クリープハイプ、KANA-BOON、Base Ball Bear……フェスブームの先、新境地に立つバンドたち

 日本全国でロックフェスが隆盛したこの20年間。中でも直近の10年間は地方都市でもオールシーズンでフェスが増加し、季節の風物詩やレジャーイベントとしても定着。カルチャーとしても産業としても長期に渡るブームとなり、様々なバンドが台頭する機会となった。

 2012年、メジャー1stアルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』で一躍シーンの最先端へと躍り出たクリープハイプ。当時は先述のフェスブームが勢いに乗り始めた頃であり、新勢力のバンドとして認知されることとなった。翳りのある想いやこじれた恋愛感情のもつれなどフェスの享楽性とは距離がある楽曲も多かったはずだが、アルバムリード曲「オレンジ」の四つ打ちビート、インディーズ期からの人気曲「HE IS MINE」の〈セックスしよう〉を観客全員で叫ぶ“一体感”は当時の観客たちのニーズと合致していた。

クリープハイプ 「HE IS MINE」

 しかし本来そういったフェスでの機能性を主軸としていなかったクリープハイプは求められる音と鳴らしたい音の狭間でトライアルを続けた。2016年の4thアルバム『世界観』は、開けたシングル曲と混沌としたアルバム曲のコントラストによって異様な気迫を持つ傑作に仕上がった。そして2018年、5thアルバム『泣きたくなるほど嬉しい日々に』ではどこか悟りを開いたかのように穏やかで自然体な音楽を創出し、分かりやすい熱狂や目に見える人気に縛られないアーティストとしてのクリープハイプの姿が如実になった。

 2021年12月リリースの6thアルバム『夜にしがみついて、朝で溶かして』はサウンド面に豊かな実験性が花開いた作品となった。コロナ禍により、対面での楽曲制作に限らない多彩なアプローチが功を奏した結果と言えるだろう。ホーンセクションとまろやかなメロディが光る「愛す」、メロウさがチルアウトを誘う「ナイトオンザプラネット」、サイケデリックなポエトリーリーディング「なんか出てきちゃってる」など従来のイメージを覆す楽曲ばかり。一方で1stアルバムのタイトルをオマージュした「一生に一度愛してるよ」では〈初期はもっと勢いがあったし尖ってたのに 最近なんか丸くなっちゃったからつまんないな〉というフレーズで「初期は良かった」と言いがちなリスナーにトゲを刺すなど、ユーモアと毒気は健在。フェスブームの先、自由なフォームでリスナーと濃厚な関係を結んだのだ。

クリープハイプ - 「愛す」 (MUSIC VIDEO)

 KANA-BOONは2013年にメジャーデビュー。先述のフェスブーム最盛期をトップスピードで駆け抜け、スターダムにのし上がったバンドの代表格だ。短期間の内にリリースを重ね、キャッチーなリフや歌メロと否応なしに体が動くリズムは間違いなく時代を象徴する音だった。

KANA-BOON 『ないものねだり』Music Video

 そんな彼らは2019年にメンバーの脱退、2020年には谷口鮪(Vo/Gt)の休養に伴う活動休止を経験。2021年、再始動後の楽曲である「HOPE」や「Re:Pray」を聴くと、これまで以上に歌と言葉の強さを打ち出したバンドになっていることが分かる。強い意志と温かな想いに貫かれた楽曲は、熱狂よりもじっくりと聴くことを信頼した音だ。「スターマーカー」といった近年の作品では外部アレンジャーとの融和も果たし、進化はまだ止まらない。

KANA-BOON 『Re:Pray』Music Video

 今一度振り返るに、初期からメロディの存在感が強く印象に残るバンドだったと思う。フェスブームの先、“四つ打ち”の括りが外れた今、もう一度その歌が輝く時が訪れた。

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