連載「Signal to Real Noise」第十回:(sic)boy
(sic)boyがLAで語った音楽を作り続ける理由 ロックとヒップホップ、2つのコミュニティを見つめる視線
Spotifyが注目する次世代アーティストサポートプログラム『Early Noise』。2021年を迎え、世界3億人以上の音楽リスナーに世界各地の多様な新進アーティストをピックアップし紹介するグローバルプログラム「RADAR」との連携を強化したことを受け、『RADAR:Early Noise』と名称が変更された。
リアルサウンドでは、『Early Noise』から継続する形で『RADAR:Early Noise』とコラボした連載企画「Signal to Real Noise」を展開。プレイリストでピックアップされた“才能の原石”たちへ、手練の音楽評論家がその音楽遍歴や制作手法などについて取材する。
今回は、渡辺志保氏による(sic)boyへのインタビューをお届けする。
第一回:福岡から世界へ、Attractionsが考える“アジアで通用するということ”
第二回:Newspeakが語る“リバプールと日本の違い”
第三回:CIRRRCLEに聞く、国やバックグラウンドを超えた音楽作り
第四回:Mega Shinnosukeに聞く、“何でも聴ける時代”のセンスとスタイルの磨き方
第五回:世界を見たShurkn Papに聞く、地元から発信し続ける理由
第六回:竹内アンナに聞く“独特のハイブリッド感”の原点
第七回:海外公演も成功、気鋭の3ピースバンド TAWINGSインタビュー
第八回:Doulが世界に向けて発信する10代のメッセージ
第九回:にしなが明かす、曲を書き歌う理由
2020年に発表した新世代のミクスチャーアンセム「Heaven's Drive feat.vividboooy」が、ジャンルを超え、多くのリスナーの胸を震わせた(sic)boy。ロックとヒップホップの境界線を跨ぎながらも独自の道を行く彼は、一体どんな信念の下、表現を続けているのか。今回、LAで2ndアルバムを制作中だった(sic)boyとZoomを繋ぎ、その胸の内を語ってもらった(編集部)。
(sic)boyにとっての音楽の原点
ーー軽音部に入ったときはボーカル、あとギターもやっていたとか。
(sic)boy:はい。ギターも軽くですけど弾いてました。
ーー迷いなくボーカルをメインにされた感じ?
(sic)boy:でも歌を歌うのはもともとすごい好きだったので。中高一貫だったんですけど軽音部に入ってて。中学から高校に上がるまでの間、一緒に友達とカラオケ行ったり。なので歌を歌うってことに対して、今思えばあまり違和感を感じていなかったのかなと思います。
ーー今の歌唱スタイルは歌とラップをバランスよくミックスさせた感じだと思うけど、中高時代からラップは聞いてました?
(sic)boy:一応KREVAだったりエミネムとかを。ヒップホップを深く聞いてる人じゃなくて、結構有名どころを聞いてました。
ーー軽音部時代はどんな感じの音楽を演奏していたのでしょうか?
(sic)boy:特にコピーだったんですけど、激しめでヘヴィなロックをやってましたね。ライブとかもそういう曲を演奏してました。
ーーボーカルやリリックスタイルもコピーがメインだったら、今とはまた少し違うと思うんですけど、当時オリジナル曲は作ってました?
(sic)boy:一応作ってました。全然聞くに堪えないレベルですけど。
ーー今と全然違う感じ?
(sic)boy:でも根本は一緒だと思います。もちろん声の感じとか、リリックの世界観は全く別ですけど。もともとミクスチャーロックはすごい聞いていたので。でもライミングとかは特に意識してやっていたかもしれないですね、初めから。
ーーミクスチャーはシャウトするボーカリストが多かったりしますけど、どういうふうボーカル・スタイルで歌っていたんですか。
(sic)boy:でも、それこそ本当にシャウトとかもしてましたし、コピーですけどSlipknotとかもコピーして。英文とかを一生懸命覚えて練習したのを覚えてますね。
ーーネット上に音源をアップするようになったのはいつ頃ですか。
(sic)boy:高校卒業後ですね。大学に入って1〜2年生のタイミングだったかな。
ーー自分の中で大きい変化を感じたりしましたか? バンド活動から離れてソロのアーティストとしてネット上に音源をアップするのに抵抗はなかった?
(sic)boy:その当時は結構ヒップホップを聞き入っていて。自分から音源を出すことは、確かに最初抵抗はあったかもしれないです。でも1回アップした後は、結構吹っ切れたというか。1〜2曲ぐらい再生回数が伸びた曲があって、それはすげえ嬉しかったです。
ーー最初に音源をアップするときってどんな気持ちなんですか?
(sic)boy:当時はできた曲を全部上げようと思ってました。今思えばボツだったと思う曲もたくさんあるし、なんでこんなのアップしてるんだろうと思うこともたまにありますけど。でも作ってる当時はひたすら曲を出すことに意味があると思ってましたね。
ーー徐々にネット上で聞かれ始めてるなって実感はありました?
(sic)boy:手応えが数字(再生数)として見えるので楽しかったし、その分、気合入れて作ったのが再生数伸びなかったりしたり。その時の感情は色々覚えてます。
KMとの出会い
ーーどのくらいの時期にKMさんと出会ったんですか?
(sic)boy:SoundCloudをやっていたときだから、今から1〜2年前ぐらい? だいぶ間は空いてるんですけど。それこそ僕の「Hype's」って曲を見つけてくれて。そこから興味を持ってもらい連絡いただいたっていうのが初めてです。
ーーどういうところから2人で制作し始めたんですか?
(sic)boy:もともと僕が持っているイメージに沿って、ラフのスケッチ、ビートのデータをいただいて。そこからすぐレコーディングしていった感じです。
ーー最初のレコーディングのときのバイブスみたいなのって覚えてます?
(sic)boy:意外とネットに上げる曲を作ってるときとあまり変わらなかったですね。ひたすら自由にやらせてもらったというか。
ーー今に至るまでKMさんとのタッグは続いてますが、KMさんにもKMさんらしさがもちろんあって、トラップを基本としたスタイルからオルタナティブなものまで幅広く作っていらっしゃいますよね。2人で曲を作るときはどうですか?双方のセッション感がある感じ?
(sic)boy:かなりあります。原型をとどめてない音源なんて普通にありますから。声を録ってからガラッと変わることとか全然ありますし。だからそういうキャッチボールの多さで言えばロックバンドのセッションに近いです。
ーーバンド時代にはメンバーと一緒に顔を突き合わせてセッションすることもあった?
(sic)boy:ありましたね。
ーーその当時と比べて、KMさんと一対一でキャッチボールしながら曲を作り上げていく良さって何でしょう?
(sic)boy:回数を重ねていくにつれて……互いの良さっていうんですかね、ここはこうして切ったほうがいいよねとか、ここは雰囲気がいいとか。初めて一緒に曲を作ったときよりも、今のほうが互いのことを知れてる気がします。
ーー1曲作るのに大体どれくらいの時間がかかるのでしょうか。1
(sic)boy:曲によってバラバラですけど、長いと何カ月もかかることもあれば、ビートもらってすぐ録ってみたいに短いスパンでできることもあります。
ーー(sic)boyさんとKMさんのコラボ曲を聞いていると、普段のKMさんのビートにはない生音感、ドライブ感みたいなものがすごくて。生音はどれぐらい入れているんですか?
(sic)boy:軸となるメインギターだったりなんかは生でやっているのかな。僕もあんまり詳しく聞いたことがないんですよ。
ーー2人で曲を作るとき、(sic)boyらしさやトラップっぽさ、あとロック的なバランスなど共通で気を付けていることはあります?
(sic)boy:最初はトラップでもロックでも入り込めるようなサウンド感を2人とも気にしていたんですけど、最近は全然。トラップでもロックでもあまり気にしなくなったと思います。