けいおん!、ハルヒ、ユーフォニアム……京都アニメーションの“音”へのこだわり
いきなり私事で恐縮だが、筆者は毎年秋になると首都圏各地の高校の文化祭に出向き、軽音楽部のステージを観覧。そこでコピーされる楽曲のセットリストを作る、半ば道楽、半ば仕事みたいなことをやっている。この作業をしていると当然ながら若い子たちの好きな音楽の傾向が見えてくる。例えばここ1〜2年はWANIMAとSHISHAMOの『NHK紅白歌合戦』組に加えて、夜の本気ダンス、ヤバイTシャツ屋さん、My Hair is Bad、ポルカドットスティングレイあたりが人気だな、といった具合に。そして2010年代に入って以来、常に高校生バンドマンに愛され続けている1曲があることにも気付かされる。それが桜高軽音部「Don't say "lazy"」だ。
ある種のDJ的・選曲家的とも言える京アニ制作陣の音楽的センス
今さら説明不要だろうが、この曲は2009年のテレビアニメ『けいおん!』のエンディングテーマ。劇中軽音部バンドの所属メンバーを演じる声優陣で結成されたユニット・桜高軽音部(のちに放課後ティータイムと改名)が歌っており、リリース当時、オリコン週間シングルランキングで2位を記録した。その人気は“リアル軽音部”にも波及し、アニメ人気がピークを迎えた『映画けいおん!』上映直前の2011年秋には各校軽音部において「Don't say "lazy"」は圧倒的な人気を誇り、またアニメ本放送から10年近く経った今もなお、文化祭が初舞台なのだろう1年生部員たちがコピーする入門編的1曲として愛されている。
この桜高軽音部・放課後ティータイムのヒットの影には当然ながら『けいおん!』人気、ひいてはアニメを制作した京都アニメーション(京アニ)の実力がある。ここで指す“実力”とは女子高生たちのなんともノンキな日常を緻密に描いたその映像制作集団としての能力はもちろんのこと、ある種のDJ的・選曲家的とも言える京アニ制作陣の音楽的センスの良さも含まれる。事実『けいおん!』においてアニメ制作陣はオープニングテーマは劇中におけるリアルタイムの軽音部員たちがいかにも撮影しそうな映像処理を施し、エンディングテーマはもしも桜高軽音部・放課後ティータイムがメジャーデビューしたら制作されそうなPVのイメージと、その映像の巧拙のグラデーションをつけていたという。
その後のアニソンの方向性を決定づけた革命的な1曲
京アニの音楽へのこだわりはなにも『けいおん!』に始まった話ではない。これこそ読者にとっては言われるまでもことだろうが、2006年放映の『涼宮ハルヒの憂鬱』第26話「ライブアライブ」でも“音楽家”京都アニメーションの実力を見せつけている。さるトラブルに見舞われた軽音部に代わって、ひょんなことから文化祭のステージに上がることになった天才たる涼宮ハルヒと、宇宙の大意志的なサムシングと直接アクセスできる長門有希が原作小説曰く「マーク・ノップラーかブライアン・メイかと思うようなギターテクニックで超絶技巧」を自らにインストールした上で披露しており、その様子(つまりはギター運指)をさすがの作画力で見事にビジュアル的に再現してみせて、アニメファンだけでなく音楽ファンの度肝を抜いた。またさらに『〜ハルヒ』のエンディングテーマ「ハレ晴れユカイ」や、次回作にして2007年放映の『らき☆すた』のオープニングテーマ「もってけ!セーラーふく」では、それら楽曲に乗せてリアリティあふれるアイドルダンスをアニメーションにおいて表現。それがウケ、YouTubeやニコニコ動画上にはアニメのダンスをマネた“踊ってみた”動画があふれかえった。ここにも優れた楽曲の魅力をこれまた優れた映像表現で倍加してみせる“音楽家”京アニの実力が表出しているのだ。また「もってけ!セーラーふく」においては、バッキバキのスラップベースと、マッシュアップのさらに上をいく、ジャンルのごった煮的サウンドで、その後のアニソンの方向性を決定づけたという点でも革命的な1曲だとも言える。