『君の輝く夜に~FREE TIME, SHOW TIME~』インタビュー
稲垣吾郎×鈴木聡が語る、佐山雅弘の音楽とジャズが舞台にもたらすライブ感
生バンドの演奏で歌うことの楽しさ
――稲垣さんは最初に佐山さんとお仕事をしたときに彼の音楽にはどういう印象をもちましたか?
稲垣:僕はずっと歌謡曲を歌っていましたけど、ジャズのような音楽も気にはなっていたし、ちょこちょこ聴いたりもしていたんです。ちょっと夜落ち着きたいときとか、一人でいるときとか、年齢とともに気分によってはジャズに浸りたかったり、クラシックが聴きたくなったり、ボサノヴァ、シャンソン……そういうものに少し興味が芽生えてきたころだったので、佐山さんとの出会いはすごくいい出会いだったと思うし、そこで音楽のことは鈴木さんや佐山さんにいろいろ教えていただき、今に至ります。
――なるほど。
稲垣:ただ自分がそこで歌いこなしていかなきゃいけないっていうのは未だに自信がないんですけど、佐山さんは音のオートクチュールをやってくれていて、僕に合うように、キーを合わせたりだとか、僕が歌いやすいようなメロディで作ってくれたりしたんです。僕にぴったりなものをオーダーメイドで作ってくれるので、歌いやすいし楽しい。僕はずっとグループで音楽をやってきたので、自分だけのキーで歌えるわけでもなかったんですよ。特にアイドルグループの曲だったら、歌ったり踊ったりして盛り上げるためにキーも高い。派手に見せなきゃいけなかったりしますし、ハイテンポだったり、音符も多かったりするので、難しいですよね。でも、「歌」ってそこだけじゃないんですよね。特にジャズには違った難しさがあるし、僕はまだジャズのことはわからないですけど、シンプルな中に面白さや難しさがあることにも少し気づけてきています。僕に初めてジャズを教えてくれたのが佐山さん、鈴木さんなのはすごく良かったなって思いますし、これからもっともっと深めていきたいです。
――『君の輝く夜に~FREE TIME,SHOW TIME~』の音楽のことをもう少し教えてもらえますか?
稲垣:今回の『君の輝く夜に~FREE TIME,SHOW TIME~』はジャズだけじゃないんですよ。佐山さんの音楽のベースはジャズピアニストが作る曲って感じなんですけど、70年代や80年代の歌謡曲のような曲があったり、安寿ミラさんと二人で歌うシャンソンみたいな曲があったり、いろんなジャンルがあるので、やっていてすごく楽しいんです。今の自分が無理をせずに等身大として、自分の中で表現できる歌って意味では佐山さんが一番ですね、僕の中では。あとは生バンドの演奏で歌うということは大きなことですね。グループでポップスを歌っているようなチームだとなかなかないじゃないですか。生だと、その日のコンディションによって変わったりもするし、やってて楽しいですね。お互いに感じあえるし、響きあえるというか、そこで人が弾いているというのは大きいですよ。
――ジャズミュージシャンは譜面をそのまま弾くわけじゃないですよね。だから、音楽に関しては毎日違うものが出てくるとも言えると思うんですが、そういう部分はどうですか?
