山下達郎、Mr.Children、millennium parade×Belle、奥華子……細田守が作品主題歌に求めるものとは?
2015年公開の『バケモノの子』の主題歌は、Mr.Childrenの「Starting Over」。この曲を聴いた細田が映画に相応しいとして起用したという経緯(※4)があり、決して作品のために書き下ろされたものではない。しかし不思議なほどに楽曲と映画の内容が共鳴しているように聴こえる。孤独な少年の冒険譚であり、家族の形を再構築するような物語に相応しいどっしりとしたサウンドスケープだ。成長期の葛藤を鋭く描く歌詞もこの映画のエンドロールで雄々しく響き渡り、作品のメッセージを強化しているのだ。
そして最新作『竜とそばかすの姫』の主題歌はmillennium parade×Belle「U」だ。King Gnuの常田大希を中心とするプロジェクト・millennium paradeと、シンガーソングライター・中村佳穂が劇中で演じた主人公の名義でコラボレーションしている。『サマーウォーズ』からさらに進化したインターネットの世界=メタバースのビジュアルとマッチした先鋭的なサウンドを見事にデザイン。そして主人公の心情を美しく代弁していく歌唱を中村が躍動的に表現している。作品終盤でベルが歌う「はなればなれの君へ」も含め、特別なエネルギーが宿るボーカルだ。
『竜とそばかすの姫』は全編に渡って音楽が用いられ、ミュージカルのような視聴感がある。これも『美女と野獣』をモチーフとしたストーリーを強化するために必要な演出であり、仮想現実の中でも人の肉体から放たれる歌の力が、重要な役割を果たす作劇と強く結びついている。音楽の説得力が物語の中核部と最も密接に関係した細田作品と言えるだろう。
こうして振り返ると細田作品の主題歌は映画のスケール感に適切に寄り添いつつ、登場人物の内面を支える楽曲が多いように思う。そのどれもが強い普遍性で貫かれている一方、作品ごとに異なるタッチの楽曲が選ばれているのも印象的だ。これは先述した通り、普遍性を保ちつつも毎度異なる挑戦を続ける姿勢と繋がっているからだと思う。作品の進化と連動するように、細田が主題歌に求めるものも変化していくのだ。次の作品でもきっとその姿勢は貫かれるはず。どんな楽曲を彼が求めるのか、楽しみでならない。
※1:https://okmusic.jp/news/4477
※2:https://realsound.jp/2018/07post-226784.html
※3:http://news.line.me/issue/premium-yamashitahosoda/c14da631fa2b
※4:https://eiga.com/news/20150601/1/