音楽業界で「イベント割」の適用はなぜ進まないのか フルキャパ、声出し解禁……制限緩和と併せて必要なこと
2020年1月の国内感染確認以降、新型コロナウイルスの収束の見通しはなかなか立たない。現在も第8波の到来やインフルエンザとの同時流行が懸念されており、感染対策を意識した日常が続いている。しかし、経済活動においてはWithコロナの新たな生活様式を模索しながら制限緩和の方向へと舵が切られ、2年半以上自粛を余儀なくされたエンターテインメント業界も徐々に活気を取り戻しつつある。
そんなエンタメ業界を支援する事業「イベント割」が、10月11日から来年1月31日までの期間実施されている。本事業は、新型コロナ感染拡大によって甚大な影響を受けた文化芸術やスポーツに関するイベントの需要喚起を目的として立ち上げられたもの。「イベント主催者」や「チケット販売事業者」が事務局へ事前登録した公演や施設が対象となり、チケット価格から2割相当分(上限2,000円)が割り引かれる。
事業の公式サイトでは、対象イベント例として演劇・伝統芸能、音楽ライブ、遊園地・テーマパーク、映画、スポーツ観戦・参加、美術館・博物館などが挙げられている。割引開始時には一部テーマパークのチケット入手を巡り、購入希望者が殺到するなど大きな話題を呼んだ。さらに、12月2日からは「イベント割」と全興連(全国興行生活衛生同業組合連合会)の共同キャンペーンとして「イベント割 ムビチケ作品共通券」が販売されることも決定。本商品は全国の映画館で好きな映画を観ることができる土・日・祝日も利用可能な作品共通券で、一般1,200円、小人800円。映画館やシネマコンプレックス各社も2020年度には前年度の売上から半減するなど、コロナ禍により大きな打撃を受けた。映画館にも徐々に人出が戻る今、年末年始のレジャー需要に向けて集客を大きく伸ばす一手となるかもしれない。
では、音楽の現場での「イベント割」導入状況はどうか。ライブ/コンサートも対象例に含まれているものの、開始から1カ月以上経過した現在、適用の情報を見かけることはまだまだ少ない。ディスクガレージ常務取締役石川篤氏(コンサートプロモーターズ協会総務委員)に話を聞くと、コンサートチケットという特殊な商品構造が積極的な導入につながらない主な要因ではないかと語る。
「現場レベルでは、『イベント割』を利用しようという声がほとんど聞こえてこないのが実情です。コンサートチケットは“行きたい公演にはなんとしてでも行きたい”という客層が多い商材のため、割引が大きな消費喚起につながる状況にはなりづらい。主催者側も『イベント割』を実施するメリットを感じていないのだと思います」
さらに「イベント割」では、これまで行われてきた「Go To イベントキャンペーン」同様、ワクチン・検査パッケージ制度の利用が割引対象の条件となる。当日の会場では陰性証明のチェックなど追加の人件費やコストが発生するため、なかなか利用に踏み切れないという事情もあるようだ。どのようなイベントであれば「イベント割」との相性が良さそうだろうか。
「近年ではキャンプフェスのようなコンサート+αの催しも増えていますが、そういったイベントにはいいかもしれません。イベント自体に興味があり、お得に行けるのであれば参加したいという方々の消費喚起につながる可能性があります。ちなみに、前回の『Go To イベントキャンペーン』は弊社では約10件のイベントで利用しました。そのほとんどが配信ライブで、配信のほうが仕組み的にはマッチしているように感じました。リアルなイベントは絶対行くけれど、配信は割引なら観ようという人の後押しとなっていたようでした」
コロナ禍に突入してから、コンサートチケットの平均単価も上昇傾向にある。収容人数制限によるチケット販売数の減少やガイドラインを遵守する上での運営コスト増など、様々な事情がチケット価格に反映されているという。今や国内アーティストでも10,000円超えのチケットは珍しくない。
「ただ、実際に『イベント割』を導入しても、価格の2割、もしくは2,000円が割引上限。例えば海外アーティストの20,000円のチケットでも2,000円しか割引にならない。価格が高いほど割引率は低くなってしまうのです。旅行業界の『Go To トラベル』のように割引が最大5割程度までになればインパクトがありますし、普段は少し高いから躊躇していたコンサートに半額なら行ってみよう、という新たな消費喚起を生むきっかけになるかもしれません」