シティポップ(再)入門:寺尾聰『Reflections』 “奇跡の年”に生まれた名実ともにシティポップの頂点

 日本国内で生まれた“シティポップ”と呼ばれる音楽が世界的に注目を集めるようになって久しい。それぞれの作品が評価されたり、認知されるまでの過程は千差万別だ。特に楽曲単位で言えば、カバーバージョンが大量に生まれミーム化するといったインターネットカルチャー特有の広がり方で再評価されるケースが次々登場している。オリジナル作品にたどり着かずとも曲を楽しむことが可能となったことで、それらがどのようなバックボーンを持ち、どのようにして世に生み出されたのかといった情報があまり知られていない場合も少なくない。

 そこで、リアルサウンドではライター栗本斉氏による連載『シティポップ(再)入門』をスタートした。当時の状況を紐解きつつ、それぞれの作品がなぜ名曲・名盤となったのかを今一度掘り下げていく企画だ。毎回1曲及びその曲が収められているアルバムを取り上げ、歴史的な事実のみならず聴きどころについても丁寧にレビュー。当時を知る人、すでに興味を持ってさまざまな情報にふれている人はもちろん、当時を知らない人にとっても新たな音楽体験のガイドになるよう心がける。

 連載第4回となる今回は、寺尾聰『Reflections』を紹介。「ルビーの指環」を収めた本作が、大滝詠一『A LONG VACATION』とともに特大ヒット作となった音楽的背景について解説する。(編集部)

寺尾聰『Reflections』

 もしもシティポップの年表を作るとしたら、1981年は非常に重要な1年に数えられるのではないだろうか。その理由は、シティポップの数ある名盤のなかでも、特大ヒットアルバムが2作生まれているからである。ひとつは3月に発売された大滝詠一の『A LONG VACATION』。惜しくもオリコンの週間アルバムチャートでは2位にとどまったが、年間チャートでも2位となり、100万枚を超えるセールスを記録した。そして、もうひとつの特大ヒットが寺尾聰の『Reflections』である。名曲「ルビーの指環」を収めた本作は4月にリリースされ、当然オリコン週間チャートは1位。セールスも1年間で軽く180万枚を突破したという。ちなみに大滝詠一が年間チャートの1位を取れなかったのは、寺尾聰に阻まれたから。いずれにせよ1981年の春にこれだけの名作が2枚店頭に並んでいたことを考えると、この時期こそがまさにシティポップの黄金時代といっていいはずだ。

 寺尾聰というアーティストは非常にユニークな存在である。1947年生まれなので、大滝詠一(1948年生まれ)と同世代、山下達郎(1953年生まれ)や竹内まりや(1955年生まれ)といったいわゆるシティポップの第一世代よりも少し年上だ。音楽活動は、1965年にグループサウンズのバンド、ザ・サベージに参加したことから始まっている。その後脱退し、ザ・ホワイト・キックスというジャズやラテンをベースにしたグループに加入。1970年にはザ・ホワイト・キックスのメンバーでもあったジャズピアニスト、三保敬太郎の全面協力のもとでソロアルバム『二人の風船/恋人と一緒に聴いて下さい』を発表している。この作品はソフトロックやボサノヴァを取り入れた傑作としてのちに評価されることになったが、当時はあまり話題に上ることはなかった。

 というのも、寺尾聰の父は名俳優として知られる宇野重吉であり、父の影響もあって音楽よりも俳優活動に力を入れ始めていたからだ。1968年に公開された石原裕次郎主演の社会派映画『黒部の太陽』でデビューし、そのまま石原プロモーションに所属することになり、ホームドラマから時代劇まで数々の映画やテレビドラマに出演して実力を付けていった。特に『大都会』や『西部警察』といった刑事ドラマでのクールな佇まいで人気を博し、1970年代末には俳優としての地位を確立している。80年代以降は黒澤明監督の『乱』(1985年)や『夢』(1990年)を筆頭に、『雨あがる』(2000年)、『博士の愛した数式』(2006年)などの大作や話題作に主演し、日本アカデミー賞を始め数々の賞も受賞している。今や日本を代表する名優のひとりであるのはご存知の通りだ。

 こういった経歴を考えると、音楽活動はあくまでもサイドワークといったところなのだろうが、そこは彼のセンスと実力で片手間になることはなかった。70年代はそれほど大きな動きはなかったが、1980年に入ると8月に「SHADOW CITY」、10月に「出航 SASURAI」を発表する。この時点ではそれほどの反応はなかったが、翌1981年2月にリリースした「ルビーの指環」がじわじわと売れていき、3月19日にテレビの歌番組『ザ・ベストテン』に9位で初登場。その後は破竹の勢いで首位に上り詰め、オリコンチャートでも3月30日付で1位を獲得。『ザ・ベストテン』では4月9日放送から12週連続1位という番組での最長首位記録となった。当時の『ザ・ベストテン』の影響力は多大で、それこそ老若男女誰もが、〈くもり硝子の向うは風の街〉と口ずさむことができたほどだ。オリコンのシングルチャートでも10週連続1位、年間チャートも当然1位。とにかくこの時期は寺尾聰旋風が巻き起こり、彼のことを知らない人はいなかった。

「SHADOW CITY」
「出航 SASURAI」
「ルビーの指環」
 

 「ルビーの指環」の大ヒットを受け、「SHADOW CITY」と「出航 SASURAI」もチャートを再浮上し、いずれもトップ10にランクインしたというのも、当時のパワーを物語っている。そして同年4月にリリースされたこれらのシングル3曲を含むアルバム『Reflections』も売れに売れたのは当然といってもいいだろう。いわゆるヒットものかもしれないが、今の耳で聴くと当時の歌謡曲やニューミュージックとは一味違うことに気付くだろう。洋楽ナイズされた斬新なサウンドと、大人っぽい雰囲気が充満した歌詞、そして独特のボーカルの味わいに圧倒される。冒頭のラテンテイストのファンクリズムが躍動する「HABANA EXPRESS」に始まり、オールディーズ風のポップチューン「渚のカンパリ・ソーダ」、レゲエのリズムを取り入れた「喜望峰」、メロウな雰囲気からリズムチェンジする展開がクールな「二季物語」、そして最もシティポップ的要素を感じさせるミドルグルーヴの「予期せぬ出来事」などとにかく名曲揃い。そしてどの曲も憂いのあるボーカルによって、アダルトでアンニュイなトーンに統一されているのだ。

『Reflections』



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