デヴィッド・ボウイは類まれなるソングライターだ 新たなアレンジで魅せる『チェンジズナウボウイ』を紐解く
曲の紹介をしていきましょう。
M1「世界を売った男」は1970年の同名アルバム曲で、近年カバーをする者の多い人気曲。不思議なメロディと、編曲構成。シタールのようなギターのフレーズがメチャ印象的です。もともとボウイは60年代末、サイケデリックフォークだったわけで、そんな幻想的な時代の名残と、華々しいグラム時代に先駆けた高揚感が同居している傑作。こうしてシンプルな編曲になったことで、全く類を見ない曲想であることが明白です。
M2「アラジン・セイン」は1973年のグラム全盛時の同名アルバム曲。 「A lad insane」と読みかえられるこのタイトルは「気の触れた若者、少年」という意味でしょう。副題は「1913-1938-197?」。1913年、1938年は二つの大戦の前年です。197?年とは、この曲が発表された70年代。グラムの志士としてアメリカに突撃したボウイは、自らをアメリカへの戦闘に立つ戦士と位置付けた、そんな詞の内容です。ゲイル・アン・ドロシーのデュエットボーカルがとにかく素晴らしい。
M3「ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート」はご存じルー・リード率いるThe Velvet Undergroundのカバーで『ジギー・スターダスト・ザ・モーション・ピクチャー』(1983年)に収録。ボウイがプロデュースした先輩・ルーの代表楽曲です。ライブでのお気に入り曲ですが、ロックンロール色が炸裂した無駄のない素晴らしい編曲。
M4「ショッピング・フォー・ガールズ」はティン・マシーンII』(1991年)の収録曲。マイケル・ジャクソンも登場する不条理な歌詞と、オルタナティブなメロディは、それまでのボウイにないダークさを秘め、90年代グランジシーンへの視線を感じます。
M5「レディ・スターダスト」は『ジギー・スターダスト』(1972年)収録。原曲よりもキーをザックリと下げて歌っていて印象がまるで異なり、非常に落ち着いています。グラム時代の自分の化身・ジギーと、運命の女性の舞台での出会いを描いた曲。もともとはT. Rexのマーク・ボランに捧げられた曲だったそうで、そうした70年代の狂騒の時代を遥かに追憶しながら歌っているかのよう。
M6「スーパーメン」は『世界を売った男』(1971年)の最後に収録された曲。コーラスや構成がトリッキーな原曲のサイケデリックな味わいとは全く違い、やはりキーを1オクターブも下げ、じっくりと歌われています。デビュー3作目から2曲選ばれていることにより、この録音の意図は明らかです。初期の凝りすぎていた曲のメロディラインを掘り起こし、大人の包容力で歌うこと。この練り込まれた編曲、堂々とした歌唱ぶりは見事です。アルバムのハイライトといえましょう。
M7「レピティション」は『ロジャー』(1979年)より。Talking Headsのようにミニマルな不可思議さを持つ原曲のイメージを引き継ぎつつ、よりパワフルなバージョンに蘇生。ビニール仮面をつけたボウイの千変万化な顔面が、奇妙でコワいビデオクリップが、このアルバムと同時に発表になりました。必ず見ましょう。
M8「アンディ・ウォーホル」は、『ハンキー・ドリー』(1971年)収録。もともとメロディアスなアルバムでしたが、ここでは70年代ボブ・ディランのようなフォークロアに変貌。1996年の映画『バスキア』に、ボウイはウォーホル役で出演するわけですから、その呼び込みとして演奏したのでしょう。
M9「流砂」も『ハンキー・ドリー』収録曲。メディアの幻想の中に彷徨う主人公が「僕にパワーはなくなった」と叫ぶ悲痛な詞。オリジナルバージョンには、孤独な痩せっぽちのボウイが浮かびました。ここでは素晴らしい音楽仲間に囲まれ、威厳のあるボーカルで、青春の感傷を温かくも美しく歌い上げます。アルバムを締めくくるのにふさわしい壮大かつドラマティックな出来栄え。十分な満足感があります。
単なるラジオセッションを遥かに超えた出来栄えと深み、これはボウイ・ファンにとって一生の宝のアルバムでしょう。ジョン・レノンに憧れながら、ある意味ジョンを超えた楽曲の魔術師、ボウイの雄姿が眼前に浮かんできませんか? レコード・ストア・デイの開催と共に予定されている限定CDとLPも是非、手に入れましょう!
■サエキけんぞう
アーティスト、作詞家、1958年7月28日、千葉県出身。1980年ハルメンズでデビュー、85年徳島大学歯学部卒。86年パール兄弟で再デビュー、作詞家として、沢田研二、小泉今日子、サディスティック・ミカ・バンド、モーニング娘。マクロスΔ(アニメ)、他多数に提供。著書「歯科医のロック」他多数。2003年フランスで『スシ頭の男』でデビュー、12年「ロックとメディア社会」でミュージックペンクラブ賞受賞。16年パール兄弟30周年を迎え再結成活動本格化。19年「歩きラブ」20年秋渋谷クアトロで矢野顕子と共演。ロックを中心とした現代カルチャー全般、特に映画、などに詳しく、新聞、雑誌などのメディアを中心に執筆も手がける。
■リリース情報
デヴィッド・ボウイ『チェンジズナウボウイ』
4月17日(金)配信開始
レコード・ストア・デイ限定CD&LP:6月20日(土)発売予定<完全数量限定作品>
<収録曲>
01. The Man Who Sold The World / 世界を売った男
02. Aladdin Sane / アラジン・セイン
03. White Light / White Heat / ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート
04. Shopping For Girls / ショッピング・フォー・ガールズ
05. Lady Stardust / レディ・スターダスト
06. The Supermen / スーパーメン
07. Repetition / レピティション
08. Andy Warhol / アンディ・ウォーホール
09. Quicksand / 流砂