YOASOBI、「夜に駆ける」から『NHK紅白歌合戦』出場、1st EP『THE BOOK』発売までの軌跡を徹底解説

YOASOBI、「夜に駆ける」から『NHK紅白歌合戦』出場、1st EP『THE BOOK』発売までの軌跡を徹底解説

 コロナ禍を受け、不測の事態に備えて多くの人々が巣篭もり生活を余儀なくされた2020年、先の見えない不安のさなか、それを緩和させたのは、「本」や「映画」、「音楽」といった各種エンタメコンテンツだった。わけても、それまで特定の層を中心に人気を集めていたライブ動画アプリや定額制の動画/音楽配信サービスは、4月の緊急事態宣言以降、より身近な存在になった感がある。そんななか、コンスタントに新曲を発表して人々の心を満たすと共に、昨年の音楽シーンを牽引したのが、『第71回NHK紅白歌合戦』(NHK総合)でテレビ初パフォーマンスを披露したYOASOBIだ。本稿では、彼らのデビューから『紅白』出場、そして1st EP『THE BOOK』発売までの軌跡を辿る。

ストリーミング再生回数累計3億回を突破の「夜に駆ける」

 YOASOBIは、ソニーミュージックエンタテインメントが運営する小説&イラスト投稿サイト「monogatary.com」の投稿小説を音楽にするプロジェクトから誕生した男女2人組ユニット。メンバーは、作詞・作曲・編曲を手掛けるコンポーザーのAyaseと、ボーカリストのikura(幾田りら)で、彼らはそれぞれが、ボーカロイドプロデューサー、シンガーソングライターの顔を持つ。また、ikuraはソロ活動とは別に、アコースティック・セッションユニット“ぷらそにか”のメンバーでもある。

 そんな彼らのYOASOBIとしての活動は、2019年10月1日に配信された1本の動画から始まった。ikuraが星野舞夜の小説『タナトスの誘惑』の一節を読み上げたティザー動画だ。ティザー動画とは、商品や新規コンテンツの公開日に向けて情報を小出しにして興味を煽る性質のもので、商業広告手法のひとつ。音楽の分野では、K-POPアーティストのそれに秀逸なものが多く、YOASOBIもまたこれを効果的に採用している。

” YOASOBI ” November 2019 debut. teaser

 翌月16日には『タナトスの誘惑』を原作としたデビュー曲「夜に駆ける」のミュージックビデオ(以下MV)をAyaseのYouTubeチャンネルで公開。次いで12月15日に配信限定シングルがリリースされると、動画SNSのTikTokや、SHOWROOM、17liveといったライブストリーミングサービス利用者の間で話題となり、ライバーによる歌唱や配信中のBGM使用を機に一気に拡散。年明けには、Spotifyのバイラルチャートで1位を記録し、同時に各種音楽チャートを急上昇。さらに5月15日、アーティストが一発録りでパフォーマンスするYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』のコンテンツ「THE HOME TAKE」でikuraの歌唱が配信されると、国内外の視聴者によるリアクション動画や、香取慎吾、宇野実彩子(AAA)、Toshlらをはじめとするアーティスト、一般視聴者によるカバー演奏が次々とアップされ、それらは瞬く間に世界へと広がった。その結果、昨年5月以降、現在までに「夜に駆ける」のストリーミング再生回数は累計3億回を突破し、さらに記録を更新中だ。

YOASOBI「夜に駆ける」 Official Music Video

「あの夢をなぞって」「ハルジオン」「たぶん」も続々リリース

 一方、「夜に駆ける」のヒットと並走させる形で、2020年1月18日には「あの夢をなぞって」(原作・いしき蒼太『夢の雫と星の花』)、5月11日には「ハルジオン」(原作・橋爪駿輝『それでも、ハッピーエンド』)、7月20日には「たぶん」(原作・しなの『たぶん』)を発表。これらはティザー動画の配信後、ほどなくMVと配信限定シングルが同時リリース。それぞれ、はるもつ、篠田利隆(異次元TOKYO)、南條沙歩がアニメーションを手掛けている。余談だが、南條沙歩による「たぶん」のティザー動画は、視聴者が手元のPC操作で画面を360度見渡せる楽しい仕掛けなので、未見の方は是非とも試していただきたい。

YOASOBI 第三章「たぶん」teaser

物語を咀嚼した上で言葉を吟味・抽出し、新たな世界を提示するYOASOBIの楽曲

 YOASOBIの楽曲は、いずれも小説を基にAyaseが作詞・作曲を手掛けているが、彼は作中の言葉をそのまま採用するのではなく、物語を咀嚼した上で言葉を吟味・抽出し、新たな世界を提示している。原作のエッセンスを取り入れつつも、音感を意識しながら、一聴して耳に残る言葉に置き換え、聴き手の心を揺さぶる術に長けているのだ。とりわけ「夜に駆ける」と「たぶん」の換骨奪胎ぶりはその真骨頂。おそらく誰もが「夜に駆ける」をはじめて聴いた際、それが、死神に導かれ身投げする主人公を描いた作品だとは思わなかっただろう。ともすれば、爽やかな恋愛ソングと受け止めがちだ。しかし、楽曲を聴いたあとで原作を読み、改めてMVを目にすれば、それらが互いに相乗効果を生み、作品に深みを持たせていることが判る。

YOASOBI「たぶん」Official Music Video

 また、「たぶん」では、同居人との別れの朝を描いた原作を基に〈僕らは何回だってきっと/そう何年だってきっと/さよならに続く道を歩くんだ〉と紡いで見せた。実はこれらの言葉は原作に一度も登場しない。しかし、出会いと別れを俯瞰で捉えたこの歌詞は、あたかも人間関係の真髄を示したかのようで、主人公の思いを端的に言い表している。浮遊感漂うメロディとサウンドに歌詞が溶け合い、幾重にも意味を持つ不思議な効果を生んでいるのだ。このように、聴き手が自らの思いを重ね、深読み、拡大解釈出来るのもYOASOBI楽曲の魅力だろう。

 一方、Ayaseが紡いだ言葉を、主人公の気持ちに寄り添って歌うikuraは、作品ごとに様々な表情を見せ、難易度の高い音域も軽やかに、そして鮮やかに表現している。決して感情過多に陥ることなく、絶妙にコントロールされ、時にクールに、またある時は独特の揺らぎを伴って聴き手を魅了するのだ。

 ちなみに彼女の別の側面は、YOASOBIとソロ活動の合間にシンガーに徹して録音に臨んだNetflixオリジナル映画『フェイフェイと月の冒険』日本語版エンド・クレジット・ソング「ロケット・トゥ・ザ・ ムーン~信じた世界へ~」やGoogle Pixel 4aのCFで使用されたバート・バカラックの「(THEY LONG TO BE) CLOSE TO YOU」、サントリーのCFで披露されたベートーヴェン作曲「交響曲第9番第4楽章<歓喜の歌>」の歌唱で垣間見られる。

『フェイフェイと月の冒険』/幾田りら「ロケット・トゥ・ザ・ムーン~信じた世界へ~」楽曲スペシャル映像
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