YOASOBIからNiziU、藤井風まで……いしわたり淳治に聞く、“2020年の歌詞”の傾向 「音楽が娯楽を取り戻した」

YOASOBIからNiziU、藤井風まで……いしわたり淳治に聞く、“2020年の歌詞”の傾向 「音楽が娯楽を取り戻した」

 2020年も残すところあと1日。今年の音楽シーンを振り返ると、例年にも増して新たなアーティストによるヒット曲が数々誕生した1年だったように思う。それは、音楽ストリーミングサービスがリスナー間に定着してきたこと、SNS上での楽曲シェアが一般的になったことで、すでに海外では馴染みのあった“バイラルヒット”が日本国内でも生まれやすくなったことが大きい。また、TikTokやYouTubeでの楽曲・ダンスカバーの流行がそのムーブメントを後押しした。瑛人「香水」に代表されるように、歌詞の面ではよりキャッチーで覚えやすく親しみやすいものが大衆に受けた印象だ。

 今回リアルサウンドでは、作詞家/音楽プロデューサー・いしわたり淳治にインタビュー。音楽、テレビ、広告、本、映画から気になるフレーズを独自の視点で解説する「言葉」にまつわるコラム集『言葉にできない想いは本当にあるのか』(朝日新聞デジタル『&M』の連載「いしわたり淳治のWORD HUNT」コラムに加筆、修正、新たに書き下ろしを加え、再編集した書籍)を刊行したばかりの同氏に、2020年のヒット曲を「言葉」の視点から振り返ってもらった。(編集部)

YOASOBIは歌詞表現において自由の翼を手に入れた

ーー今年、いしわたりさんの中で印象に残った作品について教えてください。

いしわたり:2020年は、YOASOBI「夜に駆ける」とNiziU「Make you happy」と瑛人「香水」じゃないでしょうか。「香水」は正確には2019年の曲ですが、2020年にヒットしたと捉えると、やはりこの3つですね。「香水」のいいところって、〈ドルチェ&ガッバーナ〉じゃないですか。連載の原稿の中でも書いたのですが、言葉として耳新しいということと、〈香水〉という匂いの表現を歌詞にしているんですよね。なるべく歌詞は五感を使って書いたほうがいいんですけど、どうしてもフィクションの物語を書いていると頭で考えている段階では映像で組み立てられているので、視覚的な描写ばかりになりがちで、なかなか匂いの描写って生まれてこないんです。音として聴覚的に優れている〈ドルチェ&ガッバーナ〉を使って、普段の詩世界ではなかなか後回しにされそうな匂いの描写があるというのがいいなと思いました。あと、メロディが歌いやすいというのもあるのでしょうね。音符というか音階が少ないといいますか。だから使いやすい、歌いやすい。誰が歌っても「香水」に聞こえるというのがよかったのかもしれません。

ーーもともと広がる要素が揃った曲だったのですね。

いしわたり:そうですね。それと対照的なのがYOASOBIだと思います。すごく忙しくメロディが動いていて、スポーティーに言葉が入ってくるというか。ボーカルのikuraさんの歌い方の鋭さや正確さもあると思うんですけど、ものすごくなんでしょう……あの縦がザクザク揃っていく感じが、ヘビメタの速弾きみたいな歌といいますか。あれがポップスでどうしてできるのかを考えた時に、ふつうは歌詞を書いていくと例えば主人公が女子高生だとしたら「制服のスカートが」と書いてみたり、それが冬だったら「吐く息が白い」と書いてみたり、主人公の置かれている状況をある程度言葉で説明する必要がある。それがなるべくメロディに乗るようにするんですけれど、どうしても必要な要素だから書かなければいけなくて書いているというジレンマもあるんですよね。でもYOASOBIの場合は、状況説明の部分は初めから小説に託しているので、音符に対して自由に言葉を感情のほうだけに向いて書くことができる。だから一聴すると、どちらかというと意味的には解釈の広いような歌詞になっているけれど、より知りたければ小説を読めばいい。ただ音として、メロディとして、歌として楽しみたければそちらで楽しんでも、もちろんエンターテインメントとして成立しているし、普段耳にする他の曲よりも自由に書かれているから、ものすごくカッコよく聞こえる。YOASOBIは自由の翼を手に入れていますよね。

ーー音楽だけで完結しなくていい”小説とのリンク”という表現の手法が功を奏している?

いしわたり:そうですね。このシステムを考えついたのはすごいと思います。こういった新しい手法がどんどん生まれてくる時代なんだなと思いますね。

ーーNiziUについてはいかがでしょうか。

いしわたり:あれほど大掛かりなオーディションを多くの人は初めて見たんじゃないでしょうか。昨今のSNSでの流行は、ある種の親しみやすさみたいなものが大事なポイントになってきていると思うんです。曲にファンがつく時代というよりも人にファンがつく時代というか、“その人のパーソナリティあってのなにかの表現”という時代にどんどんなってきている。そんな中で、あそこまで彼女たちに密着した様子が朝の帯番組で紹介されたりしていくと、どんどん多くの人は親近感をもって彼女たちにふれていくことになっていきますよね。

