宮下遊、3年ぶりワンマンライブ『彼方』レポート 新感覚の歌声に表れたボーカリゼーションの深化

宮下遊、Zepp DiverCityレポ

 白いカーテンが吊されたステージの真下の両サイドには、それぞれ白い柱のモニュメントが2つ、3つ配置されている。これは、7月10日、Zepp DiverCity(TOKYO)にて開催された宮下遊の3度目となるワンマンライブ『彼方』のレポートだ。暗転した会場に水滴音の混じった何かが崩落しそうな気配を連れるSEが流れ出す中、点滅する青のライティングを受けて、1stワンマンライブ『青に歩く、東へ臨む』からサポートメンバーとして遊を支えてきたマロン菩薩(Gt)、松ケ谷一樹(Ba)、杉崎尚道(Dr)がステージにスタンバイ。客席からペンライトの青い光が揺らぐ。

宮下遊

 この空間をデコレーションする舞台セットが、これから遊の繰り出す独創的な世界と完全にひとつに溶け合うことになるのを知ったのは、1曲目の「幽火」が始まって直後のこと。〈命よ灯せよ通せよ〉と遊の高音域の声がどこからか降ってくる。その一方で、ステージ中央にその姿はない。一体どこに……? 誰もが声の鳴るほうを目で追い始めたその瞬間、遊はステージの左後方に置かれているステージ用ステップをのぼったところに現れる。〈僕は妖だ〉と全てを悟ったかのような微笑みをイメージさせる声を放ちながら。弾けるバンドサウンドと遊の水に似た歌声が彩るこの曲を色で例えるなら白だと思う。そんなイメージに相応しい光景が雄大に広がっていく。カラフルなライティングが揃って踊りだした「エンドゲエム」。遊の身振り手振りから表れている感情の高まりが、フロアをぐるりと一周しながらたしかに伝播していくのを感じる。

 2019年に開催された1stワンマンライブの追加公演『青に歩く/水の狭間』以来、約3年ぶりとなる今回のライブ。「今まで何回かライブをやらせてもらったときはそんなに緊張はしなかった気がするんだけど、今日は柄にもなく、すごく緊張していて。(会場が)この大きさになってくると僕も緊張するんだなって今、新しい発見をしてしまいました(笑)」。声援が当たり前にあったライブから、そうではないライブへと変わったことも含め色んな要素が絡み合った中で、遊は意外な表情を見せる。ステージ後方のスクリーンにベッドの落ちる映像が映り、眩しい光の中で始まった「ラストリヴ」。ひときわ寂しい感情が生きるこの曲を歌う遊の声は、一つひとつの言の葉を丁寧に撫でていくよう。星のように煌めいたのは、最後の〈一人ぼっちで大都会中心地を占拠してる〉でMVの主人公と同様に片腕を頭上に真っ直ぐ伸ばす姿。遊がメロディに声を乗せるとそれだけで模倣不可能な作品が生まれる。この場に居ると、原音から頭の中で何度もイメージした音風景が、その枠をはみ出していく。そんな感覚に出会うことができたのは、「今日まで結構な努力をしてきて頑張った甲斐があったなっていう気持ちだけが今、頭の中を占領しちゃっていて」とライブ中に打ち明けていたように、今日ここに至るまでの遊によるボーカリゼーションを意識した上での深化が大きく影響していた。

 ホーンセクションが粋な「FREEEZE!!」でイントロと同時に派手で多彩なレーザー演出が繰り広げられる。ファンキーな生の笑い声と低音をずっしりと効かせたボーカル、臨場感のあるラップが生むこれまでにないグルーヴ感。「Coquetterie dancer」に続く「ギャラリア」では、曲の主人公の心情に自身を重ね合わせる。1曲の中でも複数の声を操るのが、遊。この日のライブでもそれはとくに鮮明で、常に新感覚の声色が届けられることで、気づけば時間を忘れるほどにその変化する歌声に聴き入ってしまっている自分が居た。

 吐息交じりの声と踊りだすビビッドピンクのライティングによる共鳴。「p.h.」から、ステージ手前に突然現れた紗幕にMVが投影されると、オリジナルアニメーション・Artiswitchへの参加楽曲「Decorative」へ。目を凝らせば、紗幕の向こうではカラフルなライティングに照らされる遊とサポートメンバーが、ポップなMVとは裏腹の駆け足で駆け抜けるような演奏をしている。

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