スピッツの音楽の魅力は“わからなさ”にあるーー変わらぬスタンス貫いた『見っけ』から考える
さらには、ラジオへの愛をストレートに描きながら、そこに日陰者の気概を滲ませる「ラジオデイズ」、どうやら“花”ではなく“虫”の目線で描かれた「花と虫」、“僕はデブリ(宇宙ゴミ)”と歌う「ブービー」ーー少し話は逸れるけれど、“きまじめで少しサディスティックな社会の手”をふりほどいて、“王様は裸です!”と叫びたい夜を歌った「YM71D」(やめないで?)や、いわゆる“人外”の目線で綴った「はぐれ狼」「まがった僕のしっぽ」など、どこか人とは違う“はみ出し者”である人々を鼓舞するような歌が並んでいることが、今回のアルバムの何よりの特徴のひとつと言えるだろう。
いずれにせよ、良い曲というのは、何度も繰り返し聴きたくなるものである。しかし、聴けば聴くほどに、ある種のわからなさが浮かび上がってくるーー否、そのわからなさが、何よりも大事なのだろう。そのわからなさは、聴く者の想像力によって、いくらでもその羽根を広げていくのだから。はっぴいえんど、松本隆しかり、井上陽水しかり、サザンオールスターズ、桑田佳祐しかり、世代を超えて長きに渡って愛されるポップソングの条件とは、そのメロディの美しさは誰もが認めるところであっても、その歌詞については、ある種の“わからなさ”がある。決して難解というわけではなく、むしろ平易な単語を用いているにもかかわらず、聴けば聴くほど新たな発見や解釈が生まれていくようなものなのかもしれない。そして、そうやってリスナー一人ひとりが、その楽曲を聴きながら自由にその思いを馳せていくことで、いつしかそれは彼らの曲である以上に、リスナーその人の曲になっていくのだ。スピッツの音楽とは、まさにそういったものであり、このアルバム『見っけ』とは、そのことを改めて多くの人に実感させてくれるような、そんな充実の一枚となっているのだった。
■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。