RADWIMPSが歌う“巡り会うことの奇跡” 映画『余命10年』と地続きの物語を描いた主題歌「うるうびと」MVから紐解く
映画『余命10年』の主題歌であるRADWIMPS「うるうびと」のMVが公開となった。RADWIMPSはこれまでにも複数の映画の主題歌を手がけてきており、例を挙げるなら野田洋次郎主演『トイレのピエタ』の主題歌「ピクニック」、アニメーション映画『君の名は。』の主題歌「前前前世 (movie ver.)」ほか3曲、『天気の子』の主題歌「愛にできることはまだあるかい」ほか4曲(アニメの2作は劇伴も担当)、野田洋次郎出演『キネマの神様』の主題歌「うたかた歌」(RADWIMPS feat. 菅田将暉)などだ。こうした例から見ても、映画とRADWIMPSの相性がいいことは明確なのではないか。
ただ、実写映画で劇伴を担当するのは『余命10年』が初の試みであり、しかも主題歌「うるうびと」を含めたサウンドトラックアルバムの収録曲数は30曲にもなる。サントラは「Opening of [余命10年]」から始まり、「茉莉の現実」「和人の告白」「重ねる二人」「茉莉の夢」など、時にセリフに寄り添い、時にセリフのないシーンの感情を代弁しながら、主題歌の「うるうびと」でエンドロールを迎える。
藤井道人監督との公式対談のなかで野田は「こんなに音楽ばっかりで大丈夫なのかなって心配になりました」と言葉を残しているが、それだけこの映画には音楽が必要であり、その必要性を野田洋次郎という音楽の創造主に託した。125分の映画に劇伴の数は28曲、単純計算だが、約5分に一度音楽が流れていると考えると、藤井監督がどれだけ音楽に重きを置いていたのかが分かる(※1)。
そもそも藤井道人監督と野田洋次郎の関係性の始まりは、ドラマ『100万円の女たち』(テレビ東京系)で監督と主演俳優としてタッグを組んだこと。その縁をきっかけに、今回、藤井監督は映画『余命10年』の音楽を野田に作ってほしいと依頼し、野田はその主題歌「うるうびと」のMVを藤井監督に撮ってほしいと依頼。こんなにも美しい形での相互オファーがあるだろうか。
映画『余命10年』は、20歳で不治の病にかかり、もう恋はしないと心に決めた余命10年の主人公・高林茉莉(小松菜奈)と、生きることに迷い自分の居場所を失った真部和人(坂口健太郎)の物語だ。同窓会で再会した2人の恋を通して、生きることを描いた映画であり、主題歌「うるうびと」は、坂口演じる和人の目線で作られた。坂口出演のMVでは、まるで映画の続きを見ているような、その後の和人のある一日が映し出される。朝目覚めて、茉莉との日々を感じる写真が映し出され、茉莉のビデオカメラを手に街並を歩く、電車に乗る、想い出の場所を訪ねて懐かしさに温かな笑みがこぼれる、そして向かう先はーー。
和人の映像の合間には、ピアノで「うるうびと」を弾き、歌う、野田洋次郎の姿が差し込まれていく。都会の屋上、河辺、雪原、海辺……その場所は、茉莉と和人の想い出の場所であり、映画とMVの世界、和人と野田がシンクロしていくかのような5分23秒の世界がそこにはある。なぜ、これほどまでにシンクロするのか、心を奪われるのか、温かい気持ちで満たされるのか。藤井監督と野田の相性、映画と音楽の相性が良かったと言ってしまえば簡単だが、「なぜ」の部分を想像してみると、野田洋次郎はもう一人の和人であると考えたくなる。