宮下遊、初ワンマンライブで見せた模倣不可能な神秘的個性

宮下遊、初ワンマンライブレポ

 声色を使い分けるのに加えて、ハイトーンボイスを極限まで歌い抜くリアルな宮下遊の姿がそこにはあったーー絵を描くことで培われた能力が表現する歌の世界に彩りを与え、ひいては目の前にいる観客を自身の描いた世界へと連れていくことを可能にしているのが目に見えてわかるような、決して画面越しでは見れないライブだった。

 昨年歌い手活動10年の節目を迎え、神秘的な存在感を放ってきた宮下遊が、2ndアルバム『青に歩く』をひっさげた初めてとなるワンマンライブを3月31日に新宿ReNYで開催した。


 会場一帯がペンライトの光で凛とした青に染まり、森の中かと錯覚させるような不穏なBGMが流れていたが、「テレストテレス」のイントロが鳴った瞬間、観客の声が上がる。赤いステージ幕が徐々に上がることで足元から見える形で表れたのは、サポートメンバーのマロン菩薩(Gt)、松ケ谷一樹(Ba)、杉崎尚道(Dr)、そして宮下遊。目に飛び込んできたのは、遊の豪勢な出で立ちだ。王のように風格のある衣装を纏い、メッシュを入れた髪に髪飾りを付けた姿は、自身が描いたメジャー1stアルバム『紡ぎの樹』のジャケットの人物を再現していて、この日のライブがここまでの活動を祝した意味合いが強いことを認識せずにはいられなかった。思えば、BGMでは‟樹”を匂わせ、セットリストには‟歌ってみた”を挟むなど、活動初期からのファンから、最近知った人までもが喜べる演出がそこかしこに盛り込まれていた。


 点滅する鮮やかな照明に囲まれた遊は妖艶なウィスパーボイスを繰り広げていく。「青年よ、疑問を抱け」に続いたのは、ステージを幻想的な空間にした「少女レイ」。夕日を象徴したような照明下で足元に視線を向けていた遊が顔を上げ、観客に拍手を求める。ステージ後方と観客の間を行き交う照明も幻想的な空間を作り出し、遊の潤った美声をより映えさせていく。


 「今日は僕の初のワンマンライブに来てくれてありがとうございます! すでに感無量なんですけどこんなに沢山来てくれて本当嬉しいです」と感謝の意を告げると、会場は赤に染まり煽情的で毒気のある「コウカツ」をはじめとしたロックチューンへ。変幻自在に自らの声を操ることで定評のある遊だが、「アイアルの勘違い」では、溜息の箇所などブレスを意識した繊細な歌声を聴かせる。また、ハイトーンボイスが印象的な大サビを勢いのまま歌い抜いたのが印象的だった。音源の空気感をそのままに、テクニカルな呼吸法が加わった歌声を放つ姿に、彼がリアルに歌っているのを身をもって実感できた観客は多かったはずだ。

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