宮下遊、ボーカルの変幻自在ぶりを味わう 4thアルバム『見つけた扉は』日常に差し込む一縷の光のような作品に
ベッドルームで繰り返される日常への不安に怯え、今日もまた眠りについてしまう。それと同時に一縷の光を求めるーー。宮下遊が、3月16日にリリースした4thアルバム『見つけた扉は』は、まるで、そんなシーンを心に描いてしまうほどに、絶妙な繊細さを秘めた作品といえる。
宮下遊のターニングポイントは、2019年。ボカロP・煮ル果実のオリジナル曲「ヲズワルド」のカバー動画が、海外のファンを惹きつけるきっかけを作った。現在オフィシャルチャンネルに投稿された本動画の再生回数は、3,000万回を突破。耳元で囁くようなバイノーラルボーカルが、想像の斜め上を走る。アート性の高い声の演出は、YouTubeに投稿された数々の歌い手による「ヲズワルド」のカバー動画の中でも群を抜いた完成度の高さである。
そこから、昨年、『DEATH NOTE』、『バクマン。』を生み出した原作・大場つぐみ/作画・小畑健のタッグが原作漫画を手がけたTVアニメ『プラチナエンド』のEDテーマに抜擢される新たな展開が待っていた。このEDテーマとなった「降伏論」を書き下ろしたのは、3rdアルバム『錆付くまで』で「アノニマス・エゴイズム」を書き下ろしたhotaru(作詞)/Tom-H@ck(作曲)/KanadeYUK(編曲)チーム。「降伏論」は、自分なりの正解を見つけ、前進していくギターロックチューンだ。
そして、『錆付くまで』のリリースから約1年2カ月後にリリースしたのが、『見つけた扉は』。これまで宮下遊のアルバムに曲を書き下ろしてきた共通のサウンドクリエイターの幅を広げた結果、宮下遊の表現の幅を拡張することへとつながった。
本作には、不安定な世の中に耐え切れずに寂しさを内包するボーカルと真正面から攻めの姿勢を貫くボーカルといった相反した2人の宮下遊が存在している。
例えば、透明感のあるボーカルで統一された「幽火」(作詞・作曲:コウ)、「迷妄、取るに足らなくて」(作詞・作曲・編曲:卯花ロク)、「Ayka」(作詞・作曲:宮下遊 編曲:マロン菩薩)、「ラストリヴ」(作詞・作曲・編曲:稲葉曇)、「再生」(作詞・作曲・編曲:Somari)に表れているのは、前者。そこには、孤独や美しさといった人間の内側の領域に踏み込んだメッセージ性が込められている。深いリバーブやディレイなどのエフェクトで、音像に奥行きが生まれ、自然と宮下遊が乗せるボーカルも、これまで以上に混じり気のない水のように澄んだ広がりを見せている。ウィスパーボイスや力強い声など、声色における引き出しを幾通りも持っているシンガーとして唯一無二の存在の宮下遊だが、ここまで落ち着きのある雰囲気を醸し出した楽曲群が書き下ろされたのは、今回が初めてかもしれない。また、世の中にあふれている寂しさの形を宮下遊の凛としたボーカルが体現しているようでもある。