出してきましたし、キャリアもそれなりに積んできたとは思うんですけど、僕ら自身はいまだにどの曲もリード曲だと思って出していますし、「アルバムは3年ぶり」と言いつつも、他のアイドルシリーズの作品も出していたりするので、いまだにギラギラとしつつ作品を出せていることが自分たちも嬉しいです。まだまだ活動をまとめにかかってはいないので、これからも楽しみにしていただけると嬉しいです。

――今ではみなさんを含めて、ニコニコ動画などで活動を始めたクリエイターの方々が、日本の音楽シーンの中心となって活躍する機会が本当に増えていると思います。みなさん自身は今の状況をどんなふうに感じていますか?

Gom:SNSでの繋がりや情報が充実しているから、それぞれDTM環境の充実にもどんどんレベルアップしていると思います。プロ仕様のスタジオやエンジニアしか使えなかったツールが自室でできるいい時代だなぁと(笑)。

ヤマコ:周りの人たち、たとえば親戚や友達の子供が、「アニメ観たよ!」とか「ハニワのアルバム買ったよ!」とか、「ハニワのこの曲流行ってるよね!」と言ってくれるのを聞くと、今まで自分たちが見てきたJ-POPのアーティストさんたちと同じようなものとして見てくれているんだな、ということを実感したりもします。作業をしているときはみんな自宅で黙々とやっていると思うんですけど、他の人からの話を聞くと実感が湧きます。

――仲間意識のようなものを感じる部分もあるんでしょうか?

Gom:ざっくりとした同期感のようなものはある気がします。みんなの新作は気になりしますし、「DECO*27さんの新作どんなことしてるかな?」と気になったりもしますから。

shito:J-POP自体が、時代とともにどんどん変わってきていると思うんです。昔は演歌だったものがポップソングになって、小室哲哉さんのサウンドになって――というように、時代によってポップソングの形が変わってきたと思うんですけど、今はまた変わってきていて、僕らが活動を始めた頃はまだオタクのものというイメージもあったアニソンのような音楽も、J-POPだと呼べるぐらいに広がってきていると思っていて。それを自分たちが昔からできていたことは誇りに思いますし、今この時代にも新しいクリエイターが出てくることへのワクワク感をすごく感じていて、ワクワクしながらJ-POPを見ています。

Gom:SNSから出てくるタレントやアーティストという意味でも、今の10代の子たちってすごくて、最近は「歌が上手いな」と思った人が13~14歳だったりすることもよくあったりして。自分たちもそのスピード感に負けないように、頑張っていきたいですね。

■リリース情報
『ねぇ、好きって痛いよ。〜告白実行委員会キャラクターソング集〜』
発売:2023年3月15日(水)
配信:https://honeyworks.lnk.to/NeeSukitteItaiyo

<初回生産限定盤A>
[2CD+BD+グッズ]
価格:6,600円(税込)
<初回生産限定盤B>
[2CD+BD+グッズ]
価格:6,600円(税込)
<通常盤(初回仕様)>
[2CD+グッズ]
価格:3,500円(税込)

オフィシャルサイト
https://honeyworks.jp/

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