スカート、CDリリース15周年に初めて贈る「トゥー・ドゥリフターズ」 聴き応えの中にある“素敵な違和感”

澤部渡が主宰するスカートが、初めてのCD『エス・オー・エス』をリリースしたのは2010年のことだった。CDリリース15周年を迎えた2025年に、初めてリリースされる作品が3月26日に配信された『トゥー・ドゥリフターズ』だ。
「トゥー・ドゥリフターズ」は、スカートのキャリアから見ても異彩を放つ楽曲だ。カウントから始まり、アコースティックギターとパーカッションとともに歌いだされるが、アコースティックギターもパーカッションも非常に乾いた音色だ。そして、どこか不穏さを抱えながら進んでいくメロディーライン。ベースも加わった後に響く口笛も、余韻を引くように吹かれ、歪んだエレキギターがその後を追う。
さらに、2分を過ぎたところで、曲調は大きく変化。高揚感のあるサウンドとなるが、歌詞は特に明るい内容になるわけではない。〈昔、着衣泳が得意だと言ってたから/君はきっと溺れるようなことはない〉という歌詞には、J-POPシーンで二度と出会うことがないだろう。不可思議な物語の謎が解かれることがないまま終わるかのように楽曲はラストを迎える。終盤で響くのは、風が吹くかのような音とアコースティックギターだ。
澤部によるセルフライナーノートによると、スカートのレコーディング作業後、エンジニアのミックス作業中やることがない澤部が、スタジオのグランドピアノの前に座ったことから生まれたのが「トゥー・ドゥリフターズ」だという。2024年末にメンバーに聴かせたとき、困惑されたというのも納得できる。しかし、スカートのキーボードの佐藤優介は、「ティラノザウルス・レックスみたいな感じにしたら絶対かっこいいよ」と言ったのだという。ティラノザウルス・レックスとは、グラムロックのT. Rexの初期の名前だ。そのアシッドな感覚は、たしかに「トゥー・ドゥリフターズ」を貫いている。
そうしたサウンド面のほか、前述したような歌詞を読んで、「コミティアで売られている漫画の世界のようだ」と感じた。コミティアとは、創作ジャンルに特化した同人誌即売会だ。そこでは独自の世界を持つ作家が多く登場してきた。そして、スカートも2012年以降に「カチュカサウンズ」というサークル名で参加していたのだ。そこでは宅録音源集「COMITIA」シリーズなどが販売されていた。
スカートは、ポップスを志向する点は変化しないまま、独自の表現のために変化してきた。前述した2010年の『エス・オー・エス』には、「わるふざけ」という木管楽器が伴奏に加わった楽曲があるが、ライブでは激しいバンドサウンドで演奏され、重要なレパートリーになっていった。「わるふざけ」をはじめとするインディーズ時代の楽曲たちは、2020年にリリースされた『アナザー・ストーリー』で再録音される。『アナザー・ストーリー』は、スカートの初期の代表曲「ストーリー」を念頭に置いたものだろう。その「ストーリー」も収録した『ストーリー』がリリースされたのは2011年。私がスカートのライブを初めて目撃したのも2011年であり、強烈な衝撃を受けた。スカートの音楽の完成度は、2011年の段階で極めて高いものだったのだ。
2014年の『シリウス』からは、スカートの作品はカクバリズムからリリースされるようになった。カクバリズムは、星野源が所属したSAKEROCKやceroの作品をリリースしてきたことで知られるレーベルだ。2017年には、ポニーキャニオンから『20/20』をリリースしてメジャーデビュー。前述の『アナザー・ストーリー』も、メジャーでインディーズの楽曲を再録音したアルバムだった。
こうしたキャリアのなかでも、特筆すべきは2021年に「スカートとPUNPEE」名義でリリースされた『ODDTAXI』だろう。 テレビアニメ『オッドタクシー』のオープニングテーマである「ODDTAXI」は、スカートのメロウさが前面に出た楽曲であり、PUNPEEのスムースにしてエッジも光るラップとの相性も抜群だった。執筆時点で、MVは661万回再生、「THE FIRST TAKE」でのバージョンは429万回再生と、合わせて1000万回以上再生されている。両者の持ち味をいかしたヒット曲となった。
2024年には、ゲストボーカルにadieuこと上白石萌歌を迎えた「波のない夏 feat. adieu」をリリースするなど、コラボレーションでも魅力を発揮してきたのがスカートだ。この「波のない夏 feat. adieu」は、澤部が音楽を手掛けた映画『水深ゼロメートルから』の主題歌だった。数多くの映画との関わりも、スカートと映画の相性の良さを物語る。