YOASOBI「夜に駆ける」から考える、全編英語詞リリースの意義 BTSやSexy Zoneも……楽曲の魅力を広く届ける手段に

 一方で、このようなアーティストにとってネイティブではない言語による楽曲というのは、基本的には元々存在していたファンベースの外側へ届けるための存在として機能するものである。コアなファンであればそれが自分の理解出来ない言語でも拒絶することなく、むしろ自ら能動的に歌詞の意味を調べることもあるだろう。また、その言語だからこそ生まれる音の響きやリズム感も楽曲が持つ魅力の一つとして受け入れていると考えられる。実際、言語を変えることなく海外活動を展開するというパターンも決して珍しくはなく、例えばBABYMETALの場合は今も日本語詞による楽曲をメインに活動を続けており、コラボ曲「Kingslayer」を制作したイギリスのロックバンド、Bring Me The Horizonは楽曲制作に際してBABYMETALのパートを日本語詞にすることに強いこだわりを見せていた(※2)。世界中にファンベースを抱える初音ミクの海外公演においても、国を問わず日本語の名曲群が熱狂的な盛り上がりを見せており、前述のBTSの場合も「Dynamite」でのブレイク後に韓国語詞の楽曲である「Life Goes On」を全米チャート1位に送り込んでいる。

Bring Me The Horizon - Kingslayer (Lyric Video) ft. BABYMETAL
BTS (방탄소년단) 'Life Goes On' Official MV

 では、それでもなお別言語によるバージョンの楽曲をリリースする意義とは何だろうか?まず考えられるのは、ファンダムの枠を越えて外国語圏に届けようとする場合は、やはり言語という壁が立ちはだかってしまうという点である。何かしらの方法によって存在が認知されてからであれば、未知の存在ではなくなるため言語の問題は小さくなっていく。だが、その前の認知の段階では、今なお言語による壁は大きく、BTSの場合も以前より米国でのファンベース自体は構築されていたものの、ラジオでのヒットといったメインストリームへの進出のきっかけとなったのはやはり英語詞による楽曲である。

 ただ、それより重要なのは、純粋に楽曲を様々な人々に届けたいというシンプルな想いだろう。そもそも冒頭で紹介したツイートが示す通り、「夜に駆ける」で描かれている内容を理解していない人々が大勢いるのだ。楽曲の歌詞の意味を理解することなく無邪気に楽しむことは聴き手にとっては音楽の一つの楽しみ方ではあるが、それは少なくとも作り手にとっては理想的な光景ではないかもしれない。特にYOASOBIは小説を元に音楽を作るユニットであり、歌詞で描かれる世界に重きを置いて活動を行っている。その世界を一人でも多くの人に届けたいと考え、翻訳したバージョンを制作するというのは極めて自然なプロセスだ。「Into The Night」では、前述した言語特有の響きやリズム感を損なわないように、ある程度文法を犠牲にしてでも原曲に近い印象を与えるよう英語詞が作り込まれているが、この取り組みからも原曲の魅力を可能な限り残したままで、多くの人々に届けたいという意志を強く感じることが出来る。

 「Into The Night」のYouTubeのコメント欄に寄せられた外国語のコメントの多くは、原曲に慣れ親しんだファンによる日本語詞のように聴こえる英語詞の作り込みを称賛するコメントであり、本楽曲はすでに「夜に駆ける」の新たな楽しみ方の一つとして、あるいはYOASOBIの持つ才能の新たな一面を示す楽曲として受け入れられているようだ。YOASOBIは「三原色」についても英語バージョンを発表しており、このような試みは今後も続いていくことだろう。果たしてこの音楽がどこまで届いていくのか、その未来を心から楽しみにしている。

※1 https://twitter.com/yoasobi_staff/status/1252766204898406401
※2 https://gekirock.com/interview/2020/10/bring_me_the_horizon_2.php

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる