シティポップ(再)入門:松原みき『POCKET PARK』 「真夜中のドア~stay with me」と共に再評価すべき理由

 さらにすごいのは、他にも当時の最先端を走っているミュージシャンに楽曲を依頼していることだ。芳野藤丸が作曲し、彼のバンド・SHŌGUNが全面バックアップした歌謡ディスコ「His Woman」、Tinnaやジム・ロックスといった洋楽志向のポップスをクリエイトしていた惣領泰則が手掛けた「Manhattan Wind」と「偽りのない日々」、シンガーソングライターとしても活動していた梅垣達志による「Trouble Maker」と「Mind Game」が収められている。いずれもソウル、ディスコ、ファンク、AORなど当時の洋楽のエッセンスを最大限に活かし、その上で洋楽かぶれではなくドメスティックな魅力に溢れたナンバーばかり。日本語ポップスと洋楽の見事なクロスオーバー作品となっているのだ。

松原みき『POCKET PARK』

 『POCKET PARK』は「真夜中のドア~stay with me」のヒット効果もあり、アルバムチャートで13位まで上昇。デビュー作にして出世作となったことは間違いない。松原みきは、その後も「あいつのブラウンシューズ」(1980年)、「ニートな午後3時」(1981年)、「Jazzy Night」(1981年)といった歌謡曲的な情緒をほのかに匂わせる名曲をシングルとして続々と発表。アルバムも力作ばかりだったが、その歌唱力は高く評価されていたものの、セールスは伸び悩んだ。そして、1988年の『WiNK』を最後にシンガーとしての活動を休止。90年代以降はアニメの主題歌などでソングライターとして名を馳せることになる。そして、2004年には44歳という若さで早逝してしまうのだ。

 先述の通り、松原みきが残したアルバムはいずれも聴きごたえのあるものばかりだ。そのなかでも『POCKET PARK』は、瑞々しく粒選りの楽曲が揃っており、デビュー作ならではの輝きがある。もちろん「真夜中のドア~stay with me」はシティポップを代表する屈指の名曲ではあるが、アルバム『POCKET PARK』も同じように再評価すべき名盤なのだ。

■著者書誌情報
星海社新書『「シティポップの基本」がこの100枚でわかる!』
ページ数:256ページ
発売日:2022年2月22日(火)※お住まいの地域により発売日は異なります
定価:1000円(税別)
販売サイト:https://www.seikaisha.co.jp/information/2022/02/01-post-211.html

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