Creepy Nuts、楽曲の構造性やラップスキルに注目 「阿婆擦れ」にはRHYMESTERの影響も

RHYMESTERからの影響

 もうひとつこの「阿婆擦れ」自体がなぞらえているものがあるとしたら、それはRHYMESTER feat. BOY-KEN「知らない男」なのではないだろうか……という推論をここで立ててみよう。これはDJ松永もR-指定も非常に強くRHYMESTERから影響を受けてきた、という前知識があるゆえの“妄想”かもしれないが、この曲は全体を通して、RHYMESTERに対する返歌という側面を多分にはらんでいるようにも思える。

 この着想のきっかけは「阿婆擦れ」の〈せいぜい幸せにやんな~〉というリリック。女性に袖にされた男の負け犬の遠吠えとしてのこのワードの使い方は、「知らない男」のMummy-Dヴァースである〈そのボンクラと幸せにやんな〉からの引用ではないか? という部分だった。これがなんにでも関連を見出す都市伝説や陰謀論のような論の立て方なのは百も承知だが、それを拡大していくと、「知らない男」に登場する“女性”を“HIPHOP”に置き換えても楽曲は成立するし、それは「阿婆擦れ」と共通すると思い至った。そしてRHYMESTERとの関連性を起点に妄想的に読み解いていくと、「阿婆擦れ」の〈生まれも育ちも/肌の色も貴方のままで良いのよ/ってあの言葉〉という歌詞は、RHYMESTER「B-BOYイズム」の〈生まれ育ち国籍は違え〉からの影響を形にしたものだろうし、〈大した武勇伝も無い俺じゃ〉という部分も、バックグラウンドや個人の持つ物語性ではなく、構造性や構築性、表現性の高さという「K.U.F.U.U」に裏打ちされたRHYMESTERの凄味に影響を受け糧にしてきた、Creepy Nutsのアイデンティティを逆説的に表しているだろう。また、DJ松永の手がけるトラックのジャジーさにしても、SOIL&“PIMP”SESSIONS feat. RHYMESTER「ジャズィ・カンヴァセイション」へのオマージュを感じるし、性的な描写はRHYMESTER「肉体関係 part2 逆featuring クレイジーケンバンド」へのオマージュとも感じられなくもない。また「阿婆擦れ」のラストヴァースである〈y'all and you don't stop〉は、RHYMESTER「And You Don't Stop」の影響としか考えられない!……という妄想が広がっていった。

 さらに妄想を広げれば、「阿婆擦れ」の持つ世界観と非常に親しいのは、RHYMESTERでは「ナイスミドル」である(この曲にもセルフオマージュ的に〈y'all and you don't stop〉という歌詞が登場する)。しかし「ナイスミドル」が、“ナイスミドル”として女性になぞらえられたHIPHOPに対して、ある程度の距離を置きつつ、それでも滾ってしまうリビドーという『黄昏流星群』的なバランスの上に成り立っているとしたら、「阿婆擦れ」は〈必死で腰を振り続ける〉し、自己破壊的なまでに相手を追い求めて、がむしゃらに発情する。その意味でも、HIPHOPという一人の女性を巡って、それを思い出と共に語る「ナイスミドル」と、夢中で追いかけ続ける「阿婆擦れ」は、RHYMESTERに対するCreepy Nutsのエディプスコンプレックスの発露なのではないだろうか……というと、やや妄想が行き過ぎましたかね……。

 韻や構造の具体的な解説はかなり端折ってしまったが、それを一つひとつ解き明かしていくだけでも非常に意味があるであろう「阿婆擦れ」。じっくりとそれぞれのリスナーの視点でも、解き明かしていただきたい曲だ。

(文=高木 “JET” 晋一郎)

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