【全3回】トラップミュージック史(3)多様化と全米制覇 インターネットでの隆盛の先に広がる未来

(トラップミュージック史(2)アトランタ、フロリダのムーブメントで変化したサウンドの定義から続き)

南部全体に広がっていったトラップ

 アトランタとフロリダを中心に盛り上がっていたトラップは、南部の他のエリアにも広がっていった。フロリダに次いでトラップ化したのは、Three 6 Mafiaを生んだメンフィスだ。

 メンフィスのトラップをリードしたのは、前述の通りGucci Mane周辺との交流を深めていったJuicy JとProject Patの2人だ。また、ベテランプロデューサーのDJ Squeekyも早くからトラップに接近していった。DJ Squeekyはアトランタのラッパー、Pastor Troyの2007年作『Tool Muziq』にShawty Reddらと混ざって参加。Pastor Troyとも親交のあったYoung Jeezyの2008年の3rdアルバム『The Recession』にも参加し、徐々にトラップ系プロデューサーとしての地位を築き上げていく。後に根強い人気を獲得する事になるメンフィスのラッパー、Young Dolphの初作品である2008年の「Paper Route Campaign」でも腕を揮い、メンフィス産トラップの発展に貢献した。

 スクリュード&チョップドやカントリーラップといった、独自のサウンドを生み出してきたテキサスにもトラップの波は届いた。2006年のアルバム『Restless』でYung Jocを招き、アトランタ勢との交流を深めてきたTrae(現Trae tha Truth)は徐々にトラップ路線にシフトしていき、2012年にはT.I.率いる<Grand Hustle>に加入した。そして、2013年に<Grand Hustle>はもう一人、テキサス出身の奇才と契約することとなる。Travis Scottの登場だ。

 Travis Scottは、Kanye WestやKid Cudiなどの影響下にある作風が話題を集め、<G.O.O.D. Music>のプロデューサー部門のVery G.O.O.D. Beatsとプロデューサーとして契約した。さらにラッパーとして<Grand Hustle>とも契約し、二つの強力なバックアップを手に入れた。2013年には初のミックステープ『Owl Pharaoh』をリリース。T.I.やLex Lugerも参加した同作は高い評価を受け、Travis Scottは一気に人気ラッパーの階段を登って行った。2014年のミックステープ『Days Before Rodeo』ではYoung ThugやMigosといったアトランタの新鋭も参加。トラップにより接近し、現在に繋がる自身のスタイルを確立した。

NYのトラップ

 トラップの人気が拡大していくにつれ、ヒップホップの聖地・NYにもトラップ化の波が訪れた。この地のトラップのパイオニアは、Big Lらも所属したコレクティブのD.I.T.C.からキャリアをスタートしたFat Joeが挙げられる。

 ブロンクス出身のFat Joeは、2001年作『Jealous Ones Still Envy (J.O.S.E.)』収録の「King of N.Y.」でCool & Dreをプロデュースに迎え、DJ Khaledの煽りをフィーチャーした。DJ Khaledはその後<Terror Squad>に加入。以降、彼らフロリダ人脈を自身の作品でたびたび起用し、トラップにも早い段階で挑んでいた。また、Rick Rossブレイクで勢い付いたフロリダ勢の作品にも参加し、DJ Khaled周辺で活躍した。

Fat Joe Featuring Plies and Dre – Ain’t Sayin’ Nothin’

 Big Lとかつてクルーを組んでいたCam’ronが所属する、ハーレムのDipset(ヒップホップ音楽ユニット・The Diplomatsの別名)もトラップと関わりのあるグループだ。Dipset以前のハーレムには、1990年代からブーンバップにこだわらず、Gファンクなど他エリアの音楽性を積極的に取り入れていたDiddyの存在があった。その姿勢は後進のDipsetに大きな影響を与え、Dipsetは南部のサウンドを導入しT.I.周辺やLil Wayneらとの交流も行いながらブレイクを掴んでいった。また、ストリート派でありながらユーモラスなパンチラインを繰り出すCam’ronの人気は、Gucci Maneや2 Chainzらが評価される土壌を作った。そして、DiddyからDipsetに受け継がれた柔軟な姿勢は、さらにハーレムの後進のA$AP Mobへと受け継がれた。

