Creepy Nuts『助演男優賞』インタビュー
Creepy Nuts、“どっちでもない”からできること「ドンキの人ともヴィレバンの人とも、ラップや音楽で戦える」
『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系)で最強のフリースタイラーの名を欲しいままにするラッパーのR-指定と、『DMC JAPAN DJ CHAMPIONSHIPS 2016』のシングル部門で2位に輝いたDJ/トラックメイカーのDJ松永によるヒップホップ・ユニット、Creepy Nutsが2ndEP『助演男優賞』を完成させた。非モテ系ラッパー/童貞DJとしてプロパーなヒップホップの価値観にハマれない様子を若林正恭と山里亮太によるお笑い番組/ユニット『たりないふたり』になぞらえたデビューEPに続き、2人がテーマに掲げたのは、“助演男優賞”からの逆転ストーリー。昨今の世の中に蔓延する風潮からフリースタイル・バトル・ブームに至るまで様々な時事をユーモアで切りながら、同時に全5曲で一人の人間のシリアスな意識の変化を描く、コンセプチュアルな作風を手に入れている。そこに込めた思いと、ブームの真っただ中にいる彼らの現在について、2人に訊いた。(杉山仁)
「白に近いグレー」か「黒に近いグレー」しかない(R-指定)
――今回のリード曲「助演男優賞」は、昨年11月の『Creepy NutsのオールナイトニッポンR』で先行公開した曲ですね。ラフミックスをかけていたのでとても驚きました。
DJ松永:(『オードリーのオールナイトニッポン』のヘビーリスナーとして知られる)僕にとって『オールナイトニッポン』は夢の舞台なので。「ここでかけないでいつかけるんだ」と思ったんです。完成前のラフミックスをかけるなんて、普通誰もしないですけど……。
R-指定:あの日の松永さんは、舞い上がり過ぎてテンションがおかしかった(笑)。今回の作品は「助演男優賞」より先に他の4曲が出来たんですけど、「未来予想図」は今の(フリースタイル)ブームに対する曲だし、「教祖誕生」も何年も温めてきたテーマだし、伝えたい内容ではあるんですけどちょっと全体的に重たいと思って。そのときに俺が「助演男優賞」のサビを思いついて、「これは入り口としていいんじゃないか」と思ったんですよ。
――この曲は、Creepy Nutsが売れるためにイケメンの代替メンバーを立てるという設定の中で、アイドルグループの解散や不倫、不祥事まで、近年の芸能界での出来事を総ざらいしたMVも話題になりました。
DJ松永:あのMVに引っ張られて、「助演男優賞」自体がとんでもない風刺曲だと思われていますけど、曲では何も風刺してないんですよね。MVのストーリー中に、小ネタで分かりやすいものを入れようと思っていったら、とんでもない風刺MVだと思われたという……(笑)。
――Creepy Nutsでの楽曲制作はソロのときとは随分違いますか?
DJ松永:全然違います。R-指定は相方以前に友達なので、考え方とかが凄く近い。常に意思共有出来ている状態なので、テーマを考える時とかすごくスムーズですね。
――続く2曲目の「どっち」も「助演男優賞」と同じくユニットの自己紹介的なトラックですが、言ってみれば「ドンキ(ドン・キホーテ)」が国道沿いカルチャーの象徴で、「ヴィレバン(ヴィレッジヴァンガード)」がオシャレサブカルの象徴になっています。
R-指定:「ドンキは国道沿いカルチャー」って、まさにそうですね(笑)。
DJ松永:クルマが止められないドンキはドンキじゃないからね。新宿のドンキはドンキじゃない。
――(笑)。「(そのどっちにも)俺たちの居場所は無かった/だけどそれで良かった」というラインに、2人の立ち位置が見事に表現されていると思いました。
R-指定:俺らがラジオとかを通して表わしたい人間性も、まさにそういうことなんですよ。
DJ松永:「ヒップホップ」というと、不良=ドンキ側の人間だと思われがちですけど……。
R-指定:「俺らはそうじゃない」と言うと、今度はすぐさまオシャレサブカル側の人間だと思われる……。
DJ松永:最近はロック・バンド界隈のイベントにも出てライブをしているので、なおさらそう見られることが多いんですけど、実際はどっちでもないから「無理に分けようとするのはやめて!」と言いたかったんです。
R-指定:俺は大阪の堺市出身で、松永さんは新潟の長岡市出身で、2人ともその両方の文化に触れて育ってきたんですよね。大阪の田舎も長岡もどっちかというと「ドンキ」的な文化のど真ん中ですけど、音楽を始めて色んな場所に顔を出すと、急に「ヴィレバン」の方に振れることになる。そうやって両方のいいところ/悪いところを味わってきて、つくづく「俺たちはどっちでもないな」と思ったんですよ。
DJ松永:そもそも、一般の人にスポットを当ててみたら、どっちでもない人の割合が一番多いと思うんです。それなのに、「みんな2つに分けたがるのは何で?」って思ってて。
R-指定:「どっち」の歌詞にも<黒に近いグレー/白に近いグレー>という歌詞が出てきますけど、俺らが好きなRHYMESTERさんも、昔からそういうことを言ってきた人たちで(「グレイゾーン」/2004年)。綺麗に分けられるものって意外と少なくて、「白に近いグレー」か「黒に近いグレー」しかない。それは自分の立ち位置や、言いたいことを考えてもそうなんですよ。
DJ松永:だから、「俺らはどっちでもないよ」ということが言いたかったんです。日常会話から生まれた曲ですね。
R-指定:体育会系のカルチャーもそこにあぶれた奴らが作り出す文化系のカルチャーも、結局それぞれにヒエラルキーがあって、「やってることは一緒やん」ってすごく思うんですよ。ただ、2人の中でも「どっちかというとこっち寄り」というのはあるよね?
DJ松永:全体を100と考えると、俺は真ん中から3ぐらいドンキの方に寄ってるかも。
R-指定:俺は松永さんよりもうちょっとドンキ寄りかな。自分でラップをはじめるぐらいなんで、いかついカルチャーに対する憧れも強いし。
――R-指定さんも松永さんも、ギャングスタ・ラップが好きですよね。
R-指定:大好きですよ。ギャングスタや不良の人のラップってホンマに面白くて、カッコいい。自分をさらけ出すような生きざまにぐっとくる。でも、そこに入れなかったときに、文系を隠れ蓑にして「DQNだ」って言うのは違うよなって。もちろん、俺らはどっちの文化にも触れることができたから、こう考えるんだと思うんですけどね。どっちかの文化圏にしかいないまま世の中に認められたら、そのまま調子に乗ってしまう気持ちも分からなくはないし。この曲では、自分たちの立ち位置ぐらいは表明しておこうと思ったんです。
――2人の場合、ギャングスタ・ラップにも通じる「自分をさらけだすこと」を正直にやると、自然と「どっちでもない」という選択肢に辿りつくということですか。
R-指定:まさにそうです。俺らは冗談半分で「俺らって日本で一番ヒップホップやな」という話をするんですけど、それは自分たち自身をリアルに語っているという意味なんで(笑)。
DJ松永:痛みの形が違うだけで、フラストレーションをリアルに書いてますからね。