tonunの恋愛ソングが放つ異彩の正体をプロフィールから紐解く まだ存在していない理想の音楽を求めて

tonun、恋愛ソングが放つ異彩の正体

 Spotifyが注目するニューカマー発掘プレイリスト『RADAR:Early Noise』と、リアルサウンドのコラボによる連載企画「Signal to Real Noise」。プレイリストでピックアップされた“才能の原石”たちへ、音楽評論家がその音楽遍歴や制作手法などについて取材する。

 今回は、今年飛躍が期待される国内アーティスト10組が選出される『RADAR: Early Noise 2022』の中からtonunにインタビュー。石角友香氏が話を聞いた。(編集部)

連載バックナンバー

第一回:福岡から世界へ、Attractionsが考える“アジアで通用するということ”
第二回:Newspeakが語る“リバプールと日本の違い”
第三回:CIRRRCLEに聞く、国やバックグラウンドを超えた音楽作り
第四回:Mega Shinnosukeに聞く、“何でも聴ける時代”のセンスとスタイルの磨き方
第五回:世界を見たShurkn Papに聞く、地元から発信し続ける理由
第六回:竹内アンナに聞く“独特のハイブリッド感”の原点
第七回:海外公演も成功、気鋭の3ピースバンド TAWINGSインタビュー
第八回:Doul、世界に向けて発信する10代のメッセージ
第九回:にしなが明かす、曲を書き歌う理由
第十回:(sic)boy、ロックとヒップホップを見つめる視線
第十一回:菅原圭、ネットやストリーミングが叶えた自立した音楽活動
第十二回:Bialystocks、あくまで作品が主体の“制作集団”としてのスタンス

 2020年10月にtonun名義の初作品「最後の恋のMagic」を投稿し、活動をスタートして以来、コンスタントに作品をリリース。登場当初のチルアウト系ベッドルームミュージックから、今年に入ってからは生音主体のグルーヴィーな作風にも挑戦してきた。スモーキーで甘い歌声とジャズやブルースを消化したギタリストとしての魅力も備えたtonunの音楽的なプロフィールを探る。(石角友香)

音楽のプロになるしかない そうすれば毎日音楽ができる

tonun

――tonunさんが音楽を好きになったきっかけは何ですか?

tonun:記憶が曖昧なのですが、小学校5年か6年ぐらいの時に友達の家に行ったらアコギがあって、「おお、生の楽器すごいな」と思ったのは覚えています。あとは4個上に兄がいて、当時、RADWIMPSをすごく聴いていたんですよ。そこで「音楽って幅広いな、テレビに出てる人だけじゃないんだ」と、インディーズで活動しているようなミュージシャンの存在を知って。RADWIMPSもよく聴いていましたね。

――RADWIMPSの何に惹かれたんでしょう。

tonun:RADWIMPSは野田洋次郎さんの歌詞がすごいと今でも思っています。野田さんが書かれる曲は大きく分けて2種類あると思っていて。激しいサウンドに鋭い歌詞を乗せた曲とポップなラブソング。まわりの人が聴いていたのはラブソングが多かったんですけど、自分はサウンドも歌詞も尖った曲の方がより好きでしたね。16ビートのちょっとファンキーな感じ。そういうリズムに日本語を乗せるのが上手で韻も踏む。そこにはすごく影響を受けているし、尊敬しています。で、ラブソングではロマンチックな歌詞を書く。よく使われる言葉なんだけど、使い方が見事ですよね。

――どんなジャンルでも歌詞を聴く方ですか?

tonun:いや、それが歌詞を全く聴いてこなかったんですよ。曲は雰囲気で聴いていたんですね。でも昔好きだった曲を今聴き返すと歌詞もすごくいい。自然と頭が理解していい歌詞の曲に反応していたのかもしれないんですけど、その時はそこまで思っていなかった。だから最初に曲を書き始めた時も歌詞にこだわりはなかったんですよ。でもそれではよくないことに気づいて、徐々にこだわり始めました。

――完全に一人で作るようになる前はバンド経験も?