 Dipsetの中核人物のJim Jonesは、2006年にクランク的なビートでYoung Jeezyのようなアドリブを使った「We Fly High」をヒットさせた。そして、同曲でソングライティングに関わっていたMax Bの周辺からブロンクス育ちのFrench Montanaが登場。Waka Flocka Flameをフィーチャーした2011年の「Choppa Choppa Down」が話題を呼んだほか、DJ DramaやJuicy J & Project Patなどトラップの大物とのタッグ作を含む多くのミックステープを発表。トラッパー路線で人気を集めていった。

 Fat JoeやFrench Montanaの活躍は、ヒップホップの聖地・NYの中でも発祥の地として知られているブロンクスにトラップの風を運んだ。Cardi BやA Boogie Wit Da Hoodie、Lil Tjayなど、現在活躍しているNYのトラッパーにブロンクス出身者が多いのは、彼らの存在が大きいのではないだろうか。

Denzel CurryとRonny J

 2010年代前半には、トラップ第二の都市・フロリダからも新たな才能が登場していった。筆頭は、SpaceGhostPurrp率いるクルー・Raider Klanから飛び出した、Denzel CurryとRonny Jの二人だ。Raider Klanは、トリルウェイヴと呼ばれるThree 6 MafiaやDJ Screwなどの90年代Gラップを昇華したドロドロとした音楽性でカルト的な人気を集めた。Big BoiやLord Infamous、Trick Daddyなどから影響を受けたDenzel Curryのパワフルな高速ラップはSpaceGhostPurrpに次いで高い評価を集めたが、2013年頃にはRaider Klanを脱退。ソロでのキャリアを進め、2015年にはデビューアルバム『32 Zel/Planet Shrooms』をリリースした。その後も、スタイルは違えど同じ1990年代リバイバルとして人気を集めていたNYのJoey Bada$$とツアーを行うなど、人気を拡大していった。

 Denzel Curry作品を支えたプロデューサー・Ronny Jの作風は、初期はRaider Klan周辺らしいトリルウェイヴ系のものだった。しかし、EDMのレイブによく通っていたというRonny Jは、そのエネルギーを注入したようなエレクトリックで暴力的なキレを持つトラップを作るようになっていった。フロリダは、EDM畑で活躍するPitbullとFlo Ridaという2人のラッパーの出身地でもある。彼らのラップがEDMの人気を支え、そしてフロリダのトラップに還元されたのだった。そして2010年代後半には、Denzel CurryとRonny Jの周辺からまた次々とトラップの歴史を更新するスターが登場していくことになる。

トラップの多様化と全米制覇

 ハスラーの音楽としてスタートしたトラップは、時が経ちメインストリームとなるにつれハスラーだけのものではなくなっていった。2015年には、Gucci Maneの別名「Guwop」から名前を取ったニュージャージーの歌い上げラッパー、Fetty Wapが「Trap Queen」を大ヒットさせた。同曲で歌われている内容は、「彼女が作ってくるドラッグをキメてハイになる俺。彼女は俺のトラップクイーンだ」というもの。ドラッグを提供する側と使用する側の二人が登場するこの曲がまるで橋渡しをするように、2010年代の折り返し頃からドラッグを使用する側のラッパーが多くトラップビートに乗って登場した。DJ DramaとDon Cannonによるレーベルの<Generation Now>が送り出したフィリーのラッパー、Lil Uzi Vertもその一人だ。Wiz Khalifaや同郷のMeek Millから影響を受けたというLil Uzi Vertは、詰め込み型のスキルフルなラップだけではなくエモーショナルに歌うことも得意とする才人。Gucci Maneとのタッグ作含むミックステープが話題を呼び、次世代を担うラッパーとして注目を浴びた。

 また、同年にはアトランタから歌心のあるゆるいラッパーのLil Yachtyがブレイクした。自身のスタイルを「バブルガム・トラップ」と形容するこのラッパーは、Migosと同じ<Quality Control>からシングル「One Night」をリリースし話題を集めた。そのままの勢いでリリースしたミックステープ『Lil Boat』ではハードなスピットも披露する二面性を見せつけ、同レーベルとアトランタ勢の層の厚さを証明した。

 ストリート派のトラッパーでも、アトランタの21 SavageやフロリダのKodak Blackなど次々と新たな才能が登場した。2016年にはMigosがLil Uzi Vertをフィーチャーした「Bad and Boujee」を大ヒットさせ、ヒップホップリスナー以外にもトラップを浸透させた。トラップはどんどん人気を拡大していき、全米のヒップホップがトラップに染まっていった。

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