シティポップ(再)入門:山下達郎『FOR YOU』 揺るぎない最高傑作、シティポップのアイコンとして位置づけられる所以

 日本国内で生まれた“シティポップ”と呼ばれる音楽が世界的に注目を集めるようになって久しい。それぞれの作品が評価されたり、認知されるまでの過程は千差万別だ。特に楽曲単位で言えば、カバーバージョンが大量に生まれミーム化するといったインターネットカルチャー特有の広がり方で再評価されるケースが次々登場している。オリジナル作品にたどり着かずとも曲を楽しむことが可能となったことで、それらがどのようなバックボーンを持ち、どのようにして世に生み出されたのかといった情報があまり知られていない場合も少なくない。

 そこで、リアルサウンドではライター栗本斉氏による連載『シティポップ(再)入門』をスタートした。当時の状況を紐解きつつ、それぞれの作品がなぜ名曲・名盤となったのかを今一度掘り下げていく企画だ。毎回1曲及びその曲が収められているアルバムを取り上げ、歴史的な事実のみならず聴きどころについても丁寧にレビュー。当時を知る人、すでに興味を持ってさまざまな情報にふれている人はもちろん、当時を知らない人にとっても新たな音楽体験のガイドになるよう心がける。

 連載第2回となる今回は、当時から現在に至るまで山下達郎の代表作として高く評価されている『FOR YOU』について解説していく。(編集部)

山下達郎『FOR YOU』

山下達郎『FOR YOU』
山下達郎『FOR YOU』

 本人が自覚/自認しているかどうかは別にして、シティポップと呼ばれる音楽の頂点に君臨しているアーティストが山下達郎だ。音楽性に関して申し分ないのは当然のことだが、セールス的にもしっかりと成功し、なおかつ昨今は海外での評価も高く進んでいる。ヒップホップファンならご存知だろうが、昨年グラミーを獲得した旬なヒップホップアーティストであるタイラー・ザ・クリエイターが、『COZY』(1998年)に収録された「FRAGILE」をまるごと弾き直し・歌い直しで引用していたことも記憶に新しい(『IGOR』収録「GONE, GONE / THANK YOU」/2019年)。あくまでもこれは断片的な話題でしかないが、これまで届かなかった各国の音楽ファンにタツローサウンドは“再発見”され続けているのは特筆すべきことだろう。もちろん、国内においても新規のファンを獲得し続けている稀有なアーティストである。

 そんな山下達郎の代表作はいくつも挙げられるだろうが、『FOR YOU』は間違いなく最上級の作品のひとつだろう。1982年に発表した本作は、オリジナルアルバムとして数えると通算6作目。前作アルバム『RIDE ON TIME』(1980年)で初のオリコン1位を獲得した後に位置する作品ということもあり、商業的にもピークを迎えた時期だ。ある程度キャリアを重ね、クリエイティビティとテクニックがバランス良く備わった上で、最大限に才能を爆発させた作品といえる。当然本作もオリコンのアルバムチャートで1位を獲得し、まさしく実力と結果がしっかりと実を結んだのが『FOR YOU』なのである。

 ただし、この『FOR YOU』に至るまでの道のりは、けっして平坦ではなかった。今でこそ山下達郎は、音楽ファンからすると神のような存在であるが、商業的に成功するまでには地道な苦労を重ねている。シティポップの元祖といわれることも多いシュガー・ベイブを大貫妙子らと結成し、1975年にアルバム『SONGS』を発表したのが本格的なデビュー。この作品は日本語ロックの名盤として高く評価されているが、当時は異色の存在。熱狂的なファンはいたがブレイクする前に解散してしまう。続く初のソロアルバム『CIRCUS TOWN』(1976年)は当時にしては珍しいニューヨークとロサンゼルスでのレコーディングだったが、内容に反してセールスは芳しくなかったという。その後も業界内での評判はそれなりにあったとはいえ、一般的には彼の音楽はそれほど理解されなかった。しかし、大阪のディスコで彼の「BOMBER」(シングル『LET’S DANCE BABY』収録/1979年)という曲が流行り始めた1979年頃から風向きが変わり始め、ライブの動員もじわじわと上昇。翌1980年に自身も出演したカセットテープのCMに「RIDE ON TIME」が使用されたことで、一気にブレイクした。

 そんな中で生まれた『FOR YOU』は、当時から現在に至るまで彼の代表作として高く評価されている。その理由は、核となる楽曲を紐解けば理解できるだろう。なんといっても冒頭を飾る「SPARKLE」だ。印象的なギターのカッティングに始まり、疾走するリズムをにぎやかなホーンセクションが彩るイントロの高揚感。もちろんボーカルが入るとその感覚はさらに増していく。このダイナミックなグルーヴとポップなメロディの融合こそ、当時のタツローサウンドの真骨頂である。本作をレコーディングする前は長いツアーに出ており、ライブを重ねる過程でバンドメンバーのアンサンブルも強固になっていったこともあり、その結果が個性的で強靭なアレンジを生み出したといえるだろう。

 クレジットされているリズムセクションのメンバーは、山下達郎本人のギターに加え、青山純(Dr)、伊藤広規(Ba)、難波弘之(Key)という面々だが、彼らはその後も長らくツアーを共にする重要なキーパーソンたちである。彼らが作り出すサウンドは、単にスタジオミュージシャンを集めて演奏しただけでは生まれ得ない質感を醸し出している。加えて、高揚感をさらに煽るのが吉田美奈子のバッキングボーカルだ。彼女はすでにソロアーティストとして活躍していたが、山下達郎作品にはキーパーソンとして深く関わり続けていた。迫力あるソウルフルなコーラスはもちろんのこと、作詞家としても重要な役割を担っている。彼女の洗練された歌詞があってこそ、シティポップと解釈されるといってもいいのかもしれない。

 「SPARKLE」と並んで『FOR YOU』の核となる楽曲が「LOVELAND, ISLAND」だ。レコードでいうとB面の1曲目ということもあって、「SPARKLE」と並ぶ本作の顔であることは間違いない。この曲も「SPARKLE」と同じくツアーメンバーでレコーディングされている。パーカッションやハープなどもアレンジに加えられているが、圧倒的な高揚感を生み出す楽曲ということでいえば「SPARKLE」と双璧を成す一曲だ。ビールのCMで使用されたこともあって、当時はファン以外にも認知度が高く、今もなお代表曲のひとつに数えられている人気の一曲だ。

 もちろん、この2曲以外にも『FOR YOU』には秀逸な楽曲が満載だ。松木恒秀(Gt)、岡沢章(Ba)、佐藤博(Key)といった先のバンドメンバーとは違うリズムセクションを敢えて起用して録音したという「MUSIC BOOK」、竹内まりやに提供した楽曲のセルフカバー「MORNING GLORY」、最初期のソロ作を思わせるクールなファンクの「LOVE TALKIN’ (Honey It’s You)」、英語詞でラストをドラマティックに盛り上げるバラード「YOUR EYES」と、非常にバラエティに富んだ楽曲が並び、なおかつアレンジや演奏のクオリティも文句の付けどころがない。また、曲間に「INTERLUDE」と名付けられたアカペラのフレーズを挟み込むことで個々の楽曲を際立たせることに成功し、アルバムのトータリティを高めている。このあたりも『FOR YOU』が特別である理由といえるだろう。



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