香取慎吾、俳優としての柔軟性 三谷幸喜作品での活躍から読み解く喜劇を演じる才能

 香取慎吾主演×三谷幸喜脚本・演出のAmazon Originalドラマシリーズ『誰かが、見ている』(Amazon Prime Video)の配信が9月18日に迫っている。

『誰かが、見ている』ティザー予告

 一足先に完成した映像を見たという香取は、8月2日にオンエアされた『7.2 新しい別の窓』(ABEMA)内で「本当、三谷さんとこうやってお仕事できて俺幸せ! 面白いだけじゃない! なんかオシャレでカワイイし! ぜひ見てもらいたい」と興奮冷めやらぬ様子で感想を述べた。

 大河ドラマ『新選組!』(NHK総合)、映画『THE 有頂天ホテル』『ギャラクシー街道』、舞台『日本の歴史』など、多くの作品を生み出してきた香取×三谷の強力タッグだが、『誰かが、見ている』も高まる期待をさらりと超えてくれる最新作となりそうだ。

 香取は、三谷の脚本・総合演出で2002年にドラマ『HR』(フジテレビ系)でシットコムに挑戦している。シットコムとは、舞台のように一気に演じきり、それを見ている観客の笑い声や落胆の声などリアルなリアクションも同時に収録する。『フルハウス』や『フレンズ』などの人気海外ドラマではお馴染みのスタイルだが、日本では当時『HR』が初の本格シットコム作品と呼ばれたほどで、なかなか浸透していなかったのだ。

 それもそのはず、シットコムを実現しようとするのは、簡単なことではない。シーンごとに撮影するドラマとは異なり、出演者全員がすべてのセリフや動きを覚えなくてはならない。その動きを一発でカメラに収めるスタッフたちも同様だ。本来であれば数週間かけて準備する舞台。そのクオリティを維持しながら、テレビドラマ用の弾丸スケジュールで行なうというのだから、やりたがる人が少ないのも頷ける。

 一度カメラが回り始めたら、基本的にカットをかけない。予期せぬ展開があればアドリブで乗り越えなければならない。観客のリアクションも読めない。さらに、それがテレビというマスメディアでオンエアされるという緊張感も。これは、まさに香取の古巣であるジャニーズが掲げる“Show Must Go On”に通じるものがある。

 SMAPは、舞台やステージを王道としてきたジャニーズから、テレビの世界へとフィールドを広げた先駆者ともいえる存在。なかでも香取は、デビュー当時まだ小学生だった。17歳で昼の生放送『笑っていいとも!』(フジテレビ系)のレギュラーに決定。自らの意志が追いつかない勢いで、世の中が求める国民的スターへと歩みを進めていった。

 その結果、香取は呼吸をするように舞台やステージで求められる予定不調和をエンタメに昇華し、テレビで求められる観客の先にいる多くの視聴者の眼差しを意識してきた。これほど早期から、そして長く、そのバランス感覚を身につけて活躍し続ける人はなかなかいない。三谷が「シットコムは俳優としての柔軟性も含め香取さんにぴったりだなと思います」(参照)と絶賛するのも必然だったように思う。

 ここで改めて『HR』について振り返ってみたい。ドラマの舞台は夜間学校。主演の香取は英語教師・轟 慎吾を演じていた。誰からも愛される爽やかさを持つが、教師としての熱心さよりも日々を穏便に過ごすことを優先しているような性格。しかし、その本人の願いとは裏腹に、いつも生徒や教師たちが起こすトラブルに振り回されてしまうという役どころだ。

 小野武彦、國村隼、戸田恵子、酒井美紀、篠原涼子、中村獅童……と、脇を固めるキャストもベテランメンバーばかり。そんな彼らに引っ張られるのではなく、もれなく振り回されてしまう轟慎吾の姿は、そのまま個性の強い人たちのなかで座長をまっとうする香取慎吾の姿とリンクして見えた。

 想い人への手紙を書けば、別の人の手元に届いてしまう。今度は必死に取り戻そうとするほど、手紙は別の人のもとへと渡っていく……人生は自分が思い描いた通りになんてちっとも進まない。それでも毎日を一生懸命生きていく。そんな日常の小さな悲劇を笑いにしていく喜劇が、香取にはよく似合うのだ。

 もしかしたら、アイドル香取慎吾の生き様そのものが、一世一代のシットコムなのかもしれない。かつて『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)で、小学生の香取がメンバーに電話で連絡係をしていたときのテープが公開されたことがある。末っ子にも関わらず、集合場所や持ち物を伝えていくのだが、『HR』よろしく個性豊かな年上メンバーに振り回される様子が、笑いを誘った。

 また、観客をスタジオに入れて収録された『BISTRO SMAP』のコーナーでも、香取は「おいしー!」の合図でゲストをイジったコスプレを披露するなど盛り上げ役を担ってきた。観客の喜ぶ顔、ゲストの反応など、その場で対応していくスタイルは、まさにシットコムと呼べるのではないか。

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