デヴィッド・ボウイは類まれなるソングライターだ 新たなアレンジで魅せる『チェンジズナウボウイ』を紐解く
デヴィッド・ボウイの最新レア音源集、今まで出会ったことのなかった、ベスト音源ともいえるアルバム『チェンジズナウボウイ』をご紹介しましょう。アンプラグドによるベスト楽曲集。50歳を記念して、1997年に英BBCラジオのために行われたレコーディング。90年代に流行した手法ですが、さすがにボウイ、凡庸な録音になっていません! ボウイに駄作なし! をまたまた更新しました。それではボウイの新たなる顔に出会えるこの素晴らしい作品を解説していきましょう。
ボウイは類まれなる作曲家であります。ジョン&ポールが1970年に瓦解させた才能を引き継ぎ、ストーンズよりも知的に、エルトン・ジョンよりもバラエティに富み、Queenよりも陰影が深い。そんな事実についてなぜ語られないのか? それは彼の作風が激変していったからです。グラムからソウルへ、ユーロピアンロックからディスコへ。あまりにもジャンルが変化したスタイルに気を取られ、彼の曲想の素晴らしさが語られる機会が生まれなかったのです。
このアルバムではボウイの歌とメロディが浮き出るような最小限のバッキングで、最大の効果を引き出しています。ニール・ヤング、キャロル・キング、エド・シーランのようなシンガーソングライターとしてのボウイのアルバム。それらの誰の曲よりもドラマチックで変化に富んでおり、今まで感じられなかった内省的な心の風景が直接耳に飛び込んでくる。そして美メロ! 経験で練り上げられた最高の歌唱により、とにかく美しいメロディであることがしみじみと伝わる、そんな作品はこれが初めてなのです。
まず、録音メンバーから紹介しましょう。
ベースのゲイル・アン・ドロシーは、90年代のボウイ・ツアーにほとんど付き合った、印象的なスキンヘッドの黒人女性。ソロ歌手でもある彼女の個性にボウイは惚れ込みました。このアルバム中、ほとんどの曲で彼女の寄り添うような素晴らしいボーカルが聴けます。彼女はボウイの死まで交友が続き、後期ボウイの最重要メンバーといえます。
ギターのリーヴス・ガブレルスは、1989年に結成したボウイのロックバンド、Tin Machineのメンバー。解散後も90年代のボウイの全てのアルバムに参加しており、様々な音色によるツボを得たメロディアスなプレイは、以前のボウイバンドのメンバーにはないもので、このサウンドの重要な核となっています。なお、そのギタープレイに惚れ込んだロバート・スミスに誘われたことで、後にThe Cureに加入しています。
キーボードのマーク・プラティは、この中では最もベテランのメンバーですが、その全貌はあまり知られていません。1987年にヒップホップの創始者であるアーサー・ベイカーのサウンド制作全般をすることに始まり、クインシー・ジョーンズ、ジャネット・ジャクソン、フィリップ・グラス、Talking Heads、Deee-Lite、など、錚々たるアーティストと仕事をします。そして、1996年にボウイの『アースリング』の副プロデューサーを務め、2002年の『ヒーザン』まで付き合うことになります。このアルバムでも生演奏からストリングス編曲、リズムメイクまで、サウンドプロデュース的に重要な役割を果たしています。