『君の輝く夜に~FREE TIME, SHOW TIME~』インタビュー
稲垣吾郎×鈴木聡が語る、佐山雅弘の音楽とジャズが舞台にもたらすライブ感
稲垣吾郎主演の舞台『君の輝く夜に~FREE TIME, SHOW TIME~』が8月30日から9月23日、日本青年館ホールにて上演される。
過去3回、稲垣をはじめとした実力派俳優たちの演技とジャズミュージシャンの生演奏で作り上げた大人のための贅沢でお洒落な舞台『恋と音楽』シリーズ。これを手がけた喜劇作家でオリジナルミュージカルも手がける鈴木聡と、ジャズピアニストで作曲家の佐山雅弘が再びタッグを組んだ稲垣主演の舞台『FREE TIME,SHOW TIME~君の輝く夜に』が昨年京都で上演され、好評を博した。しかし、上演後、佐山は急逝。今作の上演には、素晴らしい楽曲を数々作り、『恋と音楽』シリーズの音楽面を支えてきた佐山への哀悼の意が込められているという。
リアルサウンドでは今回、主演の稲垣吾郎と鈴木聡にインタビューを行う機会を得た。そもそも鈴木聡はジャズ好きとして知られている。それは彼が主宰する劇団ラッパ屋の初期の公演名『ジャズと拳銃』『スターダスト』『小百合さんのビル・エバンス』『星空のチャーリー・パーカー』『シャボン玉ビリーホリデー』などからもうかがうことができる。また、「劇団ラッパ屋」という名前も鈴木が高校時代に通いつめた国立市のジャズ喫茶「喇叭(ラッパ)」に由来。『恋と音楽』シリーズや本作におけるジャズとミュージカルの調和には鈴木のジャズに対する造詣の深さがある。一方、稲垣吾郎もまた、ジャズとは縁のあるアイドルだった。SMAPの『007~Gold Singer~』のクレジットを見ると、マイケル・ブレッカー、オマ―・ハキム、ヴィニー・カリウタ、ウィル・リー……ジャズ~フュージョンのビッグネームが名を連ねている。90年代半ば、すでに稲垣はそれらの作品でジャズミュージシャンたちの演奏をバックに歌っていたのだった。
時を経てミュージカル作品をともにすることになった稲垣と鈴木。佐山雅弘の音楽、ジャズが作品に与える影響から、稲垣の音楽に対する飽くなき探究心など多岐に渡る話を聞くことができた。聞き手はジャズ評論家の柳樂光隆氏。(編集部)
鈴木聡×稲垣吾郎×佐山雅弘、ミュージカル誕生の背景
――『恋と音楽』シリーズに佐山雅弘さんが関わることになった経緯を教えてください。
鈴木:2008年に北九州の劇場で、僕が演出、地元の俳優さんたちが演じて、佐山さんが生ピアノを弾くというリーディング(=朗読劇)のイベントがあったんです。その時に僕は佐山さんと初めて会ったんですよね。そこで佐山さんとどんな音楽をつけようかって話しているときに、佐山さんがピアノを弾きながらお互いにアイデアを出し合って、ものすごく早く話が進んで。僕は僕で音楽が好きだし、佐山さんは佐山さんで芝居が好きなんですよ。だから、お互いに波長が合ったんですね。それで「稲垣吾郎くんでコンパクトなミュージカルをやろう」って時にまっさきに佐山さんでやりたいなと思いついたんですよね。でも、『恋と音楽』の前に『ぼっちゃま』(鈴木書き下ろしの舞台。稲垣が出演、佐山が音楽監督&ピアノを務めた)があって。これはストレートプレイの芝居だったんですね。白石加代子さんも出てくれて。
稲垣:ちょっとラッパ屋(鈴木主宰の劇団)さんテイストのね。僕が鈴木さんの世界観の演劇に出していただいて、その時に佐山さんも出ていたんですよね。
鈴木:震災の年でしたね。2011年。僕は何とか佐山さんを舞台に引っ張り出したいなと思っていたんですよ。
稲垣:『ぼっちゃま』の時、佐山さんは演者として出ているんですけど、ただセリフはほとんどなくて、アパートの隣の部屋に住んでいるピアニストって役でね。
鈴木:進駐軍のキャンプに出入りしているピアニストっていう設定だからいつもジャズのスタンダードナンバーを弾いているの。
稲垣:その劇の中でジャズが流れるんですけど、それが必然として使われていたんですよね。
鈴木:セリフはないけど、ピアノで芝居をしていましたね。あと表情ですね、びっくりしたり。それでなんとなく吾郎くんと馴染みができてね。
稲垣:『恋と音楽』が2012年スタートだから、『ぼっちゃま』の次の年ですね。それがきっかけで今に繋がっています。
鈴木:その時に僕と佐山さんで考えていたのは日本のコンパクトなミュージカルをやりたいってことなんですよ。ミュージカルって言うとものすごく大掛かりな『レ・ミゼラブル』のようなイメージがあると思うんですけど、僕は小さなバンド、しかもジャズのバンドが演奏していて、セリフと音楽に関係があって、セリフの延長みたいに歌があって、出来れば演技と音楽がその場でセッションするみたいなミュージカルができないかなって思っていたんですよ。僕は大掛かりなミュージカルはちょっと照れくさくて、もっと等身大のミュージカルができないかなって佐山さんに話したら、そのアイデアを面白がってくれて。そこでスタートしたって感じですね。
――その構想を聞いて稲垣さんはどう思いましたか?
稲垣:まず自分がミュージカルをやることに対して、驚きと戸惑いがありましたね。それまでミュージカルは経験がなかったので。もちろん歌も歌ってきているし、演劇もやってきているんですけど、ミュージカルって全く別のジャンルですから。それにミュージカル独特の良さでもあり個性なんですけど、さっき鈴木さんがおっしゃっていたような照れくささを感じていたので、最初は抵抗があったんですよ。でも、そこは鈴木さんの描く世界観ですし、信頼関係であったりとか、今までに何本も作品をご一緒させていただいているので、だったら新しい新境地というか、新しい自分に出会うことができるかもしれないと。ファンの方やお客さんも喜んでくださると思ったし、ひとつのエンターテイナーの形として、自分の中で新しいものが生まれるのではないかという期待に変わっていきました。最初はみんな多少戸惑ったと思うし、それを徐々によりよいものに変えていって、パート3『恋と音楽 FINAL~時間劇場の奇跡~』まで来た形だと思います。鈴木さんもパート1では迷いがありましたから。
鈴木:お互いにね。佐山さんもね。
稲垣:手探りでね。パート1は当時、宝塚歌劇団を退団されたばかりの真飛聖さんがヒロインだったんですよね。
鈴木:真飛さんが宝塚を退団してから最初の舞台だった。
稲垣:しかも、(花組トップスターで男役で人気だった)真飛さんの初めての女性役だったんですよね。だから、みんなが挑戦だったんですよ。僕は結果的にやってよかったと思いますし、鈴木さんがおっしゃっていたような等身大のミュージカルってこれまであまりなかったので、大人っぽくて洒落てると思っています。僕も大きなグランドミュージカルみたいなものをやる自信は未だに無いです。『恋と音楽』は僕にとっては演劇や芝居の感覚ですね。そこにミュージカル要素が加わったという感じなので、これをやってミュージカル俳優になったという感じはないです(笑)。
鈴木:最初のうちはね、やっぱり何で歌うのかを考えましたよね。ミュージカルが苦手な人がよく言うじゃないですか「何でいきなり歌うの」って。それを正当化するために『恋と音楽』シリーズの3本はミュージカル界の人たちの話にして。吾郎くんの役は1本目『恋と音楽』はミュージカルの作曲家、2本目『恋と音楽Ⅱ~僕と彼女はマネージャー』はミュージカル俳優のマネージャー、3本目 『恋と音楽 FINAL~時間劇場の奇跡~』はミュージカル俳優なんですよ。他に出てくる人はミュージカルが好きな人たちの役。だからすべての役は歌うことが自然な人たちなんですよ、そういう設定にしないとなんか不自然になるんじゃないかって思いこんでましたね。
――そこまで考えるくらいにミュージカルに照れがあったんですね。
鈴木:はい(笑)。
稲垣:でも、今回の『君の輝く夜に~FREE TIME,SHOW TIME~』では初めてそういった設定から離れたんですよね。
鈴木:3本やるうちに「あ、いいんだ」って思い始めたんですよね。それは吾郎くんや佐山さんと一緒にやってきたことも大きくて。何も説明もなく歌い始めても大丈夫だって思ったんですよ。
稲垣:みんなが少しずつ慣れていきましたね(笑)。
鈴木:だから今回はセリフと歌をあまり区別しないで書いた感じがします。
稲垣:あとは、順序で言うとショーに芝居を乗せたって感じもありますよね。
鈴木:それもあるね。
稲垣:曲があって、鈴木さんがテーマに合う詞を書いて、ショーがあって、その間に芝居を入れて埋めていくというか。どっちが先かって話なんですけど、僕はやっていてそんな印象を受けました。もちろん1幕と2幕の間にショータイムがあるのが大きいんだけど、ショーの合間に芝居をサンドしている感じが今回の作品のすごく洒落てるところだと思います。ミュージカルを書かなきゃって感じじゃなくてね。
鈴木:1曲1曲がショーナンバーになっているってことでしょ。エンターテインメントになっている。
稲垣:そう! 振り切っちゃっているというか。
鈴木:今回は佐山さんも振り切っちゃってるからね。
稲垣:だから、パート1とか2までは恐る恐るやってる感じがするんですよ。
鈴木:僕も佐山さんもこれでいいのかな、これでいいのかなって、そう思いながらやっていたなって思う。
――3人ともずっと手探りだったんですね。
稲垣:そうですね。でも、それが時間ですよね。時の流れであって、お客さんと共に成長出来ている感じ。そこは正に舞台って感じですね。