氷川きよしが音楽で見せた人生一度限りの劇的瞬間 初のポップスアルバム『Papillon(パピヨン)-ボヘミアン・ラプソディ-』を聴いて
氷川きよしにとって、14年振りの出演となった『ミュージックステーション』。全身に真珠を散りばめ漆黒のマントを翻し、QUEEN「ボヘミアン・ラプソディー」を日本語で絶唱。闇夜に浮かぶ星屑のごとく輝き、魂を絞り出した革命的パフォーマンスで、夕飯時の我が家を震撼させた、氷川きよし。
『Papillon(パピヨン)-ボヘミアン・ラプソディ-』、氷川きよし初めての「オリジナルポップスアルバム」です。 長年のファンの皆様はよくご存知のもう一つの姿、しかし改めて手にすれば、その変化に驚かされるかもしれません。
これまでにも、ポップスカバー中心のファンクラブ限定コンサート(『KIYOSHI special concert 2015 ~KIYOSHI'S SUMMER~』)や、テレビ番組カバー企画などはありましたが 、「40歳という人生の折り返し地点」(※1)を迎え、歌手活動20周年の「成人」のタイミング(※2)だからこそ、出来た挑戦。SNSやアニメ主題歌など、演歌界の「外」に飛び出し、これまでとは違った客層へ彼の溢れるペルソナの魅力が届いた今、機は熟しました。これは、築き上げてきた歌を武器にして「新たな自分」を解放した、氷川きよしの「冒険の書」です。リズムを強調するJ-POPの英語的歌唱法の世界に、演歌の特徴でもある、子音の強いはっきりと明瞭な日本語の歌声は、とてもフレッシュに響きます。
シンフォニック・プログレのように荘厳な楽曲によって物語の幕は上がります。霧の立ち込める中世の城、重厚な扉を開け、新しい世界へ出発する氷川きよし。魔術的なディレイ使いに、これから始まる「見たことのない世界」への期待が膨らみます。耽美かつ刹那的メロディに乗せて歌われるのは、「さなぎが蝶に変化していくように、人間として輝くというステップ」(※3)。「自分らしく」生まれ変わる姿を象徴する、蝶=Papillon。今まさに、羽広げ飛び立たんとする彼の決意を映し出した、アルバム表題曲です。続く「不思議の国」と合わせて、音楽趣味のルーツ、演歌と出会う以前に影響を受けた、華麗なるロックスター達を自身に重ねる姿を観ることができます(※4)。
衝撃的な初のEDM(※5)「キニシナイ」は、感情を抑えた人工的でメカニカルな歌声。氷川きよしの感じる「今」の空気が詰まっています。いつかコンサートで、ダンスミュージックで激しく踊る姿を観られるでしょうか。昨年の既発曲「確信」の一節、〈明日がこないとしたら ? 今日が最期だとしたら?〉、それは悔やまぬよう思い切りやりたいことをやる、アルバムの根底に流れる意志を象徴する歌詞です。誰もが不安を抱え、自身のやるべきことを自問している、現在の空気に奇しくも合致しています。