ノラ・ジョーンズ、2010年代の“他流試合”がもたらした表現の成熟 20年間アップデートを続ける音楽家としての冒険心

ノラ・ジョーンズ、2010年以降の動きを総括

 5年ぶりの来日公演を札幌、仙台、東京、大阪で開催し、多くの面で成熟した歌を聴かせてくれたノラ・ジョーンズ。半年ほど前に、あの衝撃的だったデビューアルバム『ノラ・ジョーンズ』の発売20周年を記念したスペシャルエディションがリリースされ、彼女の功績を振り返ってみたのだが、改めてその後大きく変貌を遂げていく2010年以降の動きを追ってみよう(※1)。

 一つの転機となったのが、多彩なアーティストたちと共演した『ノラ・ジョーンズの自由時間(Featuring Norah Jones)』(2010年)だった。前回も書いたようにもともとジャンルにとらわれない人だが、ウィリー・ネルソンのような大ベテランから、Foo Fightersのようにメインストリームロックの最前線でファイトしているバンド、さらに“ニューオリンズの宝”Dirty Dozen Brass Bandやスコットランドのベテランインディバンド、Belle and Sebastianまで、まったく別け隔てなく彼女の世界に収めて聴かせるふところの深さには驚かされたものだった。

 そんな経験を経た5枚目のアルバムは、ベックやThe Black Keysを手掛けて人気だったデンジャー・マウスをプロデューサーに迎えた『Little Broken Hearts』(2012)で、彼女の陰の部分も巧みにポップに昇華したアルバムとして高い評価を受けた。その翌年に、今度はパンクを出発点に高い人気を誇るアメリカンバンドとなったGreen Dayのフロントマン、ビリー・ジョーとのコラボで、50~60年代初期に大活躍したポップデュオ The Everly Brothersに捧げた『foreverly』(2013)を発表、トラッド曲から50年代のポップスまで新たな精神を吹き込むような二人のコラボは新鮮なものだった。

 そんな他流試合モードはノラの新フィールド拡大に大きく寄与することとなる。

 4年ぶりのオリジナルアルバムとなったのが2016年の『Day Breaks』で、ジャズフィールドの原点に戻ったオリジナルナンバーに加えニール・ヤングやホレス・シルヴァー、デューク・エリントンらとのナンバーが並ぶものだったが、どれも彼女ならではの歌の巧さと、数年の間に行ってきた多彩なコラボで培った経験値が混ざり合い、唯一無二のアーティストとなっていることを示して見せた。

 さらに2018年には“何のプレッシャーもジャンルの境界線も持たずに、ただクリエイティブな道に没頭して音楽を作る”というコンセプトに基づく“♯songofthemoment(ソング・オブ・ザ・モーメント)”というシリーズで配信リリースした4曲に新曲3つを加えたミニアルバム『Begin Again』を発表するが、ここにはアメリカンインディの老舗バンド、Wilcoのジェフ・トゥイーディやピアニストのトーマス・バートレットとコラボしたナンバーなども収められ、まだまだ音楽への探究心に衰えはなかった。

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