トラヴィス・スコット主催フェス『Astroworld Festival』で何が起こっていたのか 現地報道などを整理

 2021年11月5日、アメリカ・テキサス州のヒューストンにて、人気ラッパー/ミュージシャンのトラヴィス・スコット主催による音楽フェスティバル『Astroworld Festival』が開催された。同イベントは2018年以降毎年開催されていたが、昨年度はパンデミックの影響により開催中止を余儀なくされており、ファンにとっても本人にとっても念願の開催となるはずだった。しかし、今ではこのイベントは『Astroworld Tragedy(Astroworldの惨劇)』と呼ばれており、連日に渡って報道が続いている状態となっている。

 イベントのヘッドライナーを務めるトラヴィス・スコットがステージに出演した際、ステージに向かって膨大な人数の観客が押し寄せるなどで混乱が生じ、14歳と16歳の若者を含む9名の死者、そして数百名にも及ぶ負傷者が出る事態となった(※1、2)。その多くは若者であり、中には9歳の少年であるEzra Blount(エズラ・ブラウント)氏も含まれている。彼はコンサート会場で大量の観客に圧迫され、蹴られたり、踏みつけられたことで心停止による心臓の損傷や外傷に伴う臓器や脳への深刻なダメージにより昏睡状態にあり、生命維持装置に繋がれているという状態が続いている(※3)。

 今回の事件について、現在は警察による全面的な調査が進行中であり、被害者の正確な死因や事件の原因の究明が進められている。捜査のためにフェスティバル会場は解体されることなく開催当時のまま残されており、開催地となったNRGパークには多くの花束が手向けられ、連日多くの弔問者が集まっている。

 今回の事件を受けて、トラヴィス・スコット本人やドレイクなどの出演者、プロモーター及び運営会社であるLiveNation、コンサートの生配信を実施したApple MusicなどはそれぞれSNSなどを通じて声明を出している。また、トラヴィスは声明に併せて、今回の事件の犠牲者の葬儀費用を負担すること、イベントの参加者や事件による影響を受けた人々へオンラインカウンセリングサービスを提供することを発表した。以下は11月7日に発表されたトラヴィス・スコット自身の声明の筆者による日本語訳である。

“昨晩起きた出来事について、本当にショックを受けています。『Astroworld Festival』で起きた事件によって被害を受けた皆様やそのご家族に心からの祈りを捧げます。
ヒューストン警察による今回の悲劇的な事件の調査について、私は全面的に協力致します。
私は、治療や助けを必要としている家族の皆様の為に、ヒューストンの地域コミュニティと共に協力することを約束します。ヒューストン警察、消防署、NRGパークの皆様による、迅速な対応と支援に感謝します。”(※3)

 前述の通り、あくまで事故の原因については警察による調査中の段階ではあるものの、各メディアによる参加者への取材や、被害者による記者会見、当日現場にいた人々のSNSへの投稿などによって、現場の極めて過酷かつ異常な状況がある程度明らかになっている。

 事件により脳死状態となった末、10日に息を引き取り、9人目の死者となったBharti Shahani(バーティ・シャハニ)氏の妹であるNamrata Shahani(ナムラタ・シャハニ)氏は、現地メディアであるABC13の取材に応じ、当時の様子について次のように語っている。

“観客の一人が倒れると、まるでドミノ倒しのように周りの人々も倒れていき、それはまるでシンクホール(陥没穴)のようでした。地面には人間の体がいくつも横たわっていて、二人分くらいの厚さになっていました。私たちはそこから生き延びるためになんとか息を吸おうと、必死で這い上がろうとしていました。”(筆者訳)(※4)

 この言葉を裏付けるように、SNSでは現地の観客が大声で助けを求めたり、警備員やカメラマンなどのスタッフにコンサートの中止を訴えたり、意識を失った観客が人々の頭上を運ばれていくといった光景を撮影した映像が数多く投稿されている。また、このコンサートはリアルタイムでApple Musicで生配信されており、その映像からは大量の観客が圧迫されながら塊のように大きく揺れ動く様子を確認することが出来る(※5)。

 このような状況にも関わらず、パフォーマンスを(途中で一時的に停止する場面はあったものの)最後まで続行し、むしろ盛り上がるように観客を煽り続けたトラヴィス・スコット本人や、スタッフの対応力の低さ、会場における緊急時の導線や医療設備などの不備を非難する声は非常に多い。また、前述のEzra氏の家族によるものを含め、今回の事件を巡っては35件以上の訴訟が発生しており、その大部分がトラヴィス・スコットとイベントを手掛けたLive Nationを相手取ったものとなっている(※6)。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「音楽シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる