Creepy Nuts、楽曲の構造性やラップスキルに注目 「阿婆擦れ」にはRHYMESTERの影響も
Creepy Nuts「阿婆擦れ」のリリックは、“構造”で成り立っている
前置きが長くなったが、そういった意識を、“作品として”強烈に押し出したのが、Creepy Nutsの「阿婆擦れ」だろう。とにかくこの曲のリリックは、これでもかと言うほどに“構造”で成り立っている。その要素のまずひとつは、細かく踏む韻と長い韻を織り交ぜたライミングなのだが、これは聴感で感じ取ることが出来ると思うので、勝手ながらそこは割愛する。
もうひとつ、構造として成り立たせているのは、“上手いこと言う”展開と曲の組み立て方だ。冒頭の〈俺はキープかアッシーか?/所詮はSucker MCか?メッシーか?/お前が俺としたいのは口喧嘩/ただのディベート相手でしか無いってか?〉という部分だけ取り上げても、非常に細かい構造で成り立たせていることがわかる。
まず〈キープ〉〈アッシー〉〈メッシー〉という、いわゆる平野ノラ的なバブル用語を使用。これは後述するが、この曲のテーマである“悪女に翻弄される”という意味合いを強化させる作用がある。しかし、この間に〈Sucker MC〉を織り込むことで、“サッカー”で〈メッシ〉という、ファニーな“上手いこと言う”部分をパック。そしてMCにかかる罵倒語だが、ここでは“WACK”ではなく〈Sucker〉を使うことで、『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系)においても2代目のラスボスとして起用されたように、MCバトルの猛者である自分を卑下するように使う、続く〈口喧嘩〉というワードと、“口”という部分が繋がっていく。かつ、そこに〈ディベート〉を繋ぐことによって、“バトル≠口喧嘩≠ディベート”という、バトルに対する自らの観念も明らかにする……というように、冒頭の4行だけでも強迫観念に取り憑かれたように、韻と構造を埋め込んでいく。これを逐一解析すると、この時点ですでに編集部からのオーダー文字数を超えているのに、さらに伸びてしまうので、そういった部分もここで終わりにするが、こういった言葉を入れ子にすることで“上手いこと言う”表現が、エンディングまでひたすら続くのが、この曲の特徴だろう。
そういった構造の部分に加えて、より本質的なことを分析すると、この曲のタイトルであり、テーマである「阿婆擦れ」という設定が興味深い。恐らく、というか当然ながら「ビッチ」という言葉を日本語に置き換えたであろうこのタイトル。この曲のなかで、Creepy Nutsはその阿婆擦れにひたすら振り回されるし、この女性は、男にとっては非常に“嫌な女”だ。では、なぜ嫌な女なのだろうか。それは“思い通りにならない”からだ。その意味では、この曲の「阿婆擦れ」という言葉には、Nas feat A.Z.の「Life's A Bitch」に近い、“ままならなさ”が仮託されている。これは人からの伝聞なのだが、いわゆるここ最近日本で使われるような、(あえてこの言葉を使うが)「ヤリマン」という意味では、アメリカでは「ビッチ」という言葉は、あまり使われていないという。むしろ“男や男社会に対して思い通りにならない強い女性”という意味で、ポジティブに使われることもあるほど(とはいえ、使い方によっては女性を下に見た意味合いも当然あるので、一義にまとめるとこは出来ないが)。そして、この曲においての「阿婆擦れ」とは、当然のことながら“HIPHOP”である。それはCommonの「I Used to Love H.E.R.」から流れる、“HIPHOPを女性になぞらえる”テーマであり、その意味でも、HIPHOPという、男性優位な側面が未だに強いカルチャーにおいて、“ままならないもの”として、女性性を持つ「阿婆擦れ」を置くのは、「Life's A Bitch」と「I Used to Love H.E.R.」の合わせ技という意味でも、非常に理にかなっている。