Creepy Nuts『INDIES COMPLETE』発売記念企画(2)
Zeebra×鹿野 淳のヒップホップ×ロック対談 Creepy Nutsとの出会いやシーンでの存在感語る
R-指定とDJ松永によるヒップホップユニット・Creepy Nutsのインディーズ時代の楽曲を網羅したアルバム『INDIES COMPLETE』が7月25日に発売された。リアルサウンドでは本リリースを記念し、Creepy Nutsの活躍をインディーズ時代から見届けてきた人々へのインタビューを2回に分けて公開する。1回目のhime(lyrical school)に続き登場するのは、Zeebraと音楽ジャーナリストの鹿野 淳。両者が考えるCreepy Nutsの魅力や存在感とともに、ヒップホップとロック、時代の流れとともに変化するそれぞれのシーンについても語ってもらった。聞き手は高木 "JET" 晋一郎氏。(編集部)
人間性と違いない音楽を作っていると思った(Zeebra)
ーーこの対談はZeebraさんと鹿野さんの対談形式で進められればと思うのですが、まずその前提として、お二人がCreepy Nutsに出会ったきっかけを伺うところから、お話を始められればと思います。まず、ZeebraさんがCreepy Nutsを知ったきっかけは?
Zeebra:入り口はR-指定でしたね。MCバトルの頂点を取った人間というと、やはり晋平太とR-指定の二人が真っ先に挙げられると思うんですが、その部分で注目をしたのが最初ですね。
鹿野:その時のRくんの印象はどうだったんですか?
Zeebra:基本的には、今に繋がる陰キャラな印象ですよね(笑)。でも言葉の引き出しだったり、駆け引きだったり、とにかく頭の回転が速いなと。そこからソロやCreepy Nutsの音源に触れたんですが、人間性と違いない音楽を作っていると思いました(笑)。
ーーそしてDJ松永くんとの相乗効果で、より闇が深くなっていくという。
Zeebra:そうそう(笑)。
鹿野:ヒップホップの中で、Rくんのように勝ち上がっていく存在は稀なんですか?
Zeebra:何をもって勝ち上がるかを決めるのは難しいですが、バトルという面だけで言えば、『ULTIMATE MC BATTLE』を2連覇した晋平太や3連覇したR-指定、昔だと『B BOY PARK』3連覇のKREVA、現状だと『KING OF KINGS』を2連覇中のGADOROがそういう存在だと思います。そういった明確な称号を手にしているラッパーは、数少ないですね。
鹿野:Rくんのように、不良的ではない存在が日本のラッパーの頂点に立つ時が来るというのは、 Zeebraさんとしては想像していましたか?
Zeebra:ただ、あくまでも「MCバトル」での頂点ですからね。MCバトルはフリースタイルラップの戦いを競技化したもので、それに勝ったイコール一番ラップが上手いとはならない。フリースタイルをしないラッパーも居ますんで。それに「ヒップホップの頂点」というのは、いまの拡大したヒップホップシーンの中では決められないと思う。
鹿野:では、彼がMCバトルで勝利した理由はなんだと思いますか? 批評性や客観性ですか?
Zeebra:MCバトルの「ゲームや競技」の部分を把握していないと、あそこまでトップにはいけないと思いますね。それに、ちょっとフリースタイルができるレベルで、あの段階にはもちろん登れないし、 MCバトルでどう勝つかについて、本当に研究していたと思います。
鹿野:僕はAbemaTVで『Abemaスター発掘5週勝ち抜きゃ100万円』というロックバンドのオーディション番組の審査員をしていたんですが、1年で終わってしまったんですね。その原因の一つに「勝ち負けに面白さがなかった」という部分があると思うんです。音楽性の勝ち負けは決めづらいし、故に勝ち負けよりもストーリーや浪花節的なバックグラウンドがバンドという体系には重要で、さらに審査員が何を言うのかが番組として重要視される。でもバンドや審査員の僕らはタレントではないから、あえて面白いことを言えるわけでもないので、そうすると番組として「面白くない」ということになってしまったんだと思うんです。でも、MCバトルは「音楽」でありながら、「勝ち負けの勝負」もスポーティーに成立しますよね。しかも、それが『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系)として民放で放送されるぐらい、エンターテインメントとして成立している。そういった環境が整った背景に、世代の変化や時代は関係しているんでしょうか?
Zeebra:大きく言えば関係してると思いますね。2000年ぐらいにはちょいちょいMCバトルは始まっていたんですが、その時は「ヒップホップシーンの中の一つのコンテンツ」だったし、どちらかと言えば「ヒップホップ全体」に注目が集まっていたと思う。そしてヒップホップブームの流れが去った後に、MCバトルの持っている競技性やバトルの面白さが注目されて、バトルブームが起きたのかなって。そして、今のMCバトルブームの起点になっているのは『BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権』(『高ラ選』)だと思うんです。『BAZOOKA!!!』には、僕も準レギュラーのような形で関わってたんですが、スタッフと「中高生に刺さるようなものが作りたい」という話になって、そこで「じゃあMCバトルはどうですかね?」という話になったんですよね。ただ、今のようにバトルがブームなっている時ではなかったから、正直どうなるかは分からなかったし、実際、第1回に登場した高校生MCは、8人しかいなかった。
鹿野:それはどれぐらいの数なんですか?
Zeebra:今から考えると、とんでもなく少ないですね。でも、その中からT-PABLOW(2WIN/BAD HOP)が登場したり、可能性と手応えを感じる内容にもなっていて。それで、放送を重ねることで、出演者も増え、評判も上がって、バトルが中高生の中で一つのトレンドになったんですよね。
ーー番組がYouTubeにアップされたことも大きかったですね。
Zeebra:そう。そこで中高生が食いついてくれたし、この層は大事だなと思ったんですよ。
ーーその大事さは具体的に言うと?
Zeebra:僕らも20年前に、その世代のファンを沢山手に入れたんだけれども、そのファンをそのまま連れてきてしまった。だから気がついたら、みんなで一緒に大人になっていて、「10代のリスナー層」に、ぽっこり穴が開いていた。それがヒップホップが一度下火になった一つの理由だと思っていて。だけど『高ラ選』を通して、いまの中高生が、MCバトルを中心にしたり、きっかけにした形ではあるけれども、ヒップホップを新鮮なものとして捉えてくれた。そこで再びヒップホップブームが起こったと思うし、「ティーンエイジャー恐るべし」と思いましたね。
鹿野:僕の知っているZeebraさんは、「頑固なヒップホップ原理主義的」というイメージがあるんですね。そのZeebraさんが、 フリースタイルというある種のスポーツを、ヒップホップという音楽といかに融合させるのかについては、どう考えられていますか?
Zeebra:ん~、「ヒップホップリスナー」と、 「MCバトルのオーディエンス」が離れてしまっている感じは確かにありますね。
鹿野:そういった状況の中で成長している中高生たちが、 MCバトルとヒップホップミュージックを切り離すのではなく、総合した形で日本のヒップホップというものを成長させて、新しい日本のヒップホップというマーケットを作り得る可能性はあると思いますか?
Zeebra:もう、そうなりつつあると思いますね。僕は毎年『SUMMER BOMB』というフェスをやっているんですが、今年はメンツがほぼ20代なんですよ。
ーー「バトルに出ていた/出ていない」「バトルに影響を受けた/受けていない」という意味ではなくて、現在20代の、世代的に「バトルブーム」の発生以降に登場したアーティストの元気さは、目を見張るものがありますね。
Zeebra:去年ぐらいから、その世代交代は感じています。いま現在ホットな子は、それぐらいの世代が中心になってるし、それをピックアップしても、全く間違いがないくらいに充実していて。今はより若い世代が中心になるべきだと思いますね。