山下達郎、Mr.Children、millennium parade×Belle、奥華子……細田守が作品主題歌に求めるものとは?
近日、『金曜ロードショー』(日本テレビ系)で細田守監督の最新作『竜とそばかすの姫』が地上波初放送される。インターネット上の仮想世界<U>に歌姫のベルというアバターで参加し始めた主人公のすずが、次第にその歌声で注目を集めながら成長していく話題作だ。あらすじからも分かる通り、この作品は音楽が大きな構成要素になっている。思い返すと、細田はこれまでも映画の中で主題歌や劇中歌が強く存在感を示す作品を多く生み出してきた。本稿では細田守映画とその主題歌の呼応する部分などを振り返っていきたい。
2009年公開の『サマーウォーズ』では山下達郎を主題歌に起用。インターネット空間と日本の田園風景を対比させた独特な世界観で人気の作品であるが、主題歌「僕らの夏の夢」はその両極端な世界を包み込むような圧倒的な包容力を誇る。細田はこのタイアップにあたって「大きくて普遍的な愛の歌が必要」(※1)と語っており、そのオーダーに見事応えたハートフルな1曲だ。
また、2018年の『未来のミライ』ではオープニングテーマと主題歌にそれぞれ「ミライのテーマ」「うたのきしゃ」を書き下ろした。軽快で可愛らしい「ミライのテーマ」は、本作の音楽プロデューサーを務めた東宝ミュージック株式会社の北原京子へのインタビュー(※2)によれば、「映画の内容とは、ちょっと距離があるところから、音楽を作っていただきたかった」「洗練されたポップな曲、これぞ“山下達郎ポップス”」とリクエストしたとのこと。そして「うたのきしゃ」はファンキーなグルーヴが心地よいおおらかなナンバーに仕上がっており、「僕らの夏の夢」と合わせて3曲とも全く違うタイプの楽曲を細田は主題歌として求めてきたことが分かる。熟練のポップス職人である山下を2度起用したとしても、同じテイストのものを求めているわけではないのだ。
LINE NEWSでの2人の対談記事(※3)では、山下に対して細田が「ポピュラーなものと作家性とで、どっちかだけというわけじゃないというのが、僕は憧れとして仰ぎ見てきた部分です」と語る場面に細田の美学が強く表れているように思う。大衆や暮らしに目を向けた作品でありつつ、実験や挑戦を交える細田作品の在り方は常に流動的であり、主題歌の起用方針においてもその意向が反映されているのではないだろうか。
筒井康隆のSF小説をベースとし、細田守の名を広く知らしめた2006年公開の『時をかける少女』も音楽が印象深い作品だ。主題歌と挿入歌を担当したのは当時メジャーデビュー2年目だった奥華子。劇中で重要なシーンを彩る挿入歌「変わらないもの」と、エンドロールに温かな余韻をもたらす「ガーネット」。どちらも友情と恋心に揺れる登場人物の心模様を等身大に表現している。過度な派手さもなく、ピアノを中心としたナチュラルな編曲がこの映画で描かれた普遍的な青春の風景によく馴染んでいる。