宮下遊、3年ぶりワンマンライブ『彼方』レポート 新感覚の歌声に表れたボーカリゼーションの深化

宮下遊、Zepp DiverCityレポ

 中盤のハイライトは、なんといっても、ライブにおいて満を持しての初披露となった「ヲズワルド」。2019年5月に投稿され、現在YouTubeでは3,100万回再生を超えるこの曲は、世界に遊の歌声が聴かれるきっかけをくれた、煮ル果実の楽曲だ。この時が来た、そう誰もの期待が高まる中、本番は一瞬で訪れる。ドラム山台に腰を掛け、色とりどりの声色を駆使しながら徐々に立ち上がる遊。ベース、ギター、ドラムとそれぞれの輝くフレーズが3Dのように浮き上がる演奏に加えて、ボーカルは変幻自在。すべてにおいて満ちあふれる生命感。この曲の再現性はとても高く、想像の斜め上を行った。飛び交うレーザーの迫力を上回る遊の歌声に圧倒されたのは、初のTVアニメのEDテーマとなった「降伏論」。そして、遊自身が産み落とした「カヤ」という曲を基にギターのマロン菩薩が編曲を手がけ、再構築した「Ayka」で、希望が見えるようで見えない不確定な世界が描かれていく。

宮下遊

 アップダウンの激しいセットリストが「麒麟が死ぬ迄」、「ハチェット」、「キルマー」と続き、そして、本編ラストは「再生」。見たことのない荒涼としたモノクロの映像がステージのスクリーンに映し出され、その上のカーテンには歌詞が表示されていく。フロアを突き抜ける重低音と眩しいレーザー演出が神秘的な歌声に込められた孤独感を一層浮き彫りにする。

 「輪廻転生」と「パラサイトピアノ」で締めくくったアンコール。遊は「またどこかでお会いしましょう!」と手を振り、誰よりも早くステージを去った。数多くのボカロ曲を聴いたことのない新たな楽曲へと昇華させてしまう歌い手としての遊の凄味が証明されたこの日。確実にスケールアップしたボーカル、演奏が潜在的な可能性を強く感じさせた。今振り返れば、この一夜限りの音風景は、遊自身の積み上げてきた努力の結晶そのものだったのだと思える。

■セットリスト
01.幽火
02.エンドゲエム
03.ラストリヴ
04.FREEEZE!!
05.Coquetterie dancer
06.ギャラリア
07.p.h.
08.Decorative
09.迷妄、取るに足らなくて
10.ヲズワルド
11.降伏論
12.Ayka
13.麒麟が死ぬ迄
14.ハチェット
15.キルマー
16.再生

En.01輪廻転生
En.02パラサイトピアノ

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