Lucky Kilimanjaro 熊木幸丸が追求する、刹那的な音楽に内包されるリアリティ

ラッキリ熊木が追求するリアリティ

今の言葉で、今のダンスミュージックを作りたい

ーー不思議な感覚ですよね。一つひとつの音や言葉は、熊木さんの記憶や、熊木さんが感じる匂いっていう、あくまでも熊木さんの個人的なものに密接に結び付いていると思うんです。なので、そもそもはすごく密室的なものでもあると思うんですけど、それが音楽としては放たれるときに、すごく広い場所に辿り着くというか。

熊木:たしかに不思議ですよね。僕は自分の音楽に自分の「個」を入れているけど、味わってほしいのは僕の「個」じゃない。味わってほしいのは、あくまでも「体験」というか。自己表現だけど自己を見てほしいわけではない……こういう感じは、映画監督の感覚に近いのかもしれないです。映画を観ていても、ほとんど、監督の顔って出てこないじゃないですか。それに近くて、僕は、自分の記憶から場所を用意して、「さあ、皆さんここに入ってください」と言っているような感覚というか。そうすることで、みんなの記憶に別のものが生まれて、それが、その人にとっての原動力になればいいなと思うんですよね。

ーー全体的なコンセプトに関してですが、「朝から夜へ」という全体の流れを設定したうえで、1曲1曲をその構成の中に配置するように作っていったのですか?

熊木:そうですね。「なんとなく昼っぽいな」とか、「なんとなく夜っぽいな」という感じで曲は作っていきました。「朝起きて、夜になって眠る」という流れの中で、最初と最後はできるだけシンメトリーしたいなとも思っていました。ただ、メンバーに曲を聴かせたら「昼っぽい」とか「夜っぽい」の感覚がそれぞれ違ったんですよ。それはそれで面白いなと思いましたね。例えば「アドベンチャー」は、僕としては夕方っぽいイメージで作っていたんですけど、メンバーに聴かせたら「いや、これは昼だ」といわれたりして(笑)。

ーー「アドベンチャー」の歌詞には〈エディくらいEruption/かき鳴らせ次のロックスター/物語はみんなでJumpするほうが楽しそう〉というラインがあって、去年亡くなられたエディ・ヴァン・ヘイレンへの熊木さんの思いを感じさせますね。

熊木:僕は、高校生の頃はハードロックがすごく好きだったので。でも、ギターが好きだったというよりは、Van HalenやMr. Bigのような、ポップス的な要素のある人たちが好きでしたね。Van Halenの「Jump」は、ギターというか、ほとんどオーバーハイムのシンセだし。当時、特にシンセが好きだと思いながら聴いていたわけでもないんですけど、でも、本来的に自分はそういうもの好きだったんだと思うんです。去年、エディが亡くなったと聞いたときに、曲をポップスとして成り立たせるという部分でも、彼からの潜在的な影響があったんじゃないかと改めて思って。ずっとギターをやっていて、大学2年生のときにNordのシンセとRolandのSP-404というサンプラーを初めて買ったときも、「俺はギタリストだ!」みたいな感覚もなかったし、弾いたことがなかった鍵盤にも抵抗はまったくなかったんですよね。

ーーその感性の奥にあったのが、もしかしたらヴァン・ヘイレンのような存在だったのかもしれない。

熊木:そうですね。なので、ちゃんとリスペクトを込めて、「アドベンチャー」ではオーバーハイムのシンセを使っているんです。

ーーこのアルバムは、「夜とシンセサイザー」、「MOONLIGHT」、「おやすみね」という「夜」の景色に辿り着きますけど、本作の着地点として「夜」を描こうとしたときに、熊木さんはどんなことを考えられていましたか?