 プロデューサーのJ.Y. Parkさんが「真実、誠実、謙虚」ということをよくオーディションの最中に言っていて、それを軸に選ばれたメンバーが音楽をやっていくというのは、どういうことなんだろうと僕も興味がありました。で、最後に選ばれたメンバーが最初に歌った歌が「Make you happy」。徹頭徹尾利他的というか利己的な部分が削ぎ落とされた歌で、“あなたのために”という視点をひたすら歌い続けているというのは、まず最初の着地としてきれいだなと思いました。これから先どうなっていくのかはわかりませんが、とにかく親しみやすさ、謙虚さを軸とした活動をずっと眺めてきて、最初の着地があの曲だったというのはすごく多くの人にとって納得ができたし、より彼女たちのことを好きになったんじゃないかなと。もちろんSNSやTikTokで広まったダンスの良さもあったとは思います。そういったダンスを真似るという楽しみ方も含めて、とても2020年的だなと思いました。

ーーコロナ禍においてTikTokの流行は大きなトピックの一つでしたね。

いしわたり:個人的にはTikTokの流行ってけっこういいなと思っています。一番いいなと思うのは、音楽はある時から「表現者の自己表現」にフォーカスが強く当たりすぎて、娯楽の要素が減ったなと個人的に思いながらずっと暮らしていたんですね。その証拠に音楽から流行語がどんどん生まれにくくなっていて、いつも流行語にあがってくるのは芸人さんが作った音楽(音ネタ・リズムネタ)のようなものが多くて、本職のミュージシャンは自己表現に勤しんでいる。なかなか流行歌を作ってくれる人が少なくなってきているなと感じていました。そこにいわゆるアマチュアの人が弾き語りで作った使い勝手のいいキャッチーなワードとメロディ、フレーズが出てきて、それがいわゆるメジャーの流通とはまったく関係ないルートを通ってたくさんの人に広まり、流行語にもなっていって……というのは、すごく僕は健全でいいなと。

 例えば、ひらめさんが作った「ポケットからキュンです!」の〈キュンです!〉は、ユーキャンの『新語・流行語大賞』には選ばれなかったけれど、女子中高生の流行に特化した『JC・JK流行語大賞』ではコトバ部門で1位をとるくらい認知されています。ふだんの暮らしの中でノートを借りた時に「キュンです」と返せるような使い勝手のいい言葉を彼女たちはちゃんと編み出して、それを音楽とともに楽しんでいる。音楽が娯楽を取り戻したな、という感じがしてうれしく聴いていましたね。

ーー本には未収録ですが、連載の中では2月に藤井風さんの「何なんw」についても取り上げていました。

いしわたり:風さんは何拍子揃っているのかっていうくらい優れていますよね。音楽の素晴らしさや佇まいのカッコよさみたいなものの分析はみなさんにお任せしますけど、歌詞として新しいなと思ったのはやっぱり岡山弁。よく歌詞を書く時に「自分の言葉で自分らしく書け」と簡単に言う人がいますけど、地方出身者にとっての「本当の自分の言葉」って方言だと思うんですよ。この歌を作った時、東京に出て来たりはしていないと考えると、岡山で起きたことを岡山弁で歌うのは彼にとっては全然普通のことだと思うんですよね。

 日本全国の子どもたちがおままごとをすると、どうしても標準語でやるところが多いんですって。誰がそうしろと言ったわけでもなく、自然にそうなっていくというのはある種、「おままごとという遊びはこうするもの」というイメージから来ているのかな、と僕は思っていて。それと同じように歌詞を書こうと思った時に、当たり前に「歌詞は標準語で書くもの」だと思っているだけで、「この気持ちを方言で書いちゃダメなのかな」とか、立ち止まって考えることってほとんどないと思うんです。だからそういう意味でも、本当はもっと音楽に向いている方言の土地に育っている人がいるのかもしれなくて。僕の出身地の青森はやればやるほど吉幾三さんになってしまうのかもしれないんですけど(笑)。標準語よりもナチュラルに音符に乗りやすい方言って、きっとあると思う。藤井風さんの音楽がそういう人たちの刺激になったら面白いし、そういう新しい音楽が聴いてみたいなと思いますね。

ーー標準語だけが表現方法ではないですもんね。

いしわたり:そうなんです。方言ってなんで生まれているかというと、省略したり、喋りやすくしたりしているんですよね。そこから「ん」が増えたり、濁音が増えたり、口を開けなくても、滑舌が悪くてもつながるようなイントネーションなんかが生まれていったという背景があると思うんです。だからメロディに合わせようと思ったら、絶対に方言のほうがなめらかに乗るはずだと思うんです。これは余談ですけど、昔チャットモンチーが徳島から出たての時に作った「東京ハチミツオーケストラ」という曲に〈スーツケース 引きずってさ〉という歌詞があって、それを彼女たちは当たり前に「スーツケース 引こずってさ」と歌っていたんですけど、結局は標準語で歌うことにして。「あー、なんであのままにしなかったんだろう」ってあとからものすごく後悔しました。絶対そのほうがキャッチーだったのにって。次、方言で歌うアーティストに出会ったら絶対そのままにします。

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