tonun:大学の時に曲を作ってアコギと歌だけで最初はやっていましたね。サークルにいたベース、ドラムの人たちとスリーピースでやっていたこともあるんですけど、なかなか思ったようなアレンジにならなくて。でも何が違うかわからないんです。そこから他の楽器とかも聴いて、何年かアレンジの勉強をしてようやく自分でできるようになりました。

――「思っている感じとなにか違う」っていう感覚、あれってなんでしょうね?

tonun:当時の僕については、ただ単純にやりたい音楽がみんなと違ったんでしょうね。ちょうど東京事変を聴くようになって、ちょっとずつ大人っぽい音楽が好きになっていた時期というか。でも、みんなは高校でも大学でもいわゆる邦ロックのバンドのコピーをやっていたから、その中で「絶対大人の音楽の方がかっこいいでしょ」的な尖った部分が増えだして(笑)。大学生になったら洋楽ばっかり聴くようになって、「もう日本の音楽なんか聴かん」という感じでだいぶ偏ってましたね。

――東京事変を掘っていって洋楽に辿り着いたんですか?

tonun:そうですね。東京事変は日本のミュージシャンの中でも技術もアレンジも最高峰だと思っていて。ちょうどその時、ギターを習いに行ったところの先生がたまたまジャズのギタリストで。「なんのジャンルをやるにもやっぱりジャズを知っていたほうがいいよ。一番奥深いし、難しいし」と言われてから、難しい音楽にどんどんハマっていきました。普通に生きていたら有名な曲だけ聴く人生だった気がするけど、音楽に精通している人にいろいろ教えてもらったことで今の自分がある気がしますね。

――ジャズの基本を習わなかったら、今のtonunさんの曲は作れていない?

tonun:そうだと思います。基礎をかなりしっかり習ったので。で、ギターもある程度習ったから、次はボイトレに行ってみようと。

――すごい計画的ですね(笑)。

tonun:自然な流れでそうなっていって(笑)。ギターは習っていたけど歌は適当に歌っていたから、ちゃんと習ってみようと思いだしたんですよね。そしたら案の定ボイトレの先生にギターはジャズとかファンクっぽいけど歌がポップスすぎると言われて。それでR&Bの歌い方を教えてもらって、スティーヴィー・ワンダーやアリシア・キーズの曲とかを練習しました。そこからまた聴く音楽がちょっと変わって、R&Bにハマったんですよね。

――デビューに向けてレッスンする人みたいになってますが、そういうつもりだったんですか?

tonun:実は本当は音大に行きたかったんです。音楽をいっぱいやりたくて。多分あの時はギターをもっと学びたい気持ちが強かったのかな。でも音大に行ったからといって音楽で食べていけるわけではないし、とりあえず普通の大学に行こうと。高校が進学校で勉強もちゃんとやっていたので、もったいないというところもあって。

――悩ましいところですね。

tonun:結構悩ましかったですけど、音楽は家で一人で練習してもうまくなるかなと。

――生きていくための仕事をしながら?

tonun:そうです。でもやっぱり音楽だけをずっとやりたかった。そうするにはどうすればいいかと考えると、音楽のプロになるしかない。そうすれば毎日音楽ができる。結果それが一番効率的だなと思ったんです。

――効率で考えてプロを目指したと(笑)。ところでヒップホップにはいつ頃出会ったんですか?

tonun:ヒップホップは最近ですね。3~4年前からローファイヒップホップとか、チルなヒップホップが流行りはじめてから聴きだしました。日本語ラップも歌詞の語彙力が高いので勉強のために聴いています。多分ヒップホップは単純にリズムが好きなんですよね。それこそトム・ミッシュとかもヒップホップとジャズが組み合わさっていて、ビートがかっこいい。その影響が強いと思う。

――16ビートのキック&スネアがずっと続くのが好きなんですね。DTMで作る時はビートから組んでいるんですか?

