音楽業界で「イベント割」の適用はなぜ進まないのか フルキャパ、声出し解禁……制限緩和と併せて必要なこと

音楽業界で「イベント割」適用進まない理由

 コンサートプロモーターズ協会によると、2021年はコロナ前2019年の公演数と比較して78%、動員数は45%まで回復したとのこと。動員数については2022年より制限緩和が進んでいることもあり、石川氏の肌感覚では2019年比で9割前後回復しているのではないかという。最近では、フルキャパシティでの開催や観客の声出し解禁など、コンサート開催における各ガイドラインでも全体的に緩和の方向性が窺える。しかし、いつ感染状況が悪化し、イベントに対する世論が再び自粛を求める方向へ傾くかもわからない、不安定な現状は変わらぬままだ。ここから先、エンターテインメント業界を継続させるために実際に求められる支援とはどのようなものになるのだろうか。

「コロナ禍でもっとも利用された助成制度は『J-LODlive』(コンテンツグローバル需要創出促進事業費補助金)でした。コンテンツの海外展開を前提に、いくつかの条件をクリアすると費用の50%まで補助金が出るというものです。我々の希望だけをお伝えすれば、主催者にも消費者にも還元がある支援策が一番ありがたい。『J-LODlive』のように主催者の経費を負担するかわりにチケットを何割引きしなさい、という仕組みのほうが『イベント割』の利用も進んだのかもしれません」

 エンターテインメント業界がコロナ前の市場規模を取り戻すには、多くの時間を要するだろう。どんなに制限が緩和されてもコンサートに参加したいという消費者=観客の意思が完全に戻らない限り、会場を満員にすることは難しい。コンサートにおける本当の意味での消費喚起は、誰もが心から安心して参加できる環境が整うこと。安心を裏付ける治療法が普及するまでの間、現状を乗り越える必要があるのだ。しかし、業界内では厳しい現実が動き始めている。

「我々はコロナ禍で中止公演が相次いだ期間を公的資金や補助金の力を借りて乗り切ってきました。現在も集客が100%戻っていない中、並行して借入金の返済が始まっています。返済期間中のつなぎ融資や追加の補助金等の制度がないかぎり、仕事として継続することはより厳しくなるでしょう。もう一つ、この数年でフリーランスの方で仕事を辞めてしまった人がとても多く、ここから元の公演数に戻っていく際、人手不足に陥る可能性がある。一時的に仕事がなくなってしまったフリーランスの方を補助できる体制や、仕事を離れてしまった方に対する互助支援的な仕組みについても議論が必要なのではないかと考えています」

 様々な制限を緩和しながら経済活動を活性化させていくのと併せて、エンターテインメントを支える各企業・個人への継続的な支援についての議論も待たれる。

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