瑛人が伝える嘘偽りのないリアルな姿 細かい工夫と独自のセンスに彩られた、アルバム『すっからかん』を聴き解く

瑛人、工夫とセンスに彩られた1stアルバム

 瑛人の「香水」は2020年随一の国民的ヒット曲だ。〈君のドルチェ&ガッバーナのその香水のせいだよ〉というフレーズは、老若男女関係なく多くの人が口ずさめるだろうし、瑛人の存在自体もここ1年で急上昇した。SNSでは一般のファンだけでなくプロのミュージシャンも含めて数多くのカバー動画が投稿されており、1年の間に多くの人に愛される名曲となった。

 しかし知名度が急上昇したことや歌詞のフレーズがキャッチーなこともあって、ネタにされて面白がられることも多い。それもあってか彼の音楽が正当に評価されていないように感じる。本来の瑛人は美しいメロディを作れるメロディメイカーであり、自身の思想や思考をどのような内容でもポップでキャッチーにしてしまうセンスを持っている、唯一無二の才能を持ったアーティストなのだ。

 

 「香水」は歌詞の言葉選びやメロディを作るセンスが抜群だからこそ、インパクトを多くの人に与えヒットしたのだろう。瑛人の才能が最大限に発揮されている曲だ。そして、1月1日にリリースされた1stアルバム『すっからかん』を聴けば、さらに彼の音楽の才能を感じることができる。

 例えば1曲目の「僕はバカ」もキャッチーでインパクト抜群である。サビも〈わかるでしょ 僕はバカ でも君に恋してる〉というフレーズは聴けばすぐに覚えてしまう。「ライナウ」では〈ノリで告ったり フラれて泣いたり 毎日ダサいことばかり〉と語尾で韻を踏むことで、歌詞をメロディに心地よく乗せている。細かい工夫と彼にしかないセンスによって、上質なJ-POPとなっているのだ。

 また、多くの実力派ミュージシャンやプロデューサーがアルバム制作に関わっていることも注目ポイントだ。「僕はバカ」「またね feat.松本千夏」「ハピネス」では関口シンゴがプロデュースを手がけており、瑛人のキャッチーなメロディと優しい歌声を生かすように、音数を控えつつも曲の魅力をより引き出すような凝ったアレンジとなっている。

瑛人 / 僕はバカ (Official Music Video)

 特に「またね feat.松本千夏」のアレンジが素晴らしい。元々はアコースティックギター1本でのほっこりとした雰囲気のデュエットソングだったが、その魅力を損なうことなく、さらにアコースティックな優しいサウンドとして彩っている。他にもmabanuaが「Don't be afraid feat. HOTDOGS」を、 Michael Kanekoが「好きにすればいいさ」をプロデュースしている。どちらも多くのアーティストを手がけている一流プロデューサーである。「HIPHOPは歌えない」では韻シストが演奏に参加していることも面白い。瑛人自身の歌声や作詞作曲が良いだけでなく、サポートする仲間も最高なのだ。

 しかし瑛人の音楽の一番の魅力は、やはり彼の思想や思考が音楽として表現されているからだと感じる。例えば「ハッピーになれよ」は前向きで明るいタイトルの曲だが、歌詞では一家離散について歌っていたりと内容が重い。それでも明るいレゲエのリズムで〈みんなハッピーになれよ〉とサビで歌っている。それは開き直りかもしれないが、絶望から立ち上がる強さにも感じる。そんな歌詞と曲だからこそ、音楽に説得力と深みが増す。

瑛人 / ハッピーになれよ (Official Music Video)

 そもそも自身を自虐的に表現している歌詞が多い。「香水」でも〈クズになった僕〉と歌っているし、アルバムのリードトラックも「僕はバカ」だ。そういった表現を用いながらも暗く感じないのは、ダメな自分に落ち込みつつも前向きに認め、笑い飛ばし、開き直っているからだ。「Don't be afraid feat. HOTDOGS」では〈どうせ俺なんてもう とか言って落ち込んだってオーライ〉と歌っていることからも、そんな彼の信念が伝わってくる。自分の信念を曲げず、飾らない自分を明るく音楽にしているのだ。

 「HIPHOPは歌えない」では〈HIPHOPは歌えない 俺はリアルじゃないからさ〉と歌っているが、HIPHOPを歌えないことを素直に歌うこと、それこそが瑛人のリアルなのだ。彼は自分の嘘偽りのないリアルな姿について開き直っている。だからリスナーを感動させ、その音楽によって元気を与えられるのだ。

瑛人 / HIPHOPは歌えない(韻シストver.)

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