ノラ・ジョーンズ、聴衆を親密な空間へと誘う魔法のようなステージ ブライアン・ブレイドら豪華演奏陣と届けた極上の音楽体験

ノラ・ジョーンズ、武道館公演レポ

 5年ぶりのノラ・ジョーンズのジャパンツアーは開催前からずっと話題だった。それはパンデミックが起きてすぐのころ、世界中が不安に満ちていた時期にノラが自宅から配信していた歌と演奏に癒されていた人たちの喜びの声だったのではないかと僕は思っている。でも、今回はそれだけではなく、オープニングアクトのロドリゴ・アマランテが決まった際もSNSには胸を躍らせているファンの投稿もいくつも目にした。来日前にこういう盛り上がり方を見たのも久しぶりの感覚だった。

 明るいままの状態でBGMが止まると、ロドリゴ・アマランテがひとりで出てきて、武道館の大観衆の前でゆったりと弾き語りを始めた。こういうしれっと始まる感じのコンサートも珍しい。ノラを魅了したブラジルのシンガーソングライターの音楽は飾り気のない弾き語りだけで勝負しているのだが、そのシンプルさの中にブラジル音楽の魅力がしっかりと鳴っている。どう作ったのかわからないようなボーカルとギターのふたつの旋律のコンビネーションだけで心地よさも美しさも、そして、その不可解さもすべてをさらっと軽やかに奏でていた。45分ほどのパフォーマンスだったと思うが、柔らかないいムードを作って、ノラにバトンを渡してくれた。オープニングアクトの時点で今日は最高のコンサートになりそうだって予感が会場に満ちていた。(後でもう一回出てきて、ノラと一緒に「Falling」を歌ってて最高でした)

 会場の明かりが落ちてから、ノラのバンドの3人が先に出てきた。今回はこのバンドがすさまじいのだ。まず、ギターとぺダルスティールはダン・アイード。自身ではThe Brokedownというグループで活動しつつ、ヴァレリー・ジューンやノラ諸作にも起用されるミュージシャン。ギターも上手いが、やはりペダルスティールが印象的な人だと思う。

 ベースのクリス・モリッシーはMark Guiliana Jazz Quartetのメンバーとして活動するジャズシーンのトッププレイヤーだが、それと並行して、アンドリュー・バードやベン・クウェラ―などのサポートもしていたり、近年は自身のソロ作ではロックバンド的なサウンドを披露していて、2021年のEP『Impact Winter Formal』ではオーガニックな歌ものの曲を発表している。クリスはジャズシーンの中でノラがやりたいサウンドを最も的確に具現化できるベーシストのひとりだと言っていいだろう。

 そして、ドラムはブライアン・ブレイド。世界最高のジャズドラマーのひとりでありながら、ジョニ・ミッチェルやジョー・ヘンリーなどの歌ものにも貢献。その中には『Come Away With Me』を始めとしたノラの諸作もある。ブライアンは自身のグループのThe Fellowship Bandではフォークやゴスペル、カントリー、ブルースを現代的なジャズの感性と融合させた音楽をやっているし、そのサウンドのまま自身の歌とギターを軸にした『Mama Rosa』なんてアルバムも出している。ブライアンもまたノラの音楽を明確に理解できるミュージシャンなのだ。しかも、ブライアンはフェローシップ・バンドの作品で何度かペダルスティール奏者を起用している。そもそもダニエル・ラノワとの仕事でも幾度となくペダルスティール奏者と共演していた。つまりブライアンはダン・アイードが参加した今回のツアーの音楽に関しても最適なドラマーなのだ。

 というバンドと共演するノラに関して書き加えておきたいのが2016年の『Day Breaks』以降の変化の話。<ブルーノート・レコード>のアニバーサリーイベントでウェイン・ショーターらとともに“ジャズ”ど真ん中の音楽を演奏したノラはジャズを弾く喜びを感じたという。それをきっかけに『Day Breaks』では、それまでは“ジャズ”からは少し距離を置いていたノラがウェイン・ショーターやDr.ロニー・スミスを起用してかなりジャズに寄せたサウンドを披露してファンを驚かせた。ここではWayne Shorter Quartetのウェイン・ショーター、ジョン・パティトゥッチ、ブライアン・ブレイドを従えて、デューク・エリントンの「Fleurette Africaine」をミステリアスなムードでカバーしている。そんな変化があって以降の来日公演だというのは今回の大きなポイントだろう。

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