tonun:最初はギターと歌しかないんですけど、次に何を入れるかとなったらキックとスネアとベースですね。

――たしかにtonunさん、ギター上手いですもんね。

tonun:いやいやいや。ギター単体だと勝てないからギタリストになれなくてシンガーソングライターに割り込んだようなものですから。基本、自分の考えは自分が行けそうなところに行く、勝てそうなところで勝負するということで。ギタリストだったら上手にギターを弾く人はいっぱいいるけど、シンガーソングライターでギターを上手く弾ける人は少ない。トラックメイクができる人はさらに少ない。それを突き詰めていったら今の自分になった感じですね。

恋愛のテーマは意外と無限に浮かんでくる

tonun

――なるほど。最初に世の中に出した「最後の恋のMagic」で注目されていかがでしたか?

tonun:予想外ですね。こんなに反響があるとは思っていなかったです。「最後の恋のMagic」より前からいろいろ作っていたんですけど、トレンドを取り入れながら歌詞もちょっと狙って作り始めたのがtonunとしての活動で。狙ったものがこうも受け入れられるのかと。今までそれができなかったのもあるかもしれないですけど、やっぱりちゃんと作ればリスナーも受け入れてくれるんだなと思いました。

――意識していい曲を作るということですか?

tonun:まず自分が聴きたい曲じゃないと作らないんですけど、より需要がありそうなところと自分の好みが重なる部分を見つけられた感じといいますか。それまではただこの世にないような変わった曲ばかり作ろうとしていて(笑)。だから恋愛の曲は書いていなかったんですよ。世の中に恋愛の曲が溢れすぎているのが嫌で。「絶対書かん!」という変なプライドがあったんですけど、tonunではそういうのを一回取り払って書いてみるかってなったんですね。

――意外です。tonunさんの曲って何らかの意味合いでラブソングなので。

tonun:そうですね。ほぼ。

――意地を張っていることに意味がないな、と気づいた?

tonun:というよりは、恋愛以外のテーマで書きたいことがなくなっちゃったんですよね。でも、恋愛だと意外と無限に浮かんでくるんです。ちょっと角度を変えるだけで無限に書けるんですよ。一瞬を切り取るだけで1曲できてしまうので。

――ちなみに意地でもラブソングを書かなかった頃はどんなことを書いていたんですか?

tonun:ひねくれた感じ。速いメロディで音数が多くて、日本語の子音だけを歌うみたいな。だから何を言っているのか全然わからない(笑)。それでめちゃくちゃサウンドがカッコよかったら売れたかもしれないけど、サウンドがまだ追いついてないからだと気づいて。それならやっぱり歌詞も武器として使うしかないなと。

――面白いですね。エモーショナルな動機とロジカルな動機が拮抗してるんですね。

tonun:はい(笑)。

――今年に入ってから代表曲のスタジオセッションを収録したEP『tonun Studio Live Session』を配信リリースしましたね。

tonun:そうですね。いわゆるバンドバージョンです。生楽器での生演奏を収めています。

――それはどういう意図で?

tonun:これから積極的にライブをやっていこうと思っているんですけど、音源のイメージが強いからそれを払拭するためというか。音源とライブは全く別物だと考えているから、歌い方もちょっと変えているし、音源で気持ちいいのとライブで気持ちいいのは違って、どっちも伝えたいというのはありますね。

――音源はもっと近い距離感というか。

tonun:いわゆるベッドルームミュージックみたいな感じのコンセプトですよね。一人で作ると限界があったっていうのもあるんですけど、ベッドルームミュージックの方が作りやすいんです。ミックスもそこまでバキバキにしなくても聴ける優しい感じ。でもアップテンポの曲になったらパキッとしていないと迫力が出ないので。その時やりたかった音楽がアッパーなものではなかったというのもありますね。

――確かに徐々にですよね。アッパーな曲になってきたのは。

tonun:そうなんですよ。やっぱり人とやるとできないことができるようになるのは一番のメリットですよね。元々ファンキーな感じは好きだったからやりたかったんですけど、一人でやるにはいろいろとハードルが高くて。自分で作るものが自然とミニマルになっていたので、せっかく関わってくれる人が増えたから、やりたかった方向性にも挑戦してみたいなと。

――大学生のときの趣味が合わないバンドから歳月を経て……。

tonun:進化しました(笑)。一流のプロミュージシャンと演奏できるのはスタジオもリハも楽しいです。

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