熊木:怖いもの、見えないもの、不安……そういうものが渦巻くカオスなものとして、僕は「夜」という表現をこれまでも使ってきたと思うんです。ただ、このコロナ禍で、みんなにとっても、このカオスはより深くて近いものになったと思うんですよね。「夜とシンセサイザー」は、そういう中で生まれた葛藤を描いていた曲です。でも、そんなカオスの中でも、自分の存在をちゃんと維持していてほしい、自分や、自分の周りにいる人たちのことをとにかく肯定していてほしいっていう感覚が、「MOONLIGHT」や「おやすみね」には強く出ていると思います。自分を見つめて愛してほしい、自分に対しても他人に対しても愛が残っていてほしいっていう。「おやすみね」が、このアルバムで最後に作った曲だったんです。

ーー「夜とシンセサイザー」で描かれた葛藤というのは、もう少し具体的に言うと、熊木さんの中でどんなものがせめぎ合っていたのでしょう?

熊木:僕は少し日和見っぽいところがあるというか、何が正しいのかわからなくなってしまったんですよね。これまで普通に過ごしてきたことに対して、「違ったのかもな」と思うことも多くて。「正しさ」なんて、時とタイミングとコミュニティによって変わっていくもので、本当はないんじゃないかとも思ったし、だからこそ、なにかを「正しさ」として掲げることを自分がやるべきなのかどうかも、わからなくて。でも、無視することはできないから、自分の音楽の作り方も、自分がなにを「幸せ」とするのかも……そういうこと一つひとつにちゃんと向き合っていくしかないなと思ったんです。考えれば考えるほど、一つひとつのことが思ったほどシンプルではなかったけど、でも、だからこそ、ちゃんと向き合っていかないといけない、自分の考え方にもちゃんと疑問を呈していかないといけないなと思ったんです。

ーーなるほど。

熊木:その先で、自分のアイデンティティや、人にできることを見つけたいなと思うし、きっと僕と同じように、このコロナ禍で、いろいろ考えて難しくなっちゃった人も多いと思うんです。そういう人たちに対して、答えは出さないけど、向き合う姿勢だけは伝えたいなと思って「夜とシンセサイザー」を作りました。「この曲、本当に出していいのかな?」と思ったりもしたんですけど、自分の答えが出ていない感じをちゃんと書く必要があるなと思って書きました。そのうえで、「ちゃんと向かい続けたいよね」と言いたかったというか。

ーー改めて思うんですけど、この『DAILY BOP』というアルバムには「2020年」という時代を刻もうとするリアルタイム性があると思うんです。それは今のお話もそうだし、ヴァン・ヘイレンが歌詞に登場していることもそうだし、ボーナストラックの「光はわたしのなか」も、緊急事態宣言下の熊木さんの感情がすごく衝動的に書かれている曲だと思うんですよね。

熊木:そうですね。実際、「光はわたしのなか」は去年4月くらいの混乱している状況の中で作って、すぐに出した曲で。あの状況の中で感じていることを、自分の言葉でそのまま出すことが大事だなと思ったんですよね。なので、10年後にも聴いてもらえる曲であることは前提とはしていなかった。10年後にはもう、アーカイブされて博物館の中に入っていてもいいというか。

ーー今回のアルバムからは特に、熊木さんの、「時代のもの」であろうとする意志を強く感じます。

熊木:僕の基本的な音楽の聴き方にもつながると思うんですけど、「今」を笑わせたいんです。「今」の音であってほしいし。それが10年響き続けなくてもいい。むしろ10年後にこのアルバムを聴いて、「こんな時代があったんだ」と思ってもらえれば、別にそれでいい。とにかく、今の言葉で、今のダンスミュージックを作りたいんです。なので、固有名詞も恐れず使うし、「エモめの夏」なんて、「エモい」という言葉があと何年通じるのかももわからないですよね。でも、長いスパンを見越して歌詞を書いたとして、それによって抽象的になりすぎてしまうのが嫌なんです。表現のリアリティが薄まってしまうのが嫌だし、その「匂い」の薄さが嫌だ。それなら自分は、10年間新しい曲を書き続けていたいし、その時々の「今」の音楽でありたいなと思う。その刹那的な感覚が、自分には合っているんだろうなと思うんです。

ーーその「刹那」を求める感覚が、熊木さんがダンスミュージックに惹かれるひとつの理由も出るような気がしますね。

熊木:もちろん、僕ももう30歳になったので、段々と若い人と感覚は乖離していくんですよ。でも、その時代その時代の若い人たちの悲しい感覚みたいなものは、常にわかっていたいというか。そこは常に意識的に理解しようとしていたいし、謙虚に勉強していかないといけないと思ってもいるんです。

ーー4月4日には日比谷野外大音楽堂でのワンマンも控えていますし、ツアーも発表されました。ライブも楽しみにしています。

熊木:本当に、去年は開催する予定だったツアーができなかったので、東京以外の場所でも改めてお客さんと会えることが楽しみだし、ツアーファイナルのZepp Hanedaは自分たちとして一番大きい規模なので、負けないようにしたい(笑)。野音は野外ということもあるし、僕らの音も合うと思うんですよ。僕らのライブは、「楽しくて幸せな空間にしたい」ということが何より第一にあるんですけど、僕らのライブで、今年、久しぶりにライブに来るっていう人も多いと思う。そういう人たちに、少しでもいい思い出を増やしたいなと思っています。『DAILY BOP』は「踊らせるアルバム」として作ったので、それを活かしたライブをしたいですね。「MOONLIGHT」なんて特に野音に映える曲だと思いますし。この1年が浄化されるような楽しさと気持ちよさを与えることができればいいなと思います。

■リリース情報
『DAILY BOP』
2021年3月31日(水)リリース
¥2,700(+税)
01.Superfine Morning Routing
02.太陽
03.エモめの夏
04.アドベンチャー
05.ペペロンチーノ
06.雨が降るなら踊ればいいじゃない
07.ON
08.KIDS
09.夜とシンセサイザー
10.MOONLIGHT
11.おやすみね
Bonus Track 光はわたしのなか

先行デジタルシングル「MOONLIGHT」
2021年1月20日リリース
定額制音楽配信サービスで先行配信中

■ライブ情報
『Lucky Kilimanjaro presents. YAON DANCERS』
日時:2021年4月4日(日)
会場:日比谷野外大音楽堂
OPEN 17:00/START 18:00
チケット料金:全席指定¥4,800
一般発売日:2月20日(土)

主催:HOT STUFF PROMOTION
企画制作:dreamusic Artist Management,Inc./VINTAGE ROCK std.
後援:TOKYO FM
TOTAL INFORMATION:VINTAGE ROCK std.
TEL.:03-3770-6900 [平日 12:00-17:00]

■ツアー情報
LUCKY KILIMANJARO ONEMAN TOUR “DAILY BOP”

5/29(土)大阪:CLUB QUATTRO (問い合わせ:清水音泉 info@shimizuonsen.com)
5/30(日)名古屋:CLUB QUATTRO (問い合わせ:JAILHOUSE 052-936-6041)
6/10(木)広島:CLUB QUATTRO (問い合わせ:広島クラブクアトロ 082-542-2280)
6/12(土)福岡:BEAT STATION (問い合わせ:キョードー西日本 0570-09-2424)
6/18(金)札幌:cube garden (問い合わせ:WESS 011-614-9999)
6/20(日)仙台:JUNK BOX (問い合わせ:GIP 0570-01-9999)
7/9(金)東京:Zepp Haneda (問い合わせ:HOT STUFF PROMOTION 03-5720-9999)

■チケット料金: 5,000円(税込・ドリンク代別)
■オフィシャルサイト チケット最速先行予約:3月3日(水)0時〜
http://luckykilimanjaro.net/
※1申し込みあたり4枚まで
※電子チケットのみ
※未就学児入場不可、小学生以上チケット必要

企画制作:dreamusic Artist Management,Inc./VINTAGE ROCK std.
TOTAL INFORMATION:VINTAGE ROCK std.
TEL.03-3770-6900[平日12:00-17:00]/WEB http://www.vintage-rock.com/

■関連リンク
オフィシャルサイト

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