瑛人、優里、Ado……自然発生的なカバー動画が拡散 新たなヒット曲のセオリーとは

Ado「うっせぇわ」

 ではなぜ、YouTubeやTikTok発のヒット曲が急増したのだろうか。それは楽曲が消費されることを待つだけの存在ではなく、同時に表現の手段にもなっていることが要因のひとつかもしれない。例えばYouTubeで「香水」と検索すると、オフィシャルMVだけでなく、数多くのカバー動画がアップされていることに気づく。前述した「ヒット曲のセオリー」を思い出すと、アーティストやレコード会社側からの発信は片方向的で、楽曲がリスナーの耳に入ることで終結していた。一方、YouTubeやTikTok発のヒット曲は、アーティストやレコード会社側から楽曲が発信されるやいなや、カバー動画が次々とアップされ、そのカバー動画が原曲自体を知らしめる媒体の一つとして機能している。

香水/瑛人 MV再現 歌ってみた!しんごちん【香取慎吾】
うっせぇわ 歌ってみた【りぶ】

 ここで重要になるのは、純粋に「良い楽曲」というだけでなく、自分も歌ってみたくなる楽曲であること。「香水」がその好例で、弾き語り形式のシンプルな構成や、キャッチーな歌詞が特に好まれてカバーされる傾向があるようだ。たしかに〈君のドルチェ&ガッバーナの その香水のせいだよ〉というパンチラインを口に出してみたくなる気持ちもわからなくはない。また、「うっせぇわ」も同様だ。〈うっせぇわ〉を連呼したサビは一聴しただけで頭に残る。この曲は歌い手だけに止まらず一般層にまでカバーされるようになり、『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)でもフィーチャーされるまでに至っている。

 特にコロナ禍では、表現の場を求めて動画投稿に挑戦する人も多く、自然発生的なカバー動画の拡散が、原曲自体を後押しするケースも増えている。このインタラクティブな音楽の楽しみ方こそ、2020年代の新たなヒット曲のセオリーなのかもしれない。

■Z11
1990年生まれ、東京/清澄白河在住の音楽ライター。
一般企業に勤務しながら執筆活動中。音楽だけにとどまらず映画、書籍、アートなどカルチャー全般についてTwitterで発信。ブリの照り焼きを作らせたら右に出る者はいない。
Twitter(@Z1169560137)

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