鈴木:佐山さんなんていきなりイントロを変えたりするから皆さん困ったりね(笑)。
稲垣:特に宝塚の安寿さんや中島(亜梨沙)さん、以前の真飛さんも、宝塚のミュージカルはきっちり指揮者もいて譜面通りなのかな。決められた尺の中できちっとやることが彼らの美学ですよね。でも、ジャズミュージシャンの美学は、アドリブ性であったり、同じことをやらないことですよね。僕も戸惑いはありましたけど、宝塚出身の方もけっこう焦る感じはあったみたいですね。
鈴木:いわゆる芝居や演技ってセリフは決まってるし、段取りは決まってるし、多くの演劇にはほぼアドリブなんてないんですよ。だけども、それを毎回生き物に、ライブにしないとダメなんですよね。今生まれてるものにしないといけない。セリフを散々練習しているんだけど、それを今、生まれた感じにしようとみんな努力をしているんですね。それはジャズのセッションで今、音が生まれることと同じことでもあるんです。だから、その瞬間をクリエイトしようって思いでみんなが一致していれば、演技と音楽がセッションするようなことができるんじゃないかなと僕も佐山さんも考えていて、『君の輝く夜に』ではそれに近いことができたんじゃないかなと思いますけどね。
稲垣:同じものを毎日やると、ひとつのルーティーンや段取りとしてやっていく安心感があるし、そこに乗りたくなっちゃう。でも、一番大切なことはお客さんは初めて見るわけだから、役者としてはその場でのライブ感をずっと追い求めていくということなのかなと。演劇ってそこで生まれたかのようにやるものだし、演技がうまい人ってそういうことができる人だから。もしかしたら、役者としては、きちっとしたオケピの方々よりも、佐山さんたちのジャズバンドのフィーリングはむしろやりやすいかもしれないと思いますね。
鈴木:このバンドは佐山さんだけじゃなくて、みんながそういう人なんだよね。
稲垣:ピアノのイントロで完全に違うものを弾いたりされるとやっぱり焦るんですよね(笑)。演技をしているときは耳も研ぎ澄ましていて、物音がするだけでドキッとするじゃないですか。いつもと同じ匂いと音と空気みたいな状況になっていかないと膨大なセリフを間違えてしまうこともあって。
鈴木:緊張感の高いシーンは特にね。
稲垣:相手の位置が一歩ズレるだけで僕らは気付きますから。
鈴木:僕はね、佐山さんに「そこは同じフレーズを弾いてください」って言ったことは何度かあるよ。でも違うのを弾いちゃうんだけど(笑)。
稲垣:『恋と音楽』はいつもその繰り返しですよね。週明けとか休み明けにテンポが変わってたりね。乗ってくるとテンポが上がってきたりとか、元気な人の楽器がデカいとか、パーカッションばっかり聴こえるとか(笑)。そんな中でもバイオリニストの(高橋)香織さんの安定感はクラシック畑だからでしょうか?
鈴木:(参加ミュージシャンの一覧を見て)いや、このおじさんたちが自由すぎて(笑)。
稲垣:(笑)。でもバカボン(鈴木)さんはきちっとしてる。
鈴木:ベースはやっぱりね。
稲垣:でも、パーカッションはいつも違いませんか? 仙波(清彦)さんはいつもテンポも違う。ドラムでテンポが違うってすごいよね(笑)。
鈴木:(三好)3吉(功郎)さんはどうだっけ。
稲垣:ボサノヴァっぽいギターに合わせて僕が「アローン・アゲイン」という曲を歌うシーンがあるんですけど、休み明けに「ちょっとテンポ落としていいかな?」とか言う時がありますね。でも、それが気持ちいいんですよね。プロのギター1本を伴奏に歌うことなんてなかなかないことだから、贅沢ですよ。
――お2人ともその場で起こる変化をすごく楽しんでいるんですね。
稲垣:もちろん。僕らが楽しむってことは一番の前提ですよね。
鈴木:あとね、この人たちはね、何があってもどうにかなるなって感じなんだよね。
稲垣:俳優さんたちもそうですよね、安寿さんも北村(岳子)さんも大ベテランですから。成熟したプロが集まっているから、こういう遊びができるのかなって。僕はそこについていくのは必死ですけど、でも、胸を借りてというか、中途半端じゃない人たちがおふざけもしているっていうところのおしゃれな感じが伝わればいいかなって思いますね。
――成熟しているからこそできる自由さがあるミュージカルなんですね。
稲垣:もちろん。すごいバンドとすごい俳優とすごいスタッフでこじんまりしたことをやっている面白さがあると思いますね、この舞台には。