john「春嵐」、Chinozo「グッバイ宣言」、すりぃ「エゴロック」…TikTokでのバズから見るVOCALOIDシーンの可能性

 VOCALOID(ボカロ)という音楽カルチャーはご存知の通り、元々はニコニコ動画を起点に勃興した文化だ。今でも同サイトの中で確固とした立ち位置を築くジャンルだが、ここ数年の急速なネット文化の拡大で、いわゆるボカロ曲のヒット≒バズは必ずしもニコニコ動画がきっかけではなくなりつつある。当然動画サイト内でもある程度の知名度獲得が前提ではあるものの、ニコニコ動画を飛び出した外の世界で火がついたことから、とてつもない勢いで認知が伸びるケースも昨今では徐々に増えているのだ。

 ボカロ曲が広まるプラットフォームとして、代表的なもののひとつがYouTubeだろう。実際両動画サイトに投稿された楽曲でもYouTubeの再生数の方が桁違いに多くなる現象はよくある光景で、元々はニコニコ動画内で主流だった「歌ってみた」動画も、今やYouTubeのみでアップする発信者の方圧倒的にが多い。重ねてTwitter、InstagramというSNSの存在も欠かすことはできない。口コミ的効果と短いながらも動画を投稿できる機能が後発で搭載されたことにより、バズのきっかけを作る場のひとつとなっている。

 加えて、近年見落とすことができないのがTikTokの存在だ。今の若者文化の最先端を担うSNSでもあるTikTokだが、一昔前であればVOCALOIDという文化とは断絶された場所だったかもしれない。かつては「オタク」が楽しむものというイメージもあったニコニコ動画やVOCALOIDは、より大衆的かつカジュアルな存在となった。そんな価値観の変化からも、ボカロ曲の居場所の一つとしてTikTokはなんら違和感のないものともなっている。現在第一線を走るボカロPの中には、TikTokでの公式アカウント開設、及び楽曲投稿を行う人々も少しずつ増加傾向にある。今回は、そのように正式に配布された音源を使用した投稿が、文字通りさざなみのように波及したことでバズを巻き起こした事例をいくつかピックアップしてみる。

 直近でTikTokによるバズ曲として、まず欠かすことができないのはjohn「春嵐」(2019年)だ。本曲に関してはTikTok上での原曲動画の約10万回再生という数に加え、john自身による8bitアレンジ音源を使った動画も1万件以上投稿されている。ちなみにニコニコ動画内に同時期に投稿されたAyase「幽霊東京」、てにをは「ヴィラン」のTikTok内における音源使用動画数がそれぞれ約4,000件前後ということを鑑みると、この数字の突出がより明らかとなるだろう。

春嵐 / 初音ミク

 続いて2020年にTikTokを起点としてブレイクした曲といえば、Chinozo「グッバイ宣言」がある。こちらもTikTokでの原曲動画再生数は76万回(楽曲再生数は30億回以上)、音源使用動画数は約31万件という驚異の数字を叩き出している。子細な傾向を見てみると、本楽曲に関しては「踊ってみた」動画がバズの要因のひとつだろう。そんなTikTokでの波及効果もあってか、YouTubeでも再生数1億回を突破する人気曲へと成長を遂げている。

Chinozo 「グッバイ宣言」 feat.FloweR

 そして2021年に登場したすりぃ「エゴロック(long ver.)」で、TikTok内におけるVOCALOID楽曲の人気は定着することとなる。本曲は楽曲使用動画数の約32万件に加え、最たるポイントは約380万回という数字を叩き出している原曲動画再生数だ。こちらも「グッバイ宣言」と同じく、主なバズの起因は「踊ってみた」動画。ちなみにYOASOBIの公式アカウントにおいて、最大再生数を誇る動画は約510万回再生。これらのビッグネームと比較すると、本動画の再生数がいかに驚くべき数字かがよくわかるだろう。

エゴロック(long ver.) / すりぃ feat.鏡音